夜明 奈央
2024-05-05 10:11:16
921文字
Public 中太SS
 

中太 長い階段を登るだけ

2023年10月21日初出

「え、これ登るの……?」
 太宰の目の前に伸びるのはどこまでも続くような階段だった。曲がっている所為で先は見えないが、その先も続いていることは想像に難くない。まだ1歩も登っていないというのに引き返したくなってしまう。
「あ?手前が行きたいっつったんじゃねぇか」
 対して隣にいる中也は怯むこともなく進み始めており、気づけば既に3段程上にいる。体力だけはどうやっても中也に勝てない。中也にとってはこのくらい大したことないのかもしれない。というか、中也には重力操作というチート能力があるから、本当にどうってことないのだろう。
「なんだよ、行くのやめんの?」
「やめない、けど……
 やめるつもりはない。ないが、だとしてもちょっと覚悟を決める時間ぐらいはほしい。あと、当然だが途中休憩もだ。
 中也はしばらく太宰を見下ろしていたが、やがて登った階段を降りてきた。太宰の1段上から「ほら」と右手を差し出してくる。
「なに」
 手を繋ごうとしていることぐらいはわかるが、意図が読めない。周囲にはちらほらと人影が見える。男2人で手を繋いでいるというのは奇異の目で見られないだろうか。
 迷っていると、中也は強引に太宰の左手を握って、ぐいと引っ張った。釣られて1段階段を登った。
「いつまでもそうしてたって変わらねぇだろ。手伝ってやるからさっさと登ろうぜ」
 そのままさらに引っ張られて、もう1段登った。確かに自力で登るよりは幾分か楽かもしれない。だとしてもこれは、些か恥ずかしくないだろうか。
 太宰が呆然としている間にも、中也は気にした風もなく前を向いて、ぐいぐいと太宰の腕を引っ張りながら進んでいく。太宰の足も自動的に前へ進む。
 周囲の視線を探るが、皆自分たちのことに夢中でこちらを気にしている人はいないようだった。そうすると気にしているのがなんだか馬鹿馬鹿しいような気がしてきて、このまま引っ張られていくことにする。
 中也の硬くて力強い手を握り返す。それだけではなんとなく物足りない気がして、甘えるように指を絡めた。
「ねぇ、もうちょっとゆっくり歩いてよ」
「あー?」
 中也は不満そうな声を上げたが、歩くスピードは少しだけ遅くなった。


ご感想喜びます / 転載・AI学習禁止