俺がTVを見ている自宅に「ただいまー」という太宰の気の抜けた声が響いた。玄関で叫んだ男が扉を開けるのに合わせて返事をしてやる。
「おかえり」
玄関で叫んだ男が扉を開けるのに合わせて返事をしてやる。それと共ににゅっと手を突き出す。差し出したのは葉書だ。
「なにこれ?」
「芥川からの招待状」
太宰が素直に受け取るのを見て、説明を加えてやる。ひっくり返して説明を読みながら「あー、あの子結婚するんだ」とぼやいている。芥川に「渡してくれ」と頼まれた時には嫌な顔ぐらいするかと思ったが、そんなことはないらしい。
外套を脱いでソファの背に掛けてから、俺の隣に座る。束の間TVに意識を戻していると、葉書を読んでいたはずの太宰から視線を感じて顔を向けた。
「いや、律儀だよねぇ、君もあの子も」
「なんだよ」
「だって、こんなの私が行くわけないの、わかってるでしょう」
「慕われてんだろ。欠席連絡ぐらいしてやれよ」
そうだねーと気のない返事を聞くと、出欠の催促まで仲介させられる未来が見えた気がして頭が痛い。この男はその手のことにはずぼらの極みなのだ。そんなこと、直属の部下をやっていたあの男が知らないはずもないだろうに。くそっ、上司にはもっと敬意を払いやがれ。心の中で毒づくが、届くはずもない。
しかし、その心配は杞憂だった。太宰は俺の目の前ですぐさま招待状の返事を書いた。結果はもちろん欠席だ。「はい、どうせすぐ会うんでしょう」と突き返されて、なんともいえない気持ちになる。だが明日会う予定があったのは確かなので、まあそのぐらいは引き受けてやろうと受けとった。
それが、約3ヶ月前の話だった。
「これ、芥川くんに渡しといて」
俺が帰宅するなり太宰が差し出してきたのは万札の束だった。折れ目も汚れもない新札は、封筒にすら入っていない。
「なにこれ、ご祝儀?」
「明日でしょ?」
きょとんと目を丸くする太宰が指すのは、翌日に控えた芥川の結婚式のことだろう。この男が忘れるとは思っていなかったが、まさか意識しているとは思っていなかった。ましてやきちんと新札を用意しているなんて。
「せめて祝儀袋に入れろよ」
「中也のに一緒に入れといてよ。どれが私のかわかると面倒だから」
言われて芥川の様子を想像して、なんだか納得してしまって引き下がる。素直に受け取って、なんとなく枚数を数える。1枚、2枚……。
一応、マフィア内でもご祝儀の相場なるものはなんとなく決まっている。渡されたそれは五大幹部が直属の部下に渡す時のそれだ。直属ではない俺が渡す予定だった額よりもほんの少しだけ多い。
なんだかんだあいつも大事にされているようだ。とりあえず、口止めはされなかったから、明日はちゃんと「ご祝儀には太宰からのも含まれてるぞ」と伝えてやろうと決める。どんな顔をするか少し楽しみだ。
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