2023-08-20 06:47:10
1763文字
Public 小説
 

星に因る

旧版です。四編をまとめた加筆修正版はこちら。
https://privatter.me/page/663774a7ec110

i7劇中劇ワンドロワンライ(https://twitter.com/2023i7ge)参加作です。

お題『決裂』『この手を取って』『因縁の二人』『願いごと』

お題全部盛り。
幼い日のエーテルネーアとミゼリコルド。かけた願い。ミゼ+エテ+ロイエのお茶会。因られたもの、縒られなかったもの。

プロット時間含まず本文作業のみで61分。1760文字。

 願ったことは、たったひとつだけだった。


 それは、ナーヴの定めた階梯において幼年から少年となり、初めて教会の奥深くへの出入りを許された日の夜のこと。
 エーテルネーアとミゼリコルドは、ふたりだけで、アークの街を眺めわたせるテラスに居た。
 上空には、天を彩る数多の星々。
 今宵は、流星の雨が降るという。

「星が流れて燃え尽きるまでに、祈りを三回唱えられたなら、願いごとが叶うのだって」
 星に願いをかけるため、祈りの言葉をしっかりと覚えるように、という教訓のついた小さな物語。それを読んで以来、いつかナーヴ教会の高い高い場所で、流れる星に願いを込めた祈りを捧げたいと思っていた。
 けれど、ミゼリコルドの視線は、ずっと下に向けられている。眼下には、アークの街の灯かりが整然と輝いていた。
「街じゃなくて、空を見て。今日は七年にいちどの流星群の夜だそうだよ」
 いくぶん焦れてそう言うと、ミゼリコルドはゆっくりと面を上げた。夜の湖のように凪いだ目が、エーテルネーアを映す。
 目と目が合って、エーテルネーアはほっと笑う。
「ねえ、ミゼリコルド。一緒に星を眺めて。流星を探して」
 そう言って、手を差し伸べた。
 ミゼリコルドが、この手を取ってくれたなら。

 ☆     ☆     ☆

……ということがあってね。ちょうど、この場所で」
 茶器を傾けながら、懐かしむようにエーテルネーアが語る。
 ナーヴ教会のテラス。そこにはいま、エーテルネーアとミゼリコルド、そしてロイエが居て、茶会の席を囲んでいた。
「はあ。それで、首尾は如何なものでしたか」
 星のかたちに固めた砂糖菓子を指でつまみあげ、カップに入れながら、ロイエが聞いた。
「流星は幾つか、見ることが出来たのだけれど」
 エーテルネーアが、琥珀色の茶を注ぐ。星はほろほろと崩れ、砂のようにカップの底に溜まった。
「燃え尽きるまでに祈りを唱え終わることが出来なくて。そのうち大人たちに見つかってしまって、残念ながら」
 軽やかで、けれど耳ざわりな音が断続的に響く。ミゼリコルドが、手にしたカップの縁をスプーンで叩いていた。
「ロイエ隊長。私のカップが見えるかい?」
「は、失礼いたしました」
 立ち上がったロイエがエーテルネーアの手から茶器を受け取り、ミゼリコルドのカップに茶を注ぐ。
 傍から見れば不思議な光景だった。三人のあいだを行きかう茶器。注ぎ注がれる茶。
 三人、ではあるが、実際のところはひとりとふたりだ。エーテルネーアと、ミゼリコルド、ロイエ。幼い頃から、内なる因を結ばれたミゼリコルド。ささやかなきっかけから、外なる縁を結ばれつつあるロイエ。
 因と縁のふたり。いずれが運命となるか。いまは誰も知らない。
「そうだ、ミゼリコルド。ずっと聞きたかったのだけれど」
 ふとエーテルネーアが口を開く。ミゼリコルドが瞳を向けた。
「あのとき君は、何を願ったんだい?」
 ミゼリコルドは、ふむ、と小さく頷いて、カップを額の上に掲げた。
「そのような昔のこと、忘れてしまいましたが。おそらくは」
 ロイエに注がせた茶をほとんどひと息で飲み干して、唇を笑みの形にし、言った。
「エーテルネーア様とおなじ願いをかけたことでしょう」

 ☆     ☆     ☆

 あれは、いつの日のことだったか。
 縁を結び、ともに未来を綯っていけるのではないかと、淡く予感を抱いていた。
 それは今にして思えば、予感ではなく、希望と期待に過ぎなかった。
 彼のいとし子を呪いに落とし、奪ってしまったいま。縁は断たれ、彼との道は決裂した。

 ならば、内なる因を結んだ相手とともに造るしかない。
 もしもあの幼い日の願いが、叶うのなら。
 星にかけたふたりの願いが、同じものなら。

 深く息を吸い、言葉を唇に乗せる。
――友人として、聞いて欲しい。ミゼリコルド」
 ずっと、秘めていた決意。
 ふたりの代で終わらせよう。ふたりにできる罪滅ぼしをしよう。
 切々と、言葉を紡ぎゆくたび、彼の蒼い瞳は、あの夜のように凪いでいった。
 ミゼリコルドが、この手を取ってくれたなら。

 ☆     ☆     ☆

 願ったことは、たったひとつ。それだけだったのに。