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櫨
2023-08-14 05:59:35
1453文字
Public
小説
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綻びの糸
旧版です。四編をまとめた加筆修正版はこちら。
https://privatter.me/page/663774a7ec110
i7劇中劇ワンドロワンライ(
https://twitter.com/2023i7ge)参加作です。
お題『出逢い』『思惑』『不穏な影』
お題全部盛り。
ミゼリコルドとシャオ。あるいはミゼリコルドとエーテルネーア。命令の裏にあったもの。
プロット時間含まず、本文作業のみで65分。1450文字。
出逢った時は、ずいぶんとみっともない、貧相な子どもだ、と思った。
瘦せこけた手足。櫛を入れられてもまとまらぬ、艶のない髪。目ばかりが大きく、強く、こちらを見上げる。
「
……
これを、手もとに置きたいと?」
口調にねっとりと毒をまぶしたミゼリコルドの言葉に、ユニティオーダーの隊長ことロイエは深く頭を垂れた。動きがいくらかぎこちないのは、馴染まぬ義手のためか。
「どうか、この子の養親として、育成を行う許可を。必ずや、アークに貢献する人材として育て上げることを誓います」
下界の孤児を連れ帰ったという報告は受けていた。が、もう少し見栄えのするものを想像していた。どんな気まぐれか、あるいは重傷を負って失ったのは腕だけではなく頭の中身もだったのか。そんなことを考えていると、横から声が響いた。
「
――
宜しいでしょう」
「エーテルネーア様?」
仮面の下、エーテルネーアは薄く微笑んで、子どもを見下ろし、ロイエを見つめ、それからミゼリコルドへと目を移して、ゆっくりと頷いた。
わかってくれるだろう、と信じている所作だ。踏みにじりたくなるほどに無邪気な。
いまいちど、子どもを見る。臆せず見返す目の力は強いが、特に反抗的な色はない。
次いで、ロイエを見る。戻らぬ腕のかわりに、身の回りの世話をする者を得た、と解せば分からなくもない。
それから、エーテルネーアを見た。微笑みはそのままだ。
子どもには恩義を、ロイエには褒美を。隷属を積みあげるのは佳いことだ。それをエーテルネーアからもたらすことにより、忠誠心はさらに固いものとなるだろう。
「
……
エーテルネーア様の思し召しだ。その願い、許可しよう」
重々しく告げる。ロイエが頬を緩めた。それにつられてか、子どもの表情も緩む。
ミゼリコルドの思惑は、知らぬままに。
次に逢った時は、すらり伸びた背と長い手足、風にさらりと流れる髪、そして己の幸福の地であるアークへの忠義を携えていた。
ユニティオーダーへの入隊が正式に許可され、アークとナーヴ教会への忠誠を誓う任命式でのこと。
叙任とともに、エーテルネーアから、直々の言葉が下賜される。
常ならば古くからの定型文を口にするのみだが、今日は違っていて、その後にごく低く
――
エーテルネーア本人と、対峙するシャオ、そしてすぐそばに控えるミゼリコルドにしか届かないほどの、小さな声が付け加えられた。
「父君とともに、どうか仲良く
――
末永く、アークを守って欲しい」
小鳥のような囁きは、淡く、優しく響き。仮面では隠し切れない頬は、柔らかな表情をかたちづくっていた。
一片の雲もないアークの空。ちらちらと瞬く美しい木漏れ日が、一幅の絵のように、彼らを浮き立たせ、輝かせていた。葉から漏れる光と、葉から落ちる影の乱舞。
何故だろうか。ミゼリコルドには、それは不穏な影に他ならぬものと感じられた。
エーテルネーアは、シャオに、あの日の子どもを見ている。
ロイエとともに、親子として睦んできた日々を見ている。
ナーヴ教会のトップたる者が、下界を出自とする者に過度の思い入れを抱くことは、綻びの最初の糸一本になる。
であれば、それを手繰られる前に、機を見て断ち切らねばならない。
◆ ◆ ◆
「
――
天子の生死は、問わない」
さすれば、あの日の貧相な子どもは、呪いを一身に受ける。
天子の呪い。否、アークという名の呪いを。
――
それは、綻びの最初の糸。
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