夜明 奈央
2024-05-04 20:13:12
938文字
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敦鏡 祝いの気持ちだけは誰よりも

敦鏡の結婚式を祝いたいけど正面から祝えない誰かさんの話
2023年1月7日初出

 その日、外に出て1番に目にしたのは、人生の門出を祝福するような突き抜ける青空だった。
 今日は鏡花ちゃんとの結婚式。お互い色々あったけれど、これからは、というか、これからも、助け合って生きていくと決めた。そのお披露目の日だった。
 とはいえ、あんまり形式ばったものは苦手なので、披露宴は立食形式にした。参加者もほとんど探偵社の面々だけで、雰囲気も和気藹々としていた。時々太宰さんや乱歩さんから飛んでくる揶揄いの言葉には照れてしまうけれど、祝福してくれているのがわかるからそれ以上に嬉しくなる。国木田さんだって今日は珍しくお小言のひとつも言わない。鏡花ちゃんもみんなもにこにこと幸せそうに笑っていた。
 その雲行きが怪しくなったのは、お色直しをして戻ってきた直後だった。受付に、不審人物が1人。最初は違う会場の人が迷ったとか、そのぐらいかと思った。けれどどうにも覚えがあるような気がして気になってしまった。誰だろう? その答えは、その人が受付の人との話を終えて振り返った時にわかった。マフィアの幹部の人だ。
 止めなきゃ、と思った時にはもう走り出していた。鏡花ちゃんが慌てて呼び止める声が聞こえたけれど、それに応える余裕はない。
「待ってください!」
 詳しくは教えてもらえないままだけれど、鏡花ちゃんと何らかの因縁がある人だということは知っていた。咄嗟には名前が出てこなくて、それ以上呼びかける言葉が見つからない。
 遠ざかる足は止まる気配がなくて、結局その背中に向けて叫んだ。
「会って、鏡花ちゃんに直接お祝いの言葉を伝えてあげてください!」
 その人が足を止めて振り返った。
「私が祝いに来たと何故思うた?」
 言われて初めて気づいた。けれどその声は笑っていて、祝いに来てくれたのは間違いないのだとわかった。
「鏡花を頼む。幸せにしてやっておくれ」
「はい」と返事をしようとしたら、いつの間にか隣に来ていた鏡花ちゃんに手を引かれた。
「幸せでも、幸せじゃなくても、この人と一緒に生きていきます」
 その人は返事はしなかった。代わりに綺麗に笑って、それからゆっくりと去っていった。

 貰ったご祝儀の山の中から出てきた無記名の分厚いご祝儀袋に恐れ慄くのは、翌日の話。


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