今夜は本丸の有志でハロウィンパーティーが催される予定だ。この手のイベントが好きな鶴丸は1ヶ月以上も前からそわそわと準備を進めていたが、同室の俺にさえも「当日のお楽しみだ!」と言って何の仮装をするのかちっとも教えてくれなかった。
昨年は必要以上に気合の入ったフランケンシュタインの仮装をして短刀たちを怖がらせていたが、今年は何の仮装をするつもりなのだろうか。
パーティーに参加するつもりはなかったが、楽しそうにしている恋刀の姿を見たいと思うのは当然だった。
「準備はできたのか?」
「おう! 我ながら渾身の出来だ!」
準備をするからと追い出されていた部屋の外から声を掛けると、こちらが開けるより前に鶴丸が中から障子を開けた。出てきたのは浮かれたサングラスを掛けた鶴丸で、去年の仮装と比べるとどうにも地味だった。有体に言えばクオリティが低い。俺が疑問符を浮かべているのに気づいたのだろう鶴丸が、先回りして説明を加えた。
「これは『お使いに行った万屋で余計な物まで買い込んで近侍に怒られる5秒前の鶴丸国永』だ!」
「は?」
鶴丸の説明によると、今年のパーティーは「地味ハロウィン」らしい。去年のパーティーは特に何の縛りも設けずに行った結果、審神者の予想を遥かに上回るクオリティとなったらしい。主催にも関わらず大した仮装をしなかった審神者はいたく落ち込んだが、だからといって忙しい審神者業の合間を縫って凝った衣装を用意したり特殊メイクの練習をしたりするのは難しい。
そこで今年は地味ハロウィン、つまり「『ああ、いるいるそういう人!』と共感できる特殊設定を表現する仮装」に限定されたらしい。
「変に凝るのを禁止するためか、予算の上限まで決められてな! なんとたった千円ぽっきりだ! とはいえ今回俺が追加で買ったのはこの大きなレジ袋1枚だから費用は5円なんだがな!」
がははは、と豪快に笑う鶴丸の格好はといえば、浮かれたサングラスをかけ、雑多なものを詰め込んだ大きめのレジ袋を提げている。それ以外は見慣れた内番着だ。
なるほど、確かにこういう鶴丸は万屋街のあちこちで見かける気がする。この本丸の鶴丸は顕現して長いから馬鹿みたいな買い物はあまりしないが、それだって最近の話だ。顕現した当初はこういう姿を何度か見かけたことがあった。実際近侍にも何度か怒られていた。
「それはいいが、普通そういうのは誰か別の奴の格好をするものじゃないのか? それは仮装というのか?」
「ああ、俺も最初は『合コン前夜の主』をやろうと思っていたんだが、長谷部に『特定の第三者を連想させるものはダメだ』と釘を刺されてな。確かにあまり気分のいいものでもないだろうし、しかしどうせなら面白い仮装がしたいし……ということで、ネタにするなら自分だろうと思ってな! 他の奴も結構自分の仮装してる奴いるぜ!」
百聞は一見にしかずだぜ! と鶴丸に促され、半信半疑のまま会場である大広間に赴くと、確かに各々の内番着や戦装束に身を包んだ者たちが思い思いの小物を持って集っている。参加者全員が来ているわけではないはずだが、既に大広間は雑多な物で溢れかえっていた。
「やあ、鶴さんと伽羅ちゃんは何の仮装だい?」
背後から声を掛けられ、振り返る。そこには内番着で大きな重箱を持った光忠と、初の戦装束を纏った貞宗が立っていた。貞宗はとうの昔に極めているので、懐かしい姿だ。
「おう! 俺は『お使いに行った万屋で余計な物まで買い込んで近侍に怒られる5秒前の鶴丸国永』で、こっちは『馴れ合うつもりはないと言いながら俺に連れられて結局パーティーに参加する大倶利伽羅』だ!」
「は? 俺は参加するとは言ってないぞ」
全く心当たりのない設定に否定の言葉を発するが、光忠と貞宗は「あー! なるほど!」と納得している。俺の言葉など聞いていない。このままでは本当に参加する羽目になりそうだ。というか仮装ですらないがいいのかそれは?
「それで、光坊と貞坊の仮装はなんなんだい?」
俺の困惑は無視して、鶴丸が2人に話を振った。
「僕たちはセットでね。『貞ちゃんの初めての遠征に浮かれて必要以上に気合の入ったお弁当を作っちゃう僕』と」
「『それに困惑しつつも受け取って完食して返す俺』だな!」
「ああ! あったなそんなことも!」
貞宗が顕現した直後にこの本丸でも実際にあった出来事だ。演練で話を聞いていると、他の本丸でも似たような出来事があったとちらほらと聞く。
「今思い出すと恥ずかしいんだけどね。みんなが笑ってくれそうなのがこれぐらいしか思いつかなくって」
そう笑う光忠はそれでも満更でもなさそうだった。
結局俺は帰るタイミングを失って、パーティーに参加することになってしまった。鶴丸の言葉通りになってしまったわけである。
初の開催となる地味ハロウィンパーティーは、大いに盛り上がった。他のメンバーもなかなかに捨て身で笑いを取りにいっているようで、『夏の連隊戦に行きたくないとごねる加州清光』は全身日焼け対策グッズに包まれているし、『絶対にこたつから出たくない和泉守兼定』と『その世話を焼く堀川国広』は小道具というには些か大掛かりなこたつを持ち込んで冬の2人を完全に再現していた。
本丸のどこかで見たことがある光景ばかりだが、それを本人の解説付きで見せられるとまた違った面白さがある。解説を聞かないと何を表現しているのかわからない者も多いから、自然と会話も弾むし、ハロウィンパーティーは盛大な盛り上がりと共に終了した。
ちなみに仮装には投票で順位が付けられたのだが、1位は『縁側で茶を飲む三日月宗近』だった。話しかけるとお菓子が貰えるので食い意地の張った連中からの票が集まった結果だった。
「あれはずるじゃないのか!? 賄賂みたいなものだろう!?」
鶴丸は納得がいかないようで、パーティーを終えて自室に戻る道すがら、ぶつぶつと文句を溢していた。しかし部屋に着いたところで突然何かを思い出したように言葉を途切れさせる。
「すまん、もうひとつ仮装を用意してたんだった」
そう言ってごそごそと行李を漁り、白い猫耳のカチューシャを取り出した。迷うことなく自分の頭に装着してこちらを向く。仮装というには、随分と控えめだった。
「何の仮装なんだ?」
きっとこれも地味ハロウィンという奴なのだろう。そう思って問いかけた。
「『ハロウィンに託けて大倶利伽羅を閨に誘う鶴丸国永』だ」
満面の笑みで告げた鶴丸を見て、つい口角が上がってしまった。笑われたとでも思ったのか、鶴丸は口を尖らせる。
「おい、笑うなよ。予算がたった千円では大した仮装はできないんだ。わかるだろ」
律儀に本丸全体の地味ハロウィンルールに則ったらしい。わかっているだろうに、不安そうにこちらを見つめてくる。
本丸内は、未だ喧騒に包まれていた。「まだ飲み足りない」と言って二次会を始めた連中が何組もいるからだ。去年は鶴丸もそちら側だったのに今年は俺と一緒にすんなり部屋に戻ってきたから、期待していなかったといえば嘘になる。
「良かったのか? ハロウィンに託けた飲み会に参加しなくて」
「もちろんだ。それよりこの仮装は気に入らなかったかい? 好みじゃないようなら外すが」
「いい。そのまま抱きたい」
ストレートに告げると、鶴丸ははにかんだように笑って、俺の唇に吸い付いた。
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