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夜明 奈央
2024-05-06 09:15:16
1222文字
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中太SS
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ワンライ「大人になった」
現パロ 幼馴染中太が大人になって再会する話
2022年5月7日初出
「大人になったら、一緒にどこか遠くへ行こう」
それが、幼い太宰の口癖だった。
中学に上がる頃には、「一緒に」と言わなくなった。
高校に上がる頃には、それについて言及しなくなった。
お互い大人になったんだ。そりゃ、小さい頃とは考えも変わって当然だった。
だが、そう思っていたのは中也だけだったようで、太宰は高校を卒業すると同時にこの街を去った。育て親にすら何も言わずに。
太宰はこの街を出ることを諦めたわけではなかったのだ。「中也と一緒に出る」ことを諦めたのだ。中也がそれに気付いたのは、音信不通の太宰の行方を育て親である森に尋ねたときだった。
「それが、どこに行ったのかわからなくてねぇ。まあ、死んだら流石に連絡があるだろうから、きっと生きてはいるんじゃないかなあ」
あっけらかんと答えた森は、おそらく太宰が消えることを予想していた。中也とは違って。
太宰と連絡が取れなくなって、1週間が経過していた。高校を卒業し、慌ただしく進学準備を進める春休みのことだった。
それから4年の間、会っていなかった。
***
とある週末のことだった。日頃の鬱憤を晴らすために飲んでから帰宅すると、何者かが中也の部屋の前に立っていた。
「あんまり遅いから、今日は諦めて帰ろうかと思っていたところだったよ」
当然の顔をして笑う見慣れぬ恰好をした男は、あの日姿を消して以降、音信不通となっていた太宰だった。
「ね、上げてよ。昼間は暖かくなってきたけど、流石に朝晩はまだ冷え込むねぇ」
4年振りだというのに、まるで昨日も会っていたかのように軽口を叩くので、中也も黙って家に上げた。
聞きたいことは山程あった。どこに行っていたんだとか、今まで何をしていたんだとか、どうして何も言わずに消えたんだとか、何故自分を置いていったのかとか。
そのどれも、口にするのを躊躇う。そうさせたのは自分だとわかっていたから。高校も大学も、家から近いという理由で選んだ。親に負担を掛けたくないという思いはあった。でもそれ以上に、太宰と一緒にいる術を、中也は他に知らなかった。ただの友達だったから。引き留める権利なんて持たなかったから。
太宰はきっと、そんな中也に失望して置いていった。
「どうしてここがわかったんだ?」
太宰が知っている中也の実家は隣街だった。
「なに、大抵のことは調べればわかるよ」
「わざわざ調べたのか」
「そうだよ。君に会いたくて」
置いていったくせに。喉まで出かかった言葉を寸でのところで呑みこんだ。
「もう、大人になったから。お互いどこへでも行けると思って」
そこで太宰は1度言葉を切った。
「ねえ、私と一緒に、どこか遠くへ行かないかい?」
それは、あの日の中也が心の底から欲していた言葉だった。
そして、今、最も聞きたくない言葉でもあった。
大人になった中也は、もう、簡単には太宰の手を取ることはできない。
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