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溶けかけ。
2024-05-02 07:21:28
1506文字
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ほぼ日刊
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君は慈悲深き人だった
忘愛症候群にかかったヌともう戻らないフのお話。
※グロ注意
「泡沫となるがいい!」
ヌヴィレットの攻撃で彼女に群がる異界の獣は無惨にも引きちぎられて消えていく。
鼻をつく程の鉄の香りを漂わせる方へと彼は向かうと噛み千切られてぼろぼろになった華奢な体を抱き上げた。ぽたぽたと赤い雫が流れ、固く閉じられた瞼の端には薄っすらと涙の痕が見られた。
彼女に縋り付くように抱き締めるヌヴィレットの前に青く瞬く塊が現れる。
「君は
……
衆の水の歌い手か
……
」
フリーナのサロンメンバーの一人。彼女にも純粋精霊にも良く似た歌い手はヌヴィレットに微笑みかけたように見えた。
「 」
「
……
!」
ヌヴィレットが手を伸ばす。
歌い手は彼の手が触れる直前でぱしゃん、と力尽きたように地面に落ちて水溜りを作った。遺された神の目が色を失い、曇天色に染まる。
「!ヌヴィ
……
」
旅人が追いついて最初に目に入って来たのは大雨が降りしきる中、立ち尽くすヌヴィレット。
彼は見覚えのある青色を抱えていた。
「旅人か
……
」
無機質な声が己の名を呼んだ。旅人は唇を噛み締めてからゆっくりと彼に近づく。
「っ
……
ここは冷えるよ。寝かせるならもっと暖かいところの方がいいと思うな」
虚ろなヌヴィレットになるべく優しく呼びかける。所在なさげに揺れる瞳は迷子の子供のようだった。本来なら彼の手を引いてくれるはずの存在は彼の腕の中で醒めることのない眠りについている。ならば自分が彼女に代わり、引いてやるしかないのだ。
「ああ」
短く返したヌヴィレットは旅人の言葉に従っている。そう、ただ従っているだけだ。
「
――
全て思い出した」
ヌヴィレットの言葉にそう、と返して続きを促す。
「彼女は諦めなかった
…
記憶を失くした薄情者の私にいつも会いに来てくれた」
毎日、憎悪をぶつけられようと拒絶されようと執務室に足繁く通う彼女は笑顔で言ったのだ。
「今日も良い日になるといいね」
――
それが最期の会話になるとは露知らず。いつも通り煩わしい人間だと邪険に追い出した。彼女が泣きそうな顔で笑っている理由も忘れて。
「私は
……
どうやって償えばいい
……
?」
震える声でヌヴィレットが物言わぬフリーナに問いかけた。
当然、彼女が答えを返すことはなかった。
数日後、ひっそりとフリーナの葬儀は執り行われた。獣に食い荒らされた遺体を晒すのはフリーナにとっても、彼女を慕う者たちにとっても酷だと判断し、パレ・メルモニアの横にある七天神像の前に献花台だけが設けられた。
旅人は埋められる棺を見ながら、涙を流し続ける空を仰いだ。重苦しい灰色は彼の心情そのものなのだろう。
旅人は目を伏せる。
フリーナは死ぬ間際までこの国の神であった。
彼女は勇敢にも襲われた商団を逃がし、魔物を屠り続けていた。そして、自身が事切れても商団の人間が安全なところへ逃げ込むまでサロンメンバー達は彼らを守り続けた。その証拠に商団の者達は怪我一つなくフォンテーヌ廷へと辿り着いた。特巡隊やヌヴィレットが駆けつけた途端、役目は終えたというようにサロンメンバー達は水へと還ったという。
空に手を翳せば冷たい雨が旅人の手を伝っては地面へと落ちていく。
――
この国で雨が止むことはもうないのかもしれない。
ぼろぼろになった彼女の姿が脳裏を掠めた。500年も一国の主として君臨し続けた女王の最期にしては酷くあっけない最期だった。
旅人は目を閉じて願いを込める。
ここにはいない彼女に代わって。
「水龍、水龍、泣かないで」
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