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櫨
2022-12-01 20:42:36
1727文字
Public
小説(番外編他)
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異世界であなたとお茶を~another
pixivに投稿した「異世界であなたとお茶を」の another ストーリー。
シリーズ異伝です。
世界線が違うかもしれません。
最後の挨拶まで、わずかに時間があった。女神像の裏側で、三人、ひたりと足を止める。
その機会を逃さずに、深いため息をつけて、千は言った。
「
……
ちょっと、やりすぎじゃない」
「どうだった? 雰囲気出せてた?」
振り返った百はいつもの顔で笑っていた。明るい、元気な笑顔。憂う『彼』の名残りはない。
「あの子たち、ナーヴ教会のスカーフつけて、エーテルネーアのグッズ着けてたから、ほんとにエーテルネーアが大好きな子なんだー! と思ってさ。ユキも、ナギもありがとね、合わせてくれて」
ナギが笑顔で親指を立てる。千は黙ったまま、じろりと目を動かして百を見た。
あの場で求められていたのは「Re:valeの百」ではなく、「ナーヴ教会のトップたるエーテルネーア」であると。それを読み取って、エーテルネーアとしてふるまった対応力はさすがだし、ある意味、究極のファンサではある。
けれど、千が問題にしているのは、そこではなかった。マントに包まれた腕をぐっと掴み、耳もとに囁く。
「あれ、役が入ってたよね」
知らず声が強くなる。その下に押し隠した懸念に、気づかれただろうか。いや、気づいてほしい。どれだけ心配しているか。不安に思っているか。
「自然と入ってきちゃったんだよね。エーテルネーアは、ちょっと、特別だからかな」
悪びれずにそう答えた百に、思い切りしかめ面を作って見せる。が、堪えた様子はない。柳に風。千の苛立ちを受け止めて流す様子が、いまはさらなる苛立ちを呼ぶ。
俳優としての百の役作りは柔軟だ。ひとつの方法論にこだわらず、さまざまなやりかたで役との距離をつくる。あるときは己の裡に引き寄せ、別のときは完全に俯瞰した目線で。濃密に纏うこともあれば、あえて薄くとどめることもある。
そして、「ダンスマカブル」のエーテルネーアについては、仮面の下に秘された心の襞をそのまま取り込み、世界に身を委ねて、完全に憑依型で演じていた。
その没入っぷりは見ていて危なっかしいほどで、実際、撮影中は、纏う雰囲気のあまりの違いに、共演の後輩たちが幾分たじろいでいる様子を何度か見かけた。
仮面という小道具もよくなかった。仮面を着けたエーテルネーアと仮面を外したエーテルネーア、という演じ分けが、役と役者の切り替えの手前にあったため、没入から脱け出すのにひとつ多い段階を必要としてしまった。しかも、エーテルネーアは途中で「退場」するキャラクターだ。危険性はいや増す。
しかし、何度となく危惧を伝えても、百は取りあわず、宥めすかしては笑うだけだった。
「エーテルネーアのそばに、居てあげたいんだよ。オレは、覚えておいてあげたいんだ」
いちど、ぽつんとそう言った。
物語上、死亡するキャラクターは他にも幾人もいた。
けれど、エーテルネーアは
――
エーテルネーアだけは、作品中で誰ひとりも、彼を悼む言葉を口にしなかった。偲んではくれなかった。
憐憫というわけではなくて、ただ、忘れずに、悲しく思ってあげたいのだと。
彼を、自分の中に、居させてあげたいのだと。
だが、それは。何よりも危険なことなのだと。どうしたらわかってくれる。
持っていかれてしまいそうになるのは、繋ぎとめてやればいい。抱きしめて、離さずにいればいい。
けれど、こちらに「来て」しまうのは。どうやって食い止めればいい?
女神像の裏から、ステージ前に集まっている人々を眺める。MCの謝辞の言葉に拍手が鳴り、後頭部が揺れる。
舞台にしろイベントにしろ、アイドルとして、いくらでも経験している。一体感のあるライブも、ファンに歓喜の声で求められることも、日常だ。
だが、こんなにも「役」を求められる現場は、初めてだった。であればこそ、百も、時を経てもあの頃のようにエーテルネーアをその身に降ろしてしまったのだろう。
常であれば、求められるのは自分たち自身だ。しかし、この会場に来ている人々は、千を通してロイエを、百を通してエーテルネーアを、ナギを通してミゼリコルドを見ている。
熱く、別の世界を透かし見ている。
その熱は、いつか世界の縁を溶かしてしまいそうで。
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