太宰さんが作戦の説明を終え、ヘリコプターの準備ができるのを待つ間、当機たちの間にはなんともいえない沈黙が漂っていました。きっと緊張しているのでしょう。これは、当機が皆さんの緊張を解してあげなくては。そう思って、当機は口を開きました。
「アンドロイドジョークはいかがですか?」
中也様が呆れた目でこちらを見ました。なぜでしょう。ちなみに白瀬さんは既に安全な場所へ避難しています。
太宰さんは「へぇ」と感嘆の声を上げ、「ぜひ聞かせてくれるかな」と促してくれました。それを聞いた中也様がうんざりした顔で天を仰ぎましたが、せっかく期待されているのですから、その期待に応えないわけにはいきません。意気揚々とジョークを披露しました。
「当機が図書館を利用するために、貸出カードを作ろうとしたときのことです。必要事項を記入し、後はカードができるのを待つばかりと思っていたら、なんと作れないと言われてしまったのです。何故かと尋ねると、『税金払ってないでしょう』と」
「なかなか興味深いね」
太宰さんが褒めてくれました。中也様は、当機たちの会話を無視することに決めたようでした。
「でも、それだと僕も当てはまると思うんだよね」
「どういうことでしょう?」
「だって、マフィアが納税なんてしてると思う?」
「なるほど。それは盲点でした」
納税は国民の義務と言われているので、当然皆さんもしているものだと思っていましたが、確かに非合法犯罪組織が義務を負っているとは思えません。このネタを使う相手は今後選ばなければならないということでしょう。1つ勉強になりました。
「せっかくだから僕も自殺嗜癖冗句でも披露してあげようか」
自殺嗜癖? 一体どういう意味でしょう。当機の知識モジュールにはなかったため、質問しようとしましたが、それより先に太宰さんが話し始めました。
「少し前に首領から生命保険に入るように言われてね。当然普通の保険には入れないんだけど、一応僕たちみたいな犯罪組織向けの保険が存在しないこともないんだ。月々の掛け金だけでちょっとした不動産が買えそうな額なんだけど、規約も緩くって、まあ非合法組織でも重要な地位についてる人間は結構入ってる。けど僕は規約に引っ掛かってそれに入れなくってね。何故かわかるかい?」
突然話を振られて困惑しました。質問の答えもわかりませんが、そもそもそんな保険が存在することすら初耳です。本当に存在するのでしょうか?とても採算が取れるとは思えません。今度調査してみなければ。
当機の返答を待ちきれなかったのか、太宰さんは答えを言いました。
「数少ない規約のうちの1つの『1ヶ月以内に自殺未遂をしていないこと』っていうのがいつまで経っても満たせなくってね」
太宰さんは、ふふふ、と本当に冗句を披露した後のように笑うのですが、当機にはよく意味がわかりませんでした。助けを求めて中也様の方を見ると、視線をさっと逸らされました。
「あれ、面白くなかったかな。じゃあこっちはどうかな。こないだ長らく熱心に口説いていた女性からついに逢瀬のお誘いが来てね。でも断ったんだ。何故かっていうと日付が1週間後だったんだ。残念だけど、1週間も生きている保障はできないからね」
確かにマフィアというのは危険な仕事です。ですが、人間というのはそういう未来の約束があった方が、生きようという気力が湧いてくるものなのではないでしょうか。当機の知識とは合致しません。もしかして、当機の知識は間違っているのでしょうか。
すると、横で黙って聞いていた中也様が「もうそこらへんにしとけよ」と太宰さんを制止しました。
「えー、面白くなかった?」
「面白いわけねぇだろ」
そのまま言い合いを始めた2人は大変仲が良さそうで、ほどよく緊張も解けたようです。よく意味のわからない部分はありましたが、当機の当面の目的は果たしたといえそうです。
「手前、次の休みいつだよ」
「今のところ3日後の予定だけど、今日の結果次第だね」
「あっそ。なんでもいいけど前日の夜空けとけよ」
「君が元気に動き回れるならね」
はて、1週間後は生きている保障はないとのことでしたが、今日の戦闘の後は生きている保証はあるのでしょうか。人間とは不可解です。
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