みたむら
2024-05-02 10:34:19
3049文字
Public 刀剣乱舞(長義さに)
 

あなたは冷たい人【Web公開版】

2023.06.24「W山姥切と女審神者版60分一本勝負」(X:@95_158_328)様
テーマ:紫陽花
紫陽花を見かけて鑑賞する審神者と、先に歩いていく長義の話。

2023.06.25「花嫁の守刀 JB2023」無料配布本より
お手に取っていただいた方、ありがとうございました!
※読みやすいように一部修正しています。

 季節は梅雨時の、ある日のこと。
 私は、仕事が一段落つくと息抜きに散歩に出かけることにした。
 身支度を調えると、先に解散させた長義が執務室に戻ってきていた。

「どこか出かけるのかな?」
……ええ、気晴らしに散歩へ」
「なら、俺も一緒に行ってもいいかな? 護衛も務めよう」

 そう言って彼は羽織を軽く調える。
 その姿も様になって見惚れてしまうほどかっこいい。しかし、私たちは時間遡行軍と戦う仲間――審神者と刀剣男士という主従関係でしかない。
 私は、高鳴る胸を落ち着かせるようにこくりと頷いた。

(私に気があるわけじゃない。あくまで、刀剣男士として仕事を全うしようとしてくれているだけ)

 自惚れてはいけない。私は彼が廊下に出たところを隙だと思い、頭を横に振る。
 これはあくまで、付き添ってくれている。私に気があるわけじゃない、そう何度も脳内で語りかけて。
 私は、密かに長義に恋をしている。
 彼が好きだと自覚したのは少し前。きっかけは初期刀の山姥切国広と会話をしているときだ。
 私自身、長義が気になる存在だと認識していた頃で、それが恋愛感情の「好き」だと気づくのが遅かった。国広から「最近、本科と仲がいいな」と話題を振ってきたからだ。近侍をずっと彼にお願いしているから、察しがいい刀剣男士は密かに知っていたのかもしれない。たまに私と長義が話をしているところを見かけると、手や口パクで『頑張れ、主』と応援してくれたからだ。
 初めは『何を?』と思いつつもそれが国広から話題を振られたことでこのことかと知った。

 それからというもの、私は彼を男性と意識してしまってしばらくおかしかった。
 目が合うとそらしてしまうし、仕事以外で会うと挨拶を交わすなり逃げるように違うところへ行ってしまう。
 初めは彼も何かを察したのかそれ以上追いかけたり、問い詰めてきたりはしてこなかった。まさしく紳士とは彼のような人をいうのだろう。そこがまた、もっと彼を好きになってしまうのだが。

 春になった辺りから長義からよく声を掛けられるようになった。
 その度に胸がドキドキして、嬉しい反面意識してしまっている私が恥ずかしい気持ちもあった。
 彼なりに気遣ってくれているけれど、私が異常なせいで最後は苦笑した、どこか悲しい表情を見せていた。
 私がそうさせてしまっていることも分かっていて少し胸が痛む。
 これからどう彼と接したらいいのか一人で考えようと思い、一人で散歩に出かけようと思ったら、彼が一緒に行くという。
 嬉しいけど、また傷つけてしまうんじゃないかという不安の複雑な気持ちだ。

 私たちは、本丸を出て行こうとするところを歌仙兼定とばったり会い、二人分の傘を渡してくれる。
 彼曰く「今日の午後は雨が降るみたいだ」とのことだ。そういえば、天気予報もそう言っていたような気がする。
 目的はとくになく、ただ道端に沿って歩いて行く。たまに通り過ぎていく人や刀剣男士に挨拶をしつつ長義と歩く。
 私たちの間には沈黙が続いていた。何か会話をした方がいいのかもしれないが、正直何を話題に出しても裏目に出てしまうような気がして口を開けても閉ざしてしまう。

(長義は、私と散歩なんてしても楽しくないんじゃないかな……

 まっすぐ見ている振りをしつつ、目は隣に歩く長義を盗み見る。
 彼は嫌そうでもなく、でも嬉しそうでもなく、ただ無表情で前を向いていた。その凜々しい横顔にまたドキッと胸が高鳴る。

 胸の鼓動をどうにか沈めると、ふとある花を見つけ、足を止めてしまう。
 ある一軒家の庭から、顔を出すように紫陽花が綺麗に咲いていた。紫色、青色、水色……とても綺麗な色合いだ。
 じっと紫陽花を見る。
 お花の知識はそんなに多くないが、眺めるのはわりと好きだ。審神者じゃなければ、わりと植物園とかよく行っていた方だ。あと、庭園だったりも見に行っていた。
 紫陽花を見ていると、私が立ち止まっているのを気づいていないのか、紫陽花を通してスッと歩いて行く長義の後ろ姿が見えた。

(やっぱり、私の恋はこれくらいの距離しかない、んだよね)

 私が近くにいないことも気づかず、どんどん距離が空いていく。
 それがまるで、私の恋は叶わない、と安易に示しているようにも見えた。それがまた、胸が痛んだ。
 私は少し一軒家の周りを囲む紫陽花たちを見せてもらおうと、ゆっくり歩いて行く。

 途中で、雨が降り出した。
 私は、歌仙からもらった傘をさすと、雨から守ってくれる。
 傘をさしながら、紫陽花を観賞する。わりと久しぶりかも、と思うと少し笑ってみる。

「私が彼をおいているのか、彼が私をおいているのか……どっちも、なのかな」

 雨に打たれながらも綺麗に咲き誇る紫陽花に、少し触ってみる。
 花びらについた雨の滴が、私の指を伝って次第に土に降りていく。
 この恋は叶いっこない。なぜなら私は人間で、彼は刀剣男士だから。
 一緒になるなんてことは一生ないのだろう。死ぬのもおそらく私が先だ。その時点で人間と付喪神で恋愛をするなんて夢のまた夢だ。
 早く諦めなければいけない。そうしないと、主として失格だ。
 一つ一つの紫陽花の花を見ると、歩いて行く。それを繰り返していると、後ろから走っている足音が聞こえた。
 雨が降っているのにジョギングしている人もいるのか、と振り返ってみると、長義が濡れたままでこちらに走ってくるのが分かる。

「主! ……どこに行ったのか探したよ」
「ご、ごめんなさい。綺麗な紫陽花があったから、つい……

 ぜぇはぁ、と呼吸を整える長義に、私はもう意味をなさないかもしれないけど傘をあげて、中に入れる。
 彼は「ありがとう」と呼吸が落ち着くとかがんでいた腰を上げた。

「君はいつもそうだ。いつからか、俺から離れようとする」
「ごめん、なさい」

 それは、私が貴方をただの刀剣男士として見えていないから。
 一人の男性として意識してしまっているから。
 この気持ちが伝わったら困らせてしまう。
 気づかれないようにするには、離れるしかない。

 思わず、顔を伏せてしまう。どんな顔をすればいいか分からない。だから謝っている振りをして、顔を隠すしかない。
 嫌われたくない――そう思っていたら、手に持っていた傘がひょいと彼が取る。
 私は驚いて顔を上げると、優しく微笑みながら「行こうか」と言って私の手を握った。

「たまには紫陽花を見ながら歩くのも悪くない。雨の日も、ね」
「あの、手……
「離さない。逃げないように、今日は一緒に行こう――いや、今日からずっと」

 そう言って、彼はぎゅっと私の手を握る。まるで離さない、逃がさないと言わんばかりに。でもそんなに強くじゃない。
 今、彼と手を握っている。また胸がドキドキしている。この恋を封印しようと思っているのに、それを軽々と封印させまいと破ってくる。

「一人にはさせない。俺がついている。主が逃げようとしても、俺が追いかける。だから、離れないで」
「う、うん」

 私はこくりと頷いて少しだけ彼の手を握った。すると、にっこりと彼は笑った。
 雨が降ったその日の散歩は、とても特別な時間だった。
 今はまだ、この恋に浸っていたい。
 未来はどうか分からないけど、今だけは、このままで――

「あなたは冷たい人」完