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夜明 奈央
2024-05-06 09:23:53
2013文字
Public
中太SS
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ワンライ「本番」
初めての色仕掛けに挑戦した中也と練習を手伝った太宰
2022年6月25日初出
「君、本番に強いタイプだと思ってたんだけど」
「うるせえ黙ってろ」
僕の勘違いだった?とでも続きそうな台詞を間髪入れずに遮った。自己嫌悪で十分ダメージを受けている今、揶揄って馬鹿にする気満々の性悪の相手をする気力はなかった。
だが、そんなこちらの事情など考慮する気はない(というよりわかっていて追い打ちをかけるつもりの)相手が要求通り黙っているわけも当然ない。
「散々練習したのに、何がダメだったの?」
太宰は呆れたようにぼやいて許可も取らずに隣に座った。
そう、練習したのだ、この太宰相手に。
今回は初の潜入任務だった。相手はマフィアのシマで武器の密輸をして一稼ぎしている連中で、パトロン兼組織の重要人物である女の下に入り込み、情報収集をするのが目的だった。女は若くて綺麗な男を囲むのが好きだと聞きつけ、それを利用して潜入することになった。ただ、屋敷には異能力をもった警備員が何人も配置されているため一般の構成員では不安だということになり、中也にその白羽の矢が立ったのだった。急ぎではなく、失敗しても挽回可能で、おそらく数日で済む潜入中に女の性格上最後まで相手をする必要がないであろうという条件が、初めての潜入に相応しかったという事情もある。
ただ、失敗はしないに越したことはないので、事前に練習をしたのだ。中也はそんなもの必要ないと突っぱねたのだが、「なら僕を誘惑してみせてよ」と言った太宰に未経験の中也がそう簡単に対応できるわけもなく、このムカつく男を相手に表情やら仕草やらの指南を受ける羽目になったのだった。
ちなみに同い年であるはずの太宰が何故そんなに手馴れているのか疑問に思って聞いたら「君とは年季が違うからね」とはぐらかされた。
そうして迎えた本番のこと。上手く屋敷に忍び込み、標的の女が練習の甲斐あってか中也を気に入り、夜の茶会に誘われたところまでは良かった。事前に聞いていた通りしばらくはお喋りを楽しむばかりで何のアクションもなく、このままこっそり茶に仕込んだ睡眠薬が効きはじめれば任務完了だと思っていると、ふいにうっとりと見つめられて手を取られ、怖気だってしまった。振り払うのは咄嗟に堪えたが、続いて腰に回された手で尻を撫でられ、耐え切れずに相手を突き飛ばし、激怒した相手にあえなく屋敷から追い出されることとなった。屋敷に入ってからここまで僅か1時間程度の出来事である。ちなみに練習は約1週間に及んでいる。
周囲で監視していた他の人間がしばらくして眠り始めた女の部屋に忍び込み無事目的を達成したということだけがせめてもの救いである。それなら最初から潜入する必要はなかったのではないかと疑問は残るが、作戦立案した性悪が素直に認めるとはとても思えないので、文句は言えないままである。
「あの女、まだ若いしなかなかの美人だったじゃないか。胸はそんなになかったけど。でも仕事なんだからさ、多少好みと違うぐらい我慢しなよ」
中也が答えないので太宰はぺらぺらと1人で喋り続けている。
「それとも緊張でもした? それならそう言えばまだ誤魔化せたのに。ねえ、聞いてる?」
俯いていた顔を無理やり上げさせられて、渋々返事をすることにした。
「生理的に無理だったんだよ。しょうがねぇだろ」
すると太宰は予想外のことを言われたとでも言わんばかりに目を丸くした。そして中也をしげしげと観察する。居心地が悪くなって、結局また俯いた。
「僕と接吻したときには大した抵抗もしなかったじゃないか」
予想通りではあったが、なるべく触れられたくなかったことを直球で尋ねられた。そう、この男は練習だといって中也に接吻までしていたのだ。その後、「噂によると侍らせるのが好きなだけだから、余程気に入っても1日2日でここまで相手をさせられることはないらしいよ」と告げられ、側頭部に渾身の拳を叩きつけたのは記憶に新しい。
常日頃から嫌いだと豪語している男相手は良いのに、中也より10歳以上は上だがそれなりに若くて綺麗な女性相手が耐えられなかった理由など、中也にだってわからない。わかりたくないだけともいえるが。なんと返事をしていいのかわからず、太宰の次の言を待つが、一向に何も言う気配が見えず、ちらりと様子を窺うと、珍しくいくらか血色の良い横顔が目に入る。先程見たときにはいつも通り不健康そうな顔色を晒していたはずであるのだが。というか、これは血色が良いというより
……
。
「お前なんか顔、赤」
「あ~、もう僕帰るから! 中也みたいに暇じゃないんだよ!」
不自然に上擦った声で中也の言葉を遮り、がばりと立ち上がった太宰は振り返りもせずにそそくさと扉に向かう。これではまるで。
「照れてる?」
「失敗した癖に調子乗らないでよ!」
太宰の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、笑いが込みあげてくるのを止められはしなかった。
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