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てくてく
2024-05-01 17:37:19
3672文字
Public
【とのあけ】
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【とのあけ】ジェッドとハイヴィーの過去話
小雨が降る、南の島。
誰かが「嵐が来そうだ」と呟いた。
黄土色の壁に苔が生え草が生え、森の中にひっそりと佇む古い遺跡。
地響きと共に爆音と土煙が上がる。
遺跡の外へ吹き飛ばされた男は、為す術なく地面へと叩きつけられた。
「ぐ
……
これが、試練だと
…
?ふざけた真似を
…
」
雨の中を転がりドロドロになった男は、ふらつきながらも立ち上がる。サーっと湿気を含んだ風が吹くと、土煙は視界の端に追いやられた。
「!
…
レオン!おい!しっかりしろ!」
「
……
ジェッド、か?
……
無事で、良かった
…
」
「無事じゃないのはお前の方だ!他のみんなは
――
」
『ゾクリッ』
言いかけて、周囲の空気が急に冷えたのを感じた。「背筋が凍るとはまさにこの事か
…
」と渋い顔をしながら立ち上がると、気配のする遺跡の入り口の方へ神経を集中させた。
……
暗がりから何かが這い出る。
『ズルリ
…
ズル
…
ズル
……
』
雨雲は【それら】にも平等に雨を降らせる
――
「!!
……
生きてるのは俺とレオンだけか
…
。くく
…
全く、笑えない冗談だ
……
」
見知った顔
――
さっきまで会話をし、共に敵と対峙していた仲間たち。
【骸】となったそれらは、冷たい瞳で空(くう)を見つめる
……
「くそっ
…
逃げろ
…
ジェッド
…
」
「お前たちを置いて逃げるわけが無いだろ
……
これは俺の責任だ。俺が方を付ける
…
」
男は右手を自分のピアスに近づけ、ブツブツと呪文を唱え始めた。
1つの黒いピアスがギラリと光ると、人の手の形をした【何か】が2体、対になって現れた。
「
…
ミセリコルディア。あいつらは俺の仲間だ。覚えているだろ?これ以上むやみに傷つけたくはない
…
だから
――
」
人の手にしては白すぎる【それ】がくるりと2体同時に回転すると、大きさが人の倍以上になっていた。
「一気に片付ける!行くぞッ!!」
勢いよく飛び出した白い両手は、術者の手の動きに合わせて関係のない骸を屠る。
そしてそのままの勢いで仲間の骸を拘束しようとした時だった。
「ちょ、ちょっとちょっとー!やめてよーも~!みんな壊れちゃうじゃない~!」
若い女の声をした小さな妖精が、骸の影からひらりと現れた。
ギョッとした男は、両手で挟み込もうとしていた自分の手を、すんでの所でギュッと握り上げた。
「だ、誰だお前は!こんな所で何をしている!」
「何って
…
死体回収だけど?」
笑顔で答えた妖精に悪意は感じられない
……
が。
「死体回収だと
…
?まさかお前、ネクロマンサーか?」
「あったり~!ここの遺跡、挑戦しに来る冒険者がたまーにいるんだよね~!
…
なんでも?【希望】と契約出来るとか何とか。あなたたちもそうなんでしょ?数日前に村で見かけたよ!」
(よく喋る妖精だ
…
)と心の中で呟きながら、目だけで周りの様子を窺う。
「でも【希望】と契約しようとして、殺されちゃうなんてなんだか
…
あ!大丈夫大丈夫!遺跡の外までは追っかけて来ないよ?試練?は、遺跡の中だけ有効なんだって~」
「
…
じゃあそこら中にいるアンデットは、全部お前のなのか?」
「え?うん!そうそう!みんなとりあえず村に連れてくの!遺跡に放置しっぱなしだと困るし、定期的に見に来てるの!」
「
……
何が目的だ?」
無邪気に笑うこの妖精。悪意は感じられないが、職があえてあのネクロマンサーで、更にこれだけのアンデットを一度に従えられるのだとすると
……
余程の力の持ち主なのだろう。だが男には妖精がこんな事をする理由が分からなかった。
「人を助けるのに、理由が必要?」
「助ける
…
だと?」
「
…
このアンデットたちは骸に戻して村の蘇生士さんに見てもらうの。そうすれば助かる人もいる
…
もちろん助からない人もいるけど、その場合はあたしがこの人たちと一緒にいる。仲間になるの
…
あなたたちみたいな」
真っすぐに見つめてくる赤い瞳。さっきまでとは違う落ち着いた声色。
何もかも見透かしたようで、それでいて優しく見守っているこの暖かな海のようで
……
「いや
…
すまない
……
」
「えー!?な、何で謝るの?」
「
……
」
「も~!言ってくれなきゃ分かんないよ~
…
と、とにかく!そっちの倒れてるお仲間さんと一緒に村まで行こうよ!歓迎するからさ!」
「ああ
……
」
--------------------------
こうして、男とその仲間は村で蘇生術を受ける事になるが、6人パーティの内の2人は戻ってこなかった
……
「
…
みんな、本当にすまない
……
」
「あ、頭を上げろよ
…
お前のせいだけじゃないって。オレだって立ち回りが悪かったし
…
」
頭を深々と下げる男に対し、鎧を脱いでベッドで足を吊っている男は慌てて頭を上げるように促した。
「いや、レオン。俺が召喚獣を増やしたいなんて言わなければ、こんな事にはならなかった」
「それを言ったらオレだって賛成したし、みんなだって
…
」
「アタイは反対してたけどね?まぁ、アタイたちが助かったのはアンタとあの妖精ちゃんのおかげだけどさー、確かにそもそもはアンタのせいなんだよね~って」
「お、おい
…
!」
前々からパーティ内で浮いてる男に対して、女は良い感情を持っていなかった。
ヒリつく空気。そしてしばしの沈黙の後、ヒューマンの青年が声をかける。
「
……
あの、こんな時に言うのはアレなんですが
…
僕たち兄妹は実家に帰ろうと思います
…
」
「え!?あ、そ、そうだよな
…
でも道中キミ1人じゃ
……
」
「大丈夫です
……
大切な妹だったんです。最後くらいはちゃんと護ります
…
」
そう言いながら妹の遺骨が入った箱を、大事そうに抱え直した。
皆の顔が暗くなる。このパーティは更にもう1人、ハーフリングの青年が戻ってこなかった。
「
……
みんなの治療費は俺が必ず返す。本当に
…
本当にすまなかったッ!」
「ジェッド
……
」
「
…
解散だよレオン。アタイら、このままじゃ無理だ」
「だがッ!」
諦めの表情、深い悲しみ、後悔、嫌悪
……
「
……
分かった。オレたちのパーティは、今日をもって解散だ
…
」
--------------------------
それから数週間が過ぎた。
臥せっていたレオンも魔法や魔法薬のおかげで歩けるようになり、「一度故郷に帰る。何かあったら連絡してくれ」とジェッドに伝えると、この島を後にした。
男はその様子を見届けた後、遺跡の見える丘までやってきた。草の上に座り、今までと、これからの事を考えていると、不意に上から声がした。
「あ!こんな所にいた~!」
ひらりと現れた妖精は、男の横に座ると笑顔で話を続ける。
「いやぁ~実はあたし出戻りなんだよね~!一度ギルドに登録しに行って~各地をうろうろして~、でもなんか上手くいかなくて~!」
「
……
」
「人生、色々だよ?大変な事だって起こるよ~」
「
……
」
「ね~、顔がアンデットみたいになっちゃってるよ~?大丈夫~?」
男は立ち上がり妖精に背を向ける。
「
……
俺はまだ死なない
…
今死ぬわけにはいかない
…
」
「でも【死にたそうな顔】してるよ?
……
はぁ、まったく
…
ま、死にたくなったらまた来てよ。あたしは待ってるからさ
…
ずっと
…
ね?」
振り返るとそこにはそっと微笑む妖精の姿があった。
真っすぐに見つめてくる赤い瞳。
何もかも見透かしたようで、それでいて優しく見守っているこの暖かな海のようで
……
荒れた海原のような、強い瞳で
――
--------------------------
◆後日談◆
ここからジェッドは借金を返すために、1人で冒険したり臨時PTを組んだりしてコツコツ返済していきます。
その時にもなんやかんや色々あって、すっかり心が荒んでしまい人を信じられなくなり、独りで『クピディタース』と契約を交わします。
そんな中、ようやく借金を返し終わった後にふらりとまたこの南の島に立ち寄ります。
ハイヴィーの言った事をかすかに覚えていたのか
…
青い妖精を探そうとフラフラと彷徨いますが、実は当時ハイヴィーの名前を聞いていなかったので、全く見つけられず
…
そして心身共に疲れ果てていたジェッドは、夕日の見える浜辺をザブザブと沖へ沖へと進んで
…
いたところに運よくハイヴィーが見つけて止めに入ります。
「ちょ、ちょっと!何してるの!?溺れちゃうよ!」
「
……
探していたんだ
…
青い妖精を
……
海の、妖精を
…
」
「!
…
そっか。うん。お帰り
…
待ってたよ!」
「
……
ああ
…
あぁ
…
!
…
ただいま
……
」
と言いながら、全く泣かないジェッドが泣いて、その後ぶっ倒れます。
その後のお世話もハイヴィーがしてくれて、その献身的な世話のかいもあって徐々に良くなり、【希望】こと『エスペランサ』の試練に2人で再挑戦し、見事契約を交わす事が出来たのです。
そして心身共にハイヴィーに救われたジェッドは、多大な恩義を感じるようになり、今に至る
……
という感じです。
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