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櫨
2022-12-03 19:47:37
7031文字
Public
小説(pixiv公開済)
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僕に贈る
自分の誕生日にプレゼントを「配る」百の話。
つきあってるユキモモです。誕生日エピソードがメインで糖度は低め。
軽い会話のみですが、ほんのりと行為のにおわせがあります。ご注意ください。
時間軸はふんわりと第5部以後。ココ晴レリリース済。
百の誕生日の過ごし方は捏造設定です。
※pixiv版からべた貼りしただけで、レイアウト等は特に手を入れていません。あしからずご了承ください。
華やかなピンクのリボンをかけられたプレゼントの箱が、僕らの楽屋の白いテーブルのうえ、オブジェのように積みあげられている。
ラッピングはさまざまで、大きさやかたちもさまざま。大きなものは抱えたら前が見えないほど、小さなものはてのひらにおさまるほど。
今日はモモの誕生日だ。
ただし、このプレゼントたちは、モモに贈られた、モモへの誕生日プレゼントではない。
モモが贈る、モモからの誕生日プレゼントなのだった。
「台車とおりまーす!」
元気な声とともに楽屋のドアが開き、まどろみかけていた僕の意識を覚醒させた。
局のスタッフ、ではない。ステンレスの台車を押して、モモが入ってきた。
キャスターを軸にくるりと反転させてストッパーをかけ、テーブルのうえのプレゼントを手際よく台車に乗せ換えていく。かつてライブの手伝いをしてくれていた時や、その後もさまざまなバイトで使っていたからか、モモは台車の取り回しがやたら上手い。箱の積み方も上手くて、ベテランのセールスドライバーみたい。
台車に箱を積んで、出ていって。空っぽの台車で帰ってきて、また箱を積んで、出ていって。それをさっきから、風みたいに出たり入ったり、何往復もしている。
てきぱきと箱を積んでいく動きを目で追うのが楽しくて、半覚醒のままぼうっと眺めていたら、モモが作業の手を止めた。申し訳なさそうに顔の前で手を合わせる。
「ずっと放っててごめん。もうちょっとだけ待ってて。エレベーターで上がり降りするフロアは回り終わったから、そんなにかからないと思う」
「手分けして、僕も配ろうか」
「いいよいいよ! ほんとにあと少しだし! それにこれは『誕生日の贈り物』なんだから、オレが手渡さないと」
それは確かに言えてるのだけれど。
モモの『誕生日の贈り物』を僕が配る、というのもちょっと良さそうな気がしたので、さっくりと断られて少しだけ残念だ。
『誕生日の贈り物』とは、ある世界的に有名なファンタジー小説に出て来る言葉で、誕生日を迎えた者が贈りものを受け取るのではなく、逆に他人に贈りものをする、という習わしのことらしい。聞いた時は理不尽というか意味がわからなかったけれど、集落の全員がこの風習を守っているから、毎週ひとつ以上はプレゼントがもらえて、一年にいちどたくさんもらうよりも日々を楽しく暮らしていける、のだそうだ。
今年のモモは、この『誕生日の贈り物』をしている。事務所のスタッフ、共演者、先輩たち後輩たち、テレビ局のクルー。とにかく出会う人みなにプレゼントを配り歩いているのだ。
ビビッドピンクのリボンの箱を配りながら、誕生日なのに朝から晩までお仕事のモモちゃんですよ! 勤労感謝の逆誕プレどうぞ! などと楽しげに言ってまわっている。
そもそもの話は、今年のモモの誕生日に、休みが取れなかったことに始まる。
モモの誕生日は、ふたり揃えてオフにしてもらうのがデビュー当初からの慣例になっている。翌月の僕の誕生日は時期的にめちゃくちゃ多忙で、休みどころではないのがわかっているので、年末前に英気を養う意味もあり、僕のぶんは前倒しで誕生日休暇を振り替えてもらうことにしているのだった(岡崎事務所には、数年前から誕生日を本人希望により最優先休暇とするシステムが導入されていたりする)。
けれど今年は、どうしても日程を動かせない仕事が入ってしまった。
数日前より、ある映画監督がプロモーションのために来日している。オセアニア出身で、短編から始めていくつもの良作を手がけ、やがてハリウッドに招かれて撮った大作映画は、大衆向けにシフトしつつも作家性を失うことなく、世界三大映画祭のすべてで高い評価を得た。
その監督最新作の日本語吹き替え版のエンドロール曲をRe:valeが担当することとなり、これにともなってテレビ局から鼎談の企画をオファーされた。それもバラエティやワイドショーのたぐいではなく、プライムタイムのニュースで特集として扱われるものだという。多忙な監督の短い滞在日程の中で、ぎりぎり都合をつけられた日程が、11月11日の午後遅く。モモの誕生日だった。
そろそろハリウッド方面での仕事を現実的に視野にいれる頃合いだというのは、ここ最近、モモが強く主張するところだった。せっかくの足掛かりにつながる可能性を逃がす手はない、と。僕としても、くだんの監督の作品は以前から好んで観ており、この機会に会ってみたい気持ちは強くあった。
どちらに振れても断る理由はない仕事だし、それ以前に断れない仕事の部類でもある。けれど、感情が追いつくかどうかは、また別の問題だ。
僕とモモは、ふたりぶんの考えと気持ちを慎重に寄り添わせ、丁寧に話し合って、今年のモモの誕生日は、仕事をする日ということに決めた。
休暇自体はあとで振り替えてもらうけれど、代わりの予定などはあえて入れない。仕事をする日にしても、誕生日はきちんと誕生日として過ごす。
そのために、ふたつの条件をつけた。
日付が変わって、最初にモモにおめでとうを言うのは僕にする。
日付が変わる前、最後にモモにおめでとうを言うのも僕にする。
というわけで、昨夜はモモをうちに泊まらせた。零時ちょうどにおめでとうを言って、お祝いをして、プレゼントを贈った。
誕生日当日の今夜も、モモをお持ち帰りすることになっている。零時まえにおめでとうを言って、お祝いをして、プレゼントを贈るつもり。
今日の僕のスケジュールは、終日モモと一緒だ。つまり、モモと一緒に部屋を出て、モモと一緒に仕事をして、またモモと一緒に部屋に帰る。わりと最高。
……
ひとつ計算外だったのは、オフを諦めた時に、モモがこんなふうに言い出したことだ。
「どうせ休めないなら、いっそ、誕生日ならではの仕事を入れちゃってもいい?」
以前から声を掛けてもらっていたゲスト出演の枠があって、せっかくだからやってみたい。そう言われたら否とは言えず、結果、モモの誕生日のスケジュールは、ほぼ一日びっしりと仕事で埋められた。
朝には、情報番組の星座占いの「お誕生日の〇〇座さん登場」。
昼には、ワイドショーの「日替わりスタジオゲスト・本日の主役」。
午後遅く、本日のメインイベントである監督との鼎談を終えたら、ラジオ局に移動して後輩くんたちの番組へのゲスト出演。
最後に岡崎事務所へ戻り、記述式のインタビューやアンケート回答、公式SNS用の素材のチェック、その他もろもろ。
そして今日のモモは、立ち寄る仕事場ごとに『誕生日の贈り物』を配る。楽屋に落ち着いている時間は皆無、どころか台車やカートを引っ張りながら出たり入ったり、目まぐるしい。
結果、ふだんの数倍、ハードな一日になった。モモも、僕も。
朝の星座占いは、蠍座が一位だった。なんとなく忖度を感じないでもない。でも、飛び跳ねて(比喩じゃなくて、どこかの事務所のウサギみたいにぴょんぴょん跳ねた)喜んでみせるモモがとてもかわいかったから、よしとする。っていうか、こんなにかわいいモモが朝から日本中にお届けされるのは、それこそ『誕生日の贈り物』っていうやつじゃないの。と、寝ぼけ眼で見守りながら思った。
日替わりスタジオゲストには、誕生日にからめて、今日の記念日にちなんだトークテーマがいくつか出された。もやしの日、サッカーの日というお題に、モモは、同棲時代に僕がもやしで驚くほどバリエーションゆたかな料理を作ってくれたという話と、少年サッカーチームのコーチから友情とレギュラーについて説かれた話を、感謝と愛情とあたたかいエピソードを添えて語った。眠たい昼下がりにこんないい話を聞けるなんて、これもやっぱりモモからのすてきな『誕生日の贈り物』というやつだろう。
監督との鼎談では、モモはまず最初に『誕生日の贈り物』を手渡した。監督は由来のファンタジー小説を知っていたらしく、モモにハッピーバースデーと言ってくれた。そこからの二言三言の雑談で、監督から「いつか君に、おかえしの『誕生日の贈り物』をしたい」という言葉を引き出したモモに舌を巻く。
通訳は最小限にしてもらい、僕とモモと監督と、英語が母語ではない三人で膝をつきあわせ、素朴ながら和やかな会話を交わした。吹き替え版の主題歌を監督は気に入ってくれたらしく、映画のテーマと曲を絡めた話が広がり、鼎談の全体にRe:valeの話がまんべんなく混ぜ込まれた。オンエアされたら、これまたとびっきりの『誕生日の贈り物』だ。
日本じゅうに、世界じゅうに、モモの誕生日の贈り物が散りばめられていく。モモのハッピーが散りばめられていく。
☆ ☆ ☆
夕暮れの街を、ラジオ局へ移動する。
本日最後の現場仕事は、後輩のラジオへのゲスト出演だ。IDOLiSH7きっての天然&マイペースなふたり、七瀬陸と六弥ナギがパーソナリティを務めるラジオ番組を、モモはとても気に入っていて、以前から出てみたいと言っていた。念願叶ってのゲスト、というよりは友情出演に近く、誕生日のごほうび仕事枠らしい。いいな。僕も来月はMEZZO"のラジオに出してもらおうかな。
例によってスタッフにプレゼントを配り、ブースに入ったモモは、かわいい後輩たちとの仕事をフルスロットルで楽しんでいる。お題から脱線しまくる陸くんナギくんをやさしく上手に転がしては、さらに暴走させたり、あるいはさりげに軌道修正したりして、彼らの魅力である天衣無縫の奔放さはそのままに、「使える」収録としての質と量を、しっかりと積み上げていく。視界の端でラジオディレクターが伏して拝んでいるのが見えた。モモ大明神。
「百さん、お誕生日にゲストに来てくれて、ありがとうございます!」
「ミスターモモ、おめでとうございます。ハッピーなこの日に感謝を」
「ふたりともありがとう! そうなの、今日ね、今日って収録してる日だけど、オレの誕生日なの。でね、ありがたいことに夜明け前からずっと仕事してた。なかなかハードだったけれど、充実の長い長い一日でした! 誕生日がめっちゃ長く感じられて最高だった!」
「そうなんですね。言われてみると、確かになんだかお得感があるかも! オレも来年の誕生日はいっぱい仕事入れてもらおうかな」
素直すぎる応えに吹きそうになり、あわてて口を押さえる。気配を察してか、後輩ふたりは小さく手を上げて、副調整室の僕に目礼をしてくれた。見守るモモが、にこにこしている。
「ミスターユキもご一緒にお仕事だったのですか?」
「ううん。今日はユキと一緒の仕事は一本だけで、あとはぜんぶオレのソロ仕事でした。でもね、その一本が超スペシャルなんだ。あとで宣伝させてもらうから、楽しみにしていてね!」
後輩くんたちは、揃って首をかしげると、不思議そうな顔で副調整室の僕を見た。ひらひらと適当に手を振ってみたら、さらに胡乱げな目つきをされてしまった。なんでここに居るんだろう、って顔に書いてある。後輩くんたちのみならず、スタッフたちも。気持ちはまあ、分からないでもない。
トークは、誕生日の話に戻っていた。
「ワタシたち、さきほどミスターモモにバースデープレゼントをいただきました」
「オレももらいました。『誕生日の贈り物』なんだって。誕生日のひとが、みんなにプレゼントを配るっていう。前に番組でご紹介した小説に出てきたやつです」
「そうそう。オレ、このラジオで陸が話してるのを聞いて知ったんだよ。いいよね。みんなでハッピーになれる誕生日、最高だよ!」
みんなでハッピーになろう、というのはモモがしばしば口にするフレーズだ。
でも、例えば百個のプレゼントを配ったとして、百人からプレゼントが返ってくるとは限らない。九十九人かもしれないし、九十八人かもしれない。もっとずっと少ないかもしれない。
どうか、モモが手渡すものよりも、モモに手渡されるものの方が多くありますように。誕生日にも、誕生日ではない日にも。
めまぐるしかった一日の締めくくり、書きもの仕事を終えて、ふたりで岡崎事務所を出た。おかりんの車でふたりとも僕のマンションまで送ってもらう。
車を降りると、夜の空気は、秋晴れの名残を宿したまま、しっとりと冷えていた。夜はまだ浅い。日付が変わるまで時間がある。
モモの誕生日は、まだまだある。
さきに車を降りたモモが、ぐるりと回りこんで運転席のドアウィンドウをノックした。おかりんが窓をあける。
「今日はありがとう。プレゼント、私物なのに社用車でいっぱい運んでもらっちゃってごめんね。助かったよ」
「こちらこそ、誕生日をオフにできなくてすみませんでした。そのぶんの埋め合わせだと思ってください」
「不可抗力みたいなもんだし、もう言わない約束で! 来年はよろしくね! じゃ、おかりんにも、これ」
モモは、斜めがけしたショルダーバッグを開けて、鮮やかなリボンで結ばれたギフトバッグを取り出し、ウィンドウからおかりんの膝の上に落とした。おかりんが目を瞬かせる。
「
……
自分もいただけるんですか」
「ちゃんとおかりん用に選んで、取っておいたやつだからね。ありがとうおかりん。そして誕生日おめでとうオレ!」
おかりんは笑って、誕生日おめでとう百くん、と、いつになく優しい声で言った。
☆ ☆ ☆
「ねぇ、モモ」
マンションのエントランスの中からおかりんの車を見送った後、エレベーターホールに向かいながら、聞いてみる。
義理チョコみたいなものだと思っていた。円滑なおつきあいのために、誰彼なしに配るもの。けれどモモはおかりんにもあげていた。だったら。
「『誕生日の贈り物』。僕には、くれないの?」
隣を歩くモモは、横顔のまま顔を伏せて、もごもごと言った。
「ないよ。あげないよ。誕生日だもん。プレゼントをもらうのは誕生日の人でしょ。オレの方でしょ」
「
……
えぇ?」
間の抜けた声が出た。ここに来て、突然の反転。いやいままでが逆だったのだから、正位置に戻っただけか。まったくモモの難易度は高すぎる。
「っていうか、ユキからのプレゼント、先ばらいされちゃったんだよなぁ。めちゃくちゃもらっちゃった」
確かに、日付が変わった時点でプレゼントをあげた。数か月前からリサーチをして、おかりんや後輩にも相談して、吟味に吟味を重ねて選んだプレゼント。モモはすごく喜んでくれた。
けれど、めちゃくちゃ、という言葉のニュアンスがなんとなく、物ではないことを指しているような気がしたので、とりあえず。
「
――
昨夜のこと? 朝早い仕事だったのにごめんね?」
「ここで直球やめて! そうじゃなくて! いやそれもあるけど
……
!」
ちいさく潜めた声に、それでも吠えるような勢いが籠っているのが面白い。かわいい。俯いた横顔の、耳が赤く染まっている。
エレベーターホールに着いたけれど、ボタンは押さないまま、モモの言葉を待つ。
「
――
今日はずっと、ユキをもらってたじゃん」
光量の絞られた夜更けのロビーに、囁きが落ちた。
「オレのわがままで、めいっぱい仕事入れちゃったのにさ。一日じゅう、一緒にいてくれるなんて、思わなかった」
朝には壊滅的に弱いくせに、四時起きに付き合ってくれて。自分の出番があるわけでもないのに、収録にもぜんぶついてきてくれて。仕事を見守って、ひとつ終わるたびにたくさん褒めてくれて。手を伸ばしたらすぐに触れられる場所に、ずっといてくれた。オフでも、オフでなくても。誕生日に、いちばん欲しかったものをくれた。
訥々と、秋の葉のように、モモの言葉が降り積もる。
「もらいすぎなんだよな~
……
イケメンすぎなんだよな~
……
誕生日の贈り物なんて、なにをあげても、
……
どうしたらいいの」
耳どころじゃない。頬も、おでこも、ごしごしと顔をこする手首も、どこもかしこも赤く染まっていた。そっと抱きよせて、うつむいたままの顔を隠してやる。
オフを取らないと決めて、モモが誕生日の仕事のスケジューリングをおかりんに頼んだ時、同じように僕も、おかりんにこっそりと頼んだ。この日に僕のソロ仕事の予定は入れないで、と。
おはようからおやすみまで、モモを見つめる日にする。ただ、それだけのことだった。モモに隣にいてもらうために、僕がモモの隣にいる。そんな、シンプルな話だったのだけれど。
「
――
やっぱり、もらったのは僕のほうだったよ」
欲しかったものを、教えてくれた。素直な気持ちで、僕を求めてくれた。
あのモモがだ。
「それに、これからまだまだプレゼントをあげるし、もらうからね」
抱き寄せた耳もとに言葉を落とすと、モモの肩が微かに揺れた。
ふたつめの条件はまだ満たしていない。零時まえにおめでとうを言って、お祝いをして、プレゼントを贈る。
エレベーターのボタンを押す。日付が変わるまで。モモの誕生日は、まだまだある。
今年も来年も。その先もずっと。
誕生日おめでとう、モモ。
僕だけのハッピーを、ありがとう。
〈Fin〉
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