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夜明 奈央
2024-05-05 09:55:59
2621文字
Public
中太SS
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中(太)←モブ 知らぬは本人たちばかり
太宰を性的に消費するモブと両片思いっぽい中太
2023年8月15日初出
「じゃあ次は5番が好きなセックスのシチュエーションを語る!」
「5番だれー?」
「おれー!」
「山本かよ。これはサムいのくるな」
「ばっかそういうのは聞いてから言えっての!」
ガヤガヤと騒がしい喧騒の中で、僕はここで本当にやっていけるのか不安に駆られていた。馴染める気がしない。
僕はポートマフィアに入ったばかりで、今日この部隊に配属が決まった。歓迎会だと言って誘われた有志の飲み会には急に決まったというのに2桁近い人が来てくれたし、みんな優しくしてくれて安心していたのだが、それは最初だけだった。
酒が回るにつれてだんだん下世話な話が増えてきて、突如始まった王様ゲームはほとんど猥談だった。僕は生粋の童貞だったし、その手の話題は得意でないので友人たちともあまりしたことがない。幸いにも無理強いするような友人はいなかったので、こんな世界が存在するとは思わなかった。まさか、初対面の仕事仲間にこんなにも明け透けに下ネタを投下してくるなんて!
僕はできるだけ縮こまって自分の順番が来ないことを只管に願っていた。
「じゃあ、次は9番が〜、んー、なんにしようかなー、結構出尽くしたよなー」
次のゲームが始まって、僕はサァっと血の気が引いていくのを感じた。9番を持っているのは自分だ。とうとうお鉢が巡ってきた。こうなればなるべく穏便な質問が来ることを願うしかない。
「あ、そうだ。太宰幹部とヤりたいプレイ!」
王様が宣言すると、場がわっと盛り上がった。
「うっわ!それはやべえだろっ!」
「おい、聞かれてねぇよな!?」
口々に心配するようなことを言うが、皆笑っている。ただの悪ノリらしい。
だが僕は何を答えればいいかわからずに頭の中はパニック状態だった。ヤりたいプレイなんてそもそも口にするのも憚られるし、来たばかりの僕には“太宰幹部”というのが何者かもわからない。
どうすればいいかわからず震えているが、ゲームは無情にも進んでいった。
「9番だ〜れだ!」
隠してもいずれバレるため、スッと手を挙げると、視線が一斉に僕に集中した。僕は注目されるのも苦手だから、俯いて隣の先輩の影に隠れた。先輩は苦笑いしつつも見逃してくれるつもりはないらしく、前へと促されてしまう。
「こいつ太宰幹部知らねぇんじゃねえの?」
誰かが言った。その通りだった。幹部というからにはきっと偉いのだろうけれど、名前すら初めて聞いた。
「誰か写真持ってる奴いねえのー?」という声が響いて、場が騒めく。しばらくして端末に表示された写真が何枚か提供された。何れも遠く、はっきりと顔のわかるものはない。わかったのは幹部というには随分と若いことと、右目が包帯で隠されていること。それから遠目からでもはっきりとわかる程美人だということ。しかし
――
「あの、この方、もしかして男なんじゃ
……
」
控えめに尋ねると、あっさりと肯定が返ってきた。それから「あんだけ美人なら男とか女とかどっちでもいいって」だの「俺太宰幹部に蔑まれながらイきたい」だのと勝手に盛り上がり始めた。
このまま僕の話は流れてくれないだろうかと願うが、そう上手くいくはずもない。「で、お前は?」と改めて注目が集まる。とても逃げられそうにない雰囲気で、どうにか当たり障りのない答えを考えるが、それが何なのかもわからなかった。今までずっと逃げてきたから、そもそも知識がないのだ。
僕が何も答えられずに泣きそうになっていると、その沈黙を遮るように誰かの端末が震え始めた。持ち主は隣にいる先輩で、端末を確認すると低い声で「中也さんだ」と言った。全員に一瞬で緊張が走った。
中也さんはわかる。僕たちの上司にあたる人だ。今日は挨拶もそこそこに出張に出掛けてしまったのでまだよく知らないが、先輩たちが慕っていることは少し話をしただけでもわかった。きっと良い上司なのだろう。
先輩は怯えた様子で通話釦を押し、皆はその様子を固唾を呑んで見守っていた。
「はい、武田です」
「おー、中原だ。そろそろ行けそうなんだが、まだやってっか?」
部屋は静まり返っていたので、隣にいる僕には端末の向こうの会話まではっきりと聞こえた。同じく近くにいて聞こえていたメンバーが一斉に首を振った。先輩はそれに、静かに頷く。
「いえ、もうお開きです。飲ませすぎてしまったみたいで、新入りがダウンしてるので」
「おいおい張り切りすぎだろ」
中也さんの快活な笑い声が電話の向こうから聞こえてきた。
「まあしゃあねぇな。責任持って誰か送ってやれよ」
「はい、もちろんそのつもりです」
先輩はそれから二言三言挨拶を交わして電話を切り、ふう、と詰めていた息を吐いた。そして神妙な顔で頷き合い、てきぱきと帰る準備を始めた。僕1人が話についていけていなかった。
余程ここに来てほしくないらしい。確かに飲み会に上司がいるのはやや気まずいかもしれないが、随分と慕っていたようなのでこの態度の急変には違和感がある。もしかして何かあるのだろうか。酒癖がめちゃくちゃ悪いとか。
目を白黒させながら皆に倣って帰る準備を進めていると、先輩にがしりと両肩を掴まれた。思わず悲鳴をあげそうになる。
「おい、今日のこと、絶対に口外するんじゃないぞ」
「え、はい」
「特に最後の。もし中也さんの耳に入ったらここにいる全員ただじゃ済まねぇからな」
意味がわからないながらも何度も頷いた。元々こんな話を公言できるわけがなかった。
それからしばらくして、太宰幹部と中也さんが言い争っている場面を見かけた。今にも殴りかかりそうな剣幕に怯んで遠目から様子を窺っていると、銃声が響いた。僕はぎょっとしてあからさまにそちらを向いてしまった。2人は変わらず言い争いを続けている。
しかし、一緒にいた先輩方は、全く意に介していないようだった。
「あの、」
「ああ、いつものことだよ。気にするな」
なんでもないことのように言われてまたもや驚く。
もう1度ちらりと視線をやると、顔がくっつきそうな程近くで眼を飛ばし合っていた。
「まあ、なんていうか、喧嘩する程仲が良いってやつ?」
苦笑いする先輩に促されて仕事に戻る。背後では未だ元気な言い争いが轟いていた。
ただ仲が良いと表現できる程単純な関係ではないらしいことに僕が気づくのは、まだずっと先のことである。
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