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夜明 奈央
2024-05-04 20:38:04
710文字
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中+森 誕生日は何の日?
中也の本当の誕生日はいつだろう?という話
2023年4月29日初出
「ところで中也くん」
仕事の話を終え、雑談に移行した後だった。森が静かに名前を呼んだ。その改まった間だけでこれから何か重要な話が始まるのだと理解して、中原は居住まいを正した。
給仕が用意した紅茶のカップからは、ゆっくりと湯気が立ち上っている。
「君の誕生日は確か4月29日だと言っていたね」
「はい」
「君の生い立ちでは本当の誕生日を知ることはかなわなかっただろう。その誕生日はどうやって決めた日だい?」
森は、緊張を解そうとするかのように笑みを浮かべた。内緒話でもするように悪戯めいた笑みだった。これは首領として聞いているのではないと告げていた。
中原にとって、その質問は初めてではない。隠しているつもりだってなかった。それでも、幾度も繰り返された何れの問答とも違うことを本能的に理解した。
姿勢を正して、大きく深呼吸をする。
「俺が羊に拾われた日です」
「そうかい。それは特別な日だね」
「ありがとうございます」
森の眼光がすっと鋭くなる。
「君の本当の誕生日も知ろうと思えば調べることができるわけだが、どうしたい?」
どくりと血が脈打つ。森に気づかれないよう小さく手を握って開いて感触を確かめる。
中原中也はここにいる。
「必要ありません。俺の誕生日は、俺が中原中也になったあの日です」
中原の答えを聞くと、森は満足したようにいつもの隙のない笑みを浮かべた。
「君ならそう言うと思っていたよ。野暮なことを聞いてしまったね」
森が視線を窓の外に向けるのにつられて、中原もそちらを見やった。春の柔らかな陽射しが射し込んでいて、遠くに群れを為して飛ぶ鳥が見えた。何の変哲もない穏やかな日だった。
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