2023-08-27 11:11:58
1898文字
Public 小説
 

全かれぬ世界

旧版です。四編をまとめた加筆修正版はこちら。
https://privatter.me/page/663774a7ec110

i7劇中劇ワンドロワンライ(https://twitter.com/2023i7ge)参加作です。

お題『ダンスマカブル』『My precious world』『フリー/自由投稿』

抽象的ではありますが、お題全部盛り。フリー/自由投稿は「自由に投稿(放送)する」という解釈で捩じ込んでいます。
今回の企画のラストなので、総括的な雰囲気を意識しました。最初と最後の一文はそういう装飾でありつつ、世界からの「死の舞踏」への誘いでもあります。

クヴァルとロイエの思い出話、クウラも少しだけ顔出し。
エーテルネーアは誰に「甘かった」のか、について。
タイトルは「まったかれぬせかい」と読ませる気持ちです。捏造語です。

プロット時間含まず本文作業のみで90分。1896文字。

 私と、踊っていただけますか。

 ×     ×     ×

「あれ、クヴァルくんじゃない。久しぶり」
「ご無沙汰しています、ロイエ隊長……ロイエ様」
 リベリオンのアジトにて。ふらりと現れたかつての上官に、クヴァルは立ち上がり姿勢を正した。
「クウラくんに用事?」
 クヴァルは頷き、手にした無骨な機械を目の高さに掲げた。
「送信機の調子が良くなくて。声にノイズが入ってしまうので、点検と調整をお願いしたく」
「ふうん」
 ロイエは気の無いふうに返事をして腰を下ろし、身振りで座るようにと促す。椅子を向かい合う位置に動かして、クヴァルも座った。ごつごつとした黒い装置は膝の上に置き、なんとはなしに撫でる。
「ここのところ、移動しながらの放送が多かったため、どこかで破損してしまったのかもしれません。注意はしていたのですが」
「なんか紀行番組みたいになってて面白いよね。自由で。でも、アークも傍受しているだろうし、位置は特定されないようにね」
「そこはアルムも細心の注意を払っています」
 地上のさまざまな場所で、空の色、風の音、土の匂いについて、アルムは感嘆を込めて語る。それを聞いて地上に住む者たちはひととき手を休め、ぐるりを見渡す。
 そうして、思いがけず、自分たちの美しい世界を見つける。

 クヴァルは指先で装置のつまみをいじりながら、さりげないように言った。
「傍受といえば、先日、ユニティオーダーに居た頃に使用していたナーヴ教会の周波数を見つけました」
「地上から、ナーヴとの通信に使っていた回線ってこと? そんな任務は」
 ロイエの目がはっと見開かれる。クヴァルは頷いた。
……エーテルネーア様との通信に使用した専用回線です」
 中間管理職であったロイエの頭を飛び越えて、天子捜索の勅命を拝受――というよりもねだり取った、その時のものだった。いくぶん緊張しながらダイヤルを合わせ、しばし耳を澄ませてみたが、何も聞き取ることは出来なかった。それはそうだろう。
 あれは、エーテルネーアの個人用の秘匿回線だったのだから。
「やられたよね、あの時は。やっぱりコネは大事なんだなって思ったよ」
 ロイエの声音は軽妙で、皮肉よりは懐かしさの方が色濃かった。なので、クヴァルも苦笑しつつ、世間話のまま続ける。
「コネというより、縁故でしょうね。お付きとしてナーヴ教会に上がって以来、幼い頃からなにくれとなく目をかけていただいていましたから」
「幼い頃から……ね」
 声に少しの湿り気が混じったのを感じ、クヴァルはいくぶん姿勢を正した。
「思えば、エーテルネーアはクヴァルくんに甘かったよね」
「それを言うなら、アルムにでしょう。アルムが言葉にして伝えるより前から、解呪をするつもりだったと」
「そうかも。そうかな。……聖職者だし、子どもには甘かったのかも……いや、違うかな」
 窓の外、中天を越えた陽が、僅かに雲を帯びて翳る。
「あの人は、誰にでも甘かった」
 ロイエにも、ミゼリコルドにも。
 おそらくは、彼が見守る、見守ろうとしていた、すべての者に対して。


 ほどなくしてやってきたクウラは、ものの五分で装置の不調を直してしまった。感嘆するクヴァルに、彼は呆れたように言った。
「マイクの、ほら、このへんに塵芥が溜まってただけだ。こまめに払っておくのと、ときどきでいいから分解して掃除すればいい」
「そうか。軽いメンテナンスは出来るようになっておきたい。やり方と、必要な道具を教えて貰えるか?」
「ああ、道具なら適当に見繕ってやる。待ってな」
 クウラは、まずこれ、と言って刷毛を一本手渡してくれた。
「日々のメンテナンスはこれだな。息で飛ばしながら使うんだ」
 受け取った刷毛で、そっと装置を撫でてみる。名も知れぬ動物の毛が植えこまれたそれは、使い込まれていながらなお、柔らかかった。
 ゆっくりと塵を掃うクヴァルの手つきを見ながら、クウラはぼそりと言った。
「まあ、送信機は大事に使ってくれ。先は長いだろうからさ。……悪いけど」
 おそらくは忸怩たる気持ちの込められたその言葉に、クヴァルは微笑んで、強く頷いた。
「心得た。大事にしよう。――大事に、守ろう」


 装置を幾重にも包み込んで荷造りし、帰りの途へと就いた。
 甘やかに声を届けるたび、塵芥に塗れるというのなら。何度でも掃う。
 踊れというならば踊ろう。爪先で友のために地の塵を踏み固め、指先で空の芥を弾き飛ばす。
 いつか踊り尽くすまで。

 ×     ×     ×

 私と、踊っていただけますか。