夜明 奈央
2024-05-06 09:19:57
1571文字
Public 中太SS
 

ワンライ「ロックオン!」

狙われたのはどちらか *暴力表現注意
2022年6月19日中太Webプチオンリー「夜の真ん中でダンスを!」#中太オンプチ1dw 参加作品

 太宰は来る者拒まず去る者追わずと思われがちである。まあ実際そういう部分もあるのであながち間違いではないのだが、それなりに好みのタイプというものもあるし、自分が気に入った人間には我ながらびっくりするぐらいに執着するので、そういう評価はちょっと違うんじゃないかなと思っている。まあ、あえて否定はしないが。
「はあ、どうせ手前は相手なんて誰でもいいんだろうが」
 そう言ってため息を吐く元相棒を見ると、少し前言を撤回したい気持ちも湧いてくるのだが。如何にも面倒だというようにぞんざいに扱われるのは、自分が気の置けない仲であるからだと信じたい。
 目の前にいる悪趣味な服(室内なので帽子は脱いでいる)に身を包んだ男は中原中也。何を隠そう、太宰がちょっと自分でも引くくらいに執着している自覚のある相手である。あの手この手で丸め込み、どうにかこうにかそういう仲に収まることには成功したが、生憎完全に手に入れたとはまだいえない状況であった。太宰が欲しいと思う大半のものは簡単に手に入るのに、一等欲しいものに限ってなかなか手に入らないのは、今に始まったことではなかった。

 君が私だけを見てくれるなら、他の相手なんて全部切ったっていいのに。
 心の中だけで呟く。どうせ信じてもらえないのはわかっているから、口にはしない。こちらは本気だというのにおざなりな返事で流されるのは、ちょっとどころではなく腹が立つ。日頃の行いが悪いのだということは自覚しているけど、だって、7年も片想いしているのだ。自分を好きだと言って優しく慰めてくれる相手に少しぐらい心が揺れることがあったって許してほしい。気持ちに応えるつもりはないのにこちらにだけ一途を求めるというのは理不尽としか言いようがない。

「あ? なんだよ。手前から誘った癖にヤる気ねぇのかよ」
 太宰が心の中でぶつくさと文句を唱えているのを勘違いした中也が顔を顰める。セックスしたいのは中也の方だと思ってやってきたし、実際中也だってそういう気分だったはずだ。普段から太宰がヤりたいなら仕方なく、という体をとっている中也だが、こうも渋々といった態度を全面に出されると、流石の太宰も興が削がれる。
 やっぱり今日は帰るよ、と口に出そうとしたところで鎖骨のあたりにガブリと噛みつかれ、太宰の身体はびくりと跳ねあがった。
「痛っ! ちょっと、少しは手加減してよ」
「手前が集中しねぇからだろうが」
 中也はイライラとした態度を隠そうとしない。噛み跡にはじわりと血が滲み始めている。
 こういうときの中也を相手にすると痛い目にあう。比喩表現ではなく、物理的に。
「痛いのは嫌っていつも言ってるでしょ。これ以上するなら今日は帰るよ」
 太宰が身体を起こそうとしたところで、気付いた中也に関節を押さえこまれる。このちびはみっしりとした筋肉を備えているので、身長に見合わず重量がある。ただでさえ非力な太宰は真上からのしかかられるととてもじゃないが太刀打ちできやしない。
「帰るって言ってるでしょ」
「逃がすわけねぇだろ」
 にやりと獰猛な笑みを浮かべた中也がそのまま関節にあらぬ方向へと力を掛けてきて悲鳴をあげる。
「痛い痛いちょっと痛いってば肩外れるって」
「あぁそうだな。肩でも外せば大人しくなんだろ」
 中也が楽しそうにさらに力を加え、太宰の口元がひくりと引き攣る。
「いや、あの、帰らないからそれは……
「あ、そう。なら肘で勘弁してやるよ」
 言うが早いかごきりと嫌な音が鳴り、遅れて太宰に激痛が走る。
 太宰はギリギリで悲鳴を飲み込んだが、目にはうっすらと波が浮かんでいた。それを中也がぺろりと舐めとる。
「今日は朝まで付き合えよ」
 凶悪に微笑む中也の顔にぞくりと興奮が駆け上る。

 捕まったのはどちらか。


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