2023-08-14 06:17:34
1213文字
Public 小説
 

Turquoise Blue

旧版です。四編をまとめた加筆修正版はこちら。
https://privatter.me/page/663774a7ec110

i7劇中劇ワンドロワンライ(https://twitter.com/2023i7ge)参加作です。

お題『リベリオン』『黒縄夜行』『ナーヴ教会』『ユニティ・オーダー』『Unknown』の中から『ナーヴ教会』を選択。

天子とエーテルネーア。
祝祭の日。そして、すべてが去った後に。

プロット時間含まず、本文作業のみで65分。1210文字。

 白い部屋の中、鏡に向かい、己の姿を確認する。
 光輪から垂れるヴェールに囲まれた小さく青白い顔は、不安げに揺れる瞳ばかりが目立っていた。
 四年に一度の祝祭だ。天子として、アークの民たちにまみえるにあたって、少しでも見目よく整えるように、とミゼリコルドには言われている。
 なにも、わからなかった。
 日頃より顔を合わせるのは、ミゼリコルドとエーテルネーア、そしてクヴァル。身辺を整える者のみ。だのに、四年に一度のこの日だけ、大群衆の前に姿をさらし、歓喜の声を浴びる。
 祝祭の時を楽しみにしているというアークの民に、自分が与えられるものは何なのか。本当にそれは、与えているものなのか。
 考えに打ち沈んでいると、小さくドアを叩く音がした。応えを返すより早く、滑るようにして人影が入ってくる。
「天子よ。じきに祝祭の刻限となります。準備は整いましたか?」
 やわらかく、染み渡る声。ふわりと流れる、白みにふちどられた黒い髪。エーテルネーアだ。手に仮面を携え、いまは素顔で微笑んでいる。
「はい」
 微かに頷くと、エーテルネーアはしげしげと頭のてっぺんから爪先までを眺めて、小さく首を傾げた。不躾の一歩手前、彼が纏う雰囲気があって赦される、邪気のない視線だった。
 なにか、おかしなところがあっただろうか。不安になって、己の姿を見下ろす。
 黒を基調に金の装飾が施された、絢爛とした衣装。重ねた袷と耳を覆う布帛は、白に金の紋様。
 黒に、白に、金。それが、ナーヴ教会の象徴たる己に与えられた色だ。真白い部屋に黒い衣服で、昨日までを過ごし、今日を過ごし、明日からも過ごしていく。
 衣擦れの音がして、知らず伏せていた顔を上げる。目の前で、エーテルネーアが身をかがめていた。
「何を……!?」
「少し、動かないでいて」
 重いマントを持ち上げて、腰に手を回す。しゅるり、と優しい音がした。
――はい。もう大丈夫です。鏡を」
 言われて、見てみる。薄衣のストールが、巻かれていた。爽やかで美しい、青みがかった緑色の布。
 意味もわからず、ただ、エーテルネーアを見つめる。と、彼は目もとを緩ませた。わずかに上がった口の端は、笑みを刷いている、のだろうか。
「さあ、外へ。民たちが待っています」
 差し伸べられた手を取り、白い部屋から一歩足を踏み出す。

 ◆     ◆     ◆

 たくさんの血と命を吸い込んで、世界は変わった。
 人里から離れた地で、痩せた大地に這うくすんだ緑を目にするたび、なぜだろう。思い出す。
 あの人が巻いてくれた色を。
 二分された白と黒だけではない、混沌として、けれど美しい、生きるものたちの色を。

――私の声が、聴こえているだろうか?」

 人里から離れた地で、姿ではなく声を届ける。届くように願って、生きていく。
 偶像ではなく、真の象徴として。
 この世界を照らす光で有れかしと。