夜明 奈央
2024-05-06 10:02:29
1498文字
Public 中太SS
 

クーラー

夏に設定温度争奪戦をする話
2022年8月7日初出

 寒い。太宰はあまりの寒さに目を覚ました。身体を起こそうとしたが、自分の身体に纏わりついている中也が鬱陶しくて横に押しやる。手足は夏とは思えない程に冷え切っていた。
 時計を見ると、寝入ってからまだ1時間程しか経っていなかった。空調機がゴーと音を立てて風を吐き出す。冷風が直接太宰の身体に当たり、ぶるりと身震いした。足元で蟠っているタオルケットを肩まで引き上げてから、空調機のリモコンを探す。すぐに見つけたそれは地球に優しくない温度を示している。確かに眠りに就く頃は2人して身体が火照って暑かったが、それにしたってこれはやりすぎだろう。寒いはずである。エコなどに興味はないが設定温度を一気に10℃上げた。ピッピッと煩く電子音が鳴った後、風が幾分穏やかになったのを確認してから再び寝台に沈んだ。

 暑い。中也はあまりの暑さに目を覚ました。身体を起こそうとして太宰がくっついているのに気づき、反対側に転がす。全身に汗が滲んでいて、手近にあったタオルで乱暴に拭う。
 窓の外を見るがまだ明らんでもおらず、時計を確認すれば夜明けまでも遠い。冷房を入れていたはずなのに何故こんなにも暑いんだ。リモコンを探すと、寝る前と位置が変わっており、設定温度も変更されていた。犯人であろう隣で眠る男を見る。確かに、寝る時には使っていなかったはずのタオルケットを首元までしっかりと被っている。寒かったのか、と思うと少し悪い気もするが、ここは横浜の一等地である。コンクリートジャングルは夜でもそこまで気温が下がらない。流石にこれはやりすぎだろう。設定温度を2℃下げ、少し迷ってからもう1℃下げた。冷風が吐き出されてくるのを確認し、再び寝台に潜り込んだ。

 寒い。太宰はあまりの寒さに目を覚ました。身体を起こそうとすると中也の腕が背中に載っている。重い中也の身体を押しやるのも億劫で、そのまま無理に身体を起こすとばたりと腕が落ちた。
 窓の外は明るくなり始めている。明け方だった。この時間帯は1日のうちで最も気温が低い。外の気温が下がったから冷房が効きすぎているのだろう。起きる時間までぐらいならもう切っても大丈夫か、と思ってリモコンを探すと、太宰が置いた位置と変わっている。確認すると、案の定設定温度も下げられている。呑気に寝ている犯人に腹が立って脇腹を蹴るが、幾許か横にずれた程度で無反応だった。思わず漏れたため息は誰にも届かずに空間に飲み込まれた。冷房を切り、再び寝台に横になった。

 暑い。中也は茹だるような暑さに目を覚ました。首筋に張り付く髪の毛が不快で、乱暴に掻き上げる。だというのに太宰がすぐ傍で寝ていて、くっついていた部分の服は色が変わる程濡れている。少しでも離れようと寝台から抜け出した。
 外はすっかり明るくなっていて、今日も暑くなりそうな日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。それにしたって暑すぎだろう。と思って空調機を見ると、案の定沈黙している。ふざけんなよ。リモコンを手に取りスイッチを入れると勢いよく稼働し始め、すぐに冷たい風が吹き付けてきた。しばらくそのまま涼んでいると、太宰がのっそりと起き出してきた。
 
「てっめぇ、勝手に冷房切ってんじゃねぇよ」
「寒かったんだから仕方ないでしょ」
「仕方なくねぇよ。見ろよ、これ。手前の所為で服びちょびちょなんだけど」
「君がくっついてくるからでしょ。暑いなら離れてよ。重いんだよ」
「くっついてきてんのは手前だろうが」
 
 起きて早々、言い争いがキャンキャンと響きわたる。だが結局、違う部屋で寝ようとはどちらも言い出さないのである。


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