式場から依頼があった。なんでも、式当日に新郎新婦が狙われる事件が立て続けに起こっているという。探偵社はその依頼を受け、妾と国木田が囮として結婚式を挙げることになった。
乱歩さんが言うには、犯人は事件の瞬間以外は亜空間に潜んでいて、捉えることができないらしい。だからどうにか誘き寄せる必要がある。
事務員に囮をさせるわけにはいかないし、鏡花は花嫁には若すぎる。新婦役ができるのは妾しかいない。新郎役は太宰と国木田のどちらでも良かったが、国木田の方が武術の心得があって安心できるという理由で選ばれた。乱歩さんは頭脳派だから、囮捜査に限らず指揮官役だ。現場に出ることはない。
囮捜査が決まってから、乱歩さんの機嫌がどうにも悪い。
「なんだい、乱歩さんが立てた計画だろう?そんなに不機嫌になるぐらいなら他の方法考えりゃあいいのに」
「別に不機嫌になんてなってないよ」
そう言ってぼりぼりと菓子を口に運ぶ。
机の上には、お菓子の包み紙が散乱している。いつも以上にお菓子を食べる手が止まらない。
妾だって、別に好きで新婦役なんてするわけじゃない。なんなら女の妾の方が、普通は気にするものではなかろうか。そりゃあ普通の女の子ほどではないかもしれないが、少なからず憧れる気持ちはあるのだ。結婚前にウエディングドレスを着ると婚期が遅れるとか、そういう迷信もあるし。
慰める言葉が思い浮かばなくて、チョコレートの山から1つ拝借した。包み紙をくるくると外して、口の中へ。乱歩さんがそれをじっと見ていたから、同じようにして1つを口の中へ入れてやった。
「与謝野さんにウェディングドレス着せるのは、僕の役目だったのに」
「あれ、前は白無垢着せるって言ってなかったかい?」
びっくりして乱歩さんを見つめる。すると、乱雑に包み紙を剥がしたチョコレートをもう1つ口へ入れられた。
「同じようなものでしょう」
「そうかい? 妾は乱歩さんに白無垢着せてもらうの、楽しみにしてたんだけど」
乱歩さんが珍しく言い淀む。その姿がおかしくて、からからと笑ってしまった。
「ああもうわかった。ドレスはノーカンだから!」
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