kaede
2024-05-02 16:13:25
1947文字
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部屋に戻ったら一彩くんが自分のベッドで寝てて「!?」ってなるニキのはなし

ニキひい
まんがで描くつもりのネタだったのでいずれ描きたい

 機材トラブルだか何だか知らないけれど、今日は仕事が早く終わってほしかった。と今さら言ったところで……その時点で言ったところでもどうにもならないことを頭の中で繰り返しながら、途中からは弟さんのことで頭をいっぱいにしながら、ついでに口の中は途中で寄ったコンビニで適当に買ったパンでいっぱいにしながら、急いで寮に戻った。なんてったって、今日はひなたくんが泊まりの地方ロケで留守にしているのだから。
 先に言っておきますけど、せっかく弟さんと部屋で二人きりになれるのにその時間が減ることを嘆いているわけじゃないっすからね。僕が戻らなかったら弟さんは部屋でずっとひとりぼっちでいることを心配しているんす。弟さんはああ見えて、意外と寂しがりなところがありますから。
 僕は誰に説明してるんすかね。
 そんなわけで僕が寮に着いた頃には夜の十時近くなっていて、ただいまっす、と急いで部屋のドアを開けると、そこに弟さんはいなかった。電気は付いているから、少しの間部屋を空けているのか、もしかしたらお風呂にでも入っているのかもしれない。
 待ち侘びた顔で出迎えてほしかったなぁ、なんて僕にだけ都合の良い贅沢なことを考えながら、とりあえず着替えよう、と何気なく視線を動かして、声が出そうなほど驚いた。というか。
「えっ!?」
 実際、出た。
 急いで引っ込めたから、それほど大きな声にはなっていないと思うけれど。
 いないと思っていた弟さんが、僕の視線の先にいた。
 具体的には、僕のベッドの上に。
 僕の枕を抱いて。
 いやいやちょっと待ってくださいっす。僕はどのあたりから手をつければいいんすかね……手をつける、って、変な意味じゃないっすよ。どこからツッコミを入れればいいのか、って、そういうような意味っすよ。僕が帰ってきたことにも気づかないくらいに眠りこけている弟さんに手をつけるなんてそんなこと、さすがに……
 なんて思っているうちに僕は僕のベッド脇に到着していて、ご丁寧に膝立ちをして弟さんの寝顔を至近距離で眺めているので、ダメっすよ! と自分自身を叱咤した。
 何について叱咤したかは想像に任せるっす。
 そしてその想像を裏切れなかった僕を叱ってほしいっす。
 だって、その、付き合ってる……そう、僕らはお付き合いしてるんすけど、付き合ってる彼氏のベッドでこんな無防備に寝られたら、期待だってしちゃうじゃないっすか。
 起こさないよう、そうっと頬を撫でると、弟さん……一彩くんがむにゅむにゅと笑うので、うわあ、ってなった。うわあ、とはなんだ? って? 一彩くんみたいなこと聞かないでください、想像にお任せします。
 ……ああ、そうか。一彩くん、きっと僕がベッドサイドにしまい込んでる非常食を探してるうちに、眠たくなって寝ちゃったんすね!
 って、一彩くんは人のものに黙って手をつけるような子じゃないでしょ!
 じゃあ、何で君は、僕のベッドで寝てるんすか?
 それじゃまるで、お腹を空かせて帰ってきた僕に食べられるのを待ってるみたいじゃないっすか。
 ……いやいや、それは僕の勝手な妄想っすよ。もしかしたら、一人が寂しくて僕の匂いに包まれたくなっただけかもしれないじゃないすか。
 いやそれだって相当アレっすよね。燐音くんじゃないですけど、アレだよ!ってやつじゃないすか。
 ……もしそうなら、僕はどうやって、君のその寂しさを埋めてあげればいいっすか?
 一彩くん……いやいや、今僕、何しようとしました? 寝込みを襲うような真似はしちゃダメっす!
 ああでも、君の唇がとても寂しそうだから……
……椎名さん」
「はひぃ! すみませんでも僕まだ何もしてないっす!!」
……ならこれから、してくれるのかな」
「はい、それはもう!! ……? 一彩くん?」
 呼ばれてはにかんだ一彩くんの顔を見て、一瞬だけ天才になったのか、と思うくらい頭が光よりも早く働いて、全部、わかった。
……一彩くん、狸寝入りしてました?」
「ごめんね」
 一彩くんは同意とともに素直に謝りはしたけれど、その顔は、僕の反応を面白がっているようにも見える。というか実際、悪意はなくても、好奇心旺盛という意味で楽しんではいたのだろう。
 まさか君がそんな、燐音くんみたいなことをするなんて……燐音くんに比べたらかわいげしかないけれど……思わなかった。
「君、そんなに悪い子でしたっけ?」
 僕の心を弄んだのだから、これくらいは言っても許されるだろう。
 もうあと数センチ近づけばすぐにでもキスできるくらいの距離で問うと。

「僕を悪い子にしたのは、椎名さんだよ」

 一彩くんはふにゃりと笑って、自分から、その距離をゼロにした。