マロビ
2024-05-01 11:53:24
5077文字
Public リョ三
 

ルームシェアは三井サンと

【SD/リョ三】
セフレで遠距離だったリョ三がリョの帰国に合わせてルームシェアする話。
「一年ぶりに三井サンと」の◯年後の話だけどこれだけでも分かるはず。
⚠️性行為前後の描写があります

※Xのリョ三ワンドロワンライさんからお題借りてます
お題:送れなかったエアメール

ルームシェアは三井サンと


 電話の向こうの三井サンがしばらく黙った後に「……それじゃあ一緒に住むか?」と言った。
 それがきっかけだ。
 オレは日本へ帰国後、セフレだった三井サンとルームシェアすることが決まった。

 アメリカで荷物をスーツケース一つにまとめたし、足りなければ日本で買えばいい。
 だから三井サンから送られてきた地図に書かれたマンションへは、引越しというには身軽な姿で訪ねた。
 三井サンが新しい転居先を決めて準備を進めてくれたおかげでもある。
 アメリカからの帰国を決め、日本のプロバスケットボールチームへの移籍が決まった時、真っ先に三井サンのことが浮かんだ。
 オレと三井サンは高校時代から体の関係がある。それはアメリカ留学してその後プロとして活動している間も細々と続いていた。
 だからちょうど引越し予定だったという三井サンからルームシェアの提案をされた時は嬉しかった。
 これからは三井サンとずっと一緒にいられる。
 三井サンはオレに『好き』みたいな言葉は言わない。オレもすぐに会える関係じゃないからその言葉を強請ねだったりしなかった。
 それでも三井サンは会えば体を許してくれるから、好かれているんじゃないかと……ルームシェアと言いつつこれは『同棲』なんじゃないかと浮かれる気持ちすらあった。
 マンションの扉を開いた三井サンの曇った表情を見るまでは。
「待ってたぜえ、宮城」
「み、みついサン……?」
 顔と言葉はそれで合ってる?
 ジワッと、……もしかして嬉しかったのはオレだけだったでは、という不安が沸いた。
 想像では久しぶりの再会に笑顔になる三井サンを玄関先で熱くハグする予定だったのに。ちょっとゲッソリしてみえる三井サンの様子に気が削がれた。
「え、なに? どーしたの?」
「早く入れ。オレはもうダメだ」
………………なにが?」
 スーツケースを玄関に引き入れてようやく中の惨状に気づいた。
 廊下に積まれたダンボール。
 オイ、全然荷物が片付いてねーじゃんか。
「宮城が来る前に片付けようと思ったんだけどよぉ、全然進まねぇ。徳男とか呼べばよかった」
「これさあ、こんなに必要? アンタ一人暮らしだったのに荷物多すぎねえ?」
 オレなんてスーツケース一個にまとめてんのに。
「だって一人暮らしの時の家具じゃ足りねーだろ。棚とかテーブルとか買ったら、どうしてかダンボールがたくさん届いて訳わかんねーよ……。これ、オレが全部組み立てんの?」
 適当にネットで注文したんだろう。完成品が届くと思っていたら材料だけ届いて慌てる三井サンが目に浮かんだ。
「だいたいなぁ、オレは部屋片付けんのも苦手だし……こういうのはお前のほうが得意だろ。オレなんてこっちに越してからずっと、ダンボール抱いて寝てんだぜ」
 廊下のサイドにある扉から見えた寝室のベッド。その上にまでダンボールが乗っている。
「そーすね……。全部三井サンに任せてしまってスミマセンっした。とりあえず必要なモンだけ手ェつけて、他は少しずつ進めましょ。大型家具の組み立ては徳男さんでもいいけど、便利屋とかお金でやってくれるプロに頼んでも良いし」
「おお? なるほどな!」
 パッと明るい表情を浮かべた三井サンは「いやぁ〜、どうなることかと思った」とぼやきながら廊下の先のリビングの扉を開いた。
 そこにもダンボールが積まれていて……オイ、どこを片付けたって? よけいに散らかってんじゃねーのか、これ。
「まあ、そーいうわけだ」
 言葉にしなくてもオレの目で言いたい事を察した三井サンは開き直って胸を張った。

 結局、片付けもそこそこにオレはダウンした。長距離移動の疲れを引きずっていたオレは三井サンの部屋にあるベッドを借りると、上に乗っていたダンボールを引きずり降ろして布団の中に潜り込んだ。
 このベッドは前の部屋から三井サンが持ってきたらしい。見覚えのあるベッドは寝心地が良く、いい匂いがした。
 「弁当買ってくるぞ」って声をかけられた気もしたけど、すぐにストンと意識が無くなってどんな返事をしたのかも覚えていない。
 次に意識がハッキリしたのは三井サンが上に乗ってきた時。ポタッと水滴が頰に落ちてきた。
 窓の外は暗く、間接照明で少し明るい部屋の中。
 シャワーを浴びたのか湿った前髪を後ろにかき上げた三井サンが、オレの上に跨ったままニヤッと笑った。
「疲れてんだろ。おめーは寝てろよ」
 優しいのか、意地悪なのかわかんないセリフ。三井サンの目はどうみても悪戯する気マンマンで、そんな相手を前にして呑気に寝ていられるほどオレも枯れてねえ。
「三井サンの顔みたら、疲れなんて吹っ飛んだから」
「嘘ついてんじゃねぇ」
 嘘じゃねぇし、と嘘をつく前に三井サンの唇でふさがれた。

 昨夜は途中で寝落ちしたらしい。目覚めると裸のまま三井サンとくっついていた。
 ぐっすり寝た気がする。夢も見なかった。
 最後の記憶では窓の外が暗かったのに今は明るくなっていて、時計を見るとやっぱり朝だった。
 目の前にある三井サンの裸の背中。
「またやっちまった……」 
 後悔でズシリと心が重くなった。
 昨夜は煽られて三井サンの挑発に乗ってしまった。
 帰ってきて早々、まだろくに会話もしていないのに、体だけは欲に負けて繋がって。
 ……オレたちってやっぱりまだセフレなんでしょーか。
 そろそろ恋人に昇格かと思っていたのに、そんな甘い会話もムードもカケラすらない。
 オレばっかり好きな気がする。オレばっかり会えて嬉しくなってんじゃねーの。
 三井サンの体は言葉よりも雄弁だ。気持ちよければ素直に反応するし、拒絶されていないと肌を通して伝わってくる。
 だからオレも、三井サンの体ばかり求めて三井サンの言葉を求めることを疎かにしてしまうのかも。
 オレに背を向けて寝ている三井サンの背中に額を押し当てるようにくっついた。それでもまだ起きる様子はない。
 こんなにモヤモヤするなら、こっちに帰ってくる前に電話でハッキリと三井サンの気持ちを聞いておけばよかった。
 もういい大人なのに、いつまで尻込みしてんだ。
 これからは一緒に住むんだから、もっと色んなことを話したい。三井サンの心を知りたい。
 でも、いまさらセフレのひとりだって言われたらどーすりゃいーの?
 こんなにそばにいて、オレ以外の恋人を作る三井サンなんて許せる気がしない。
 ぐうと腹が情けない音を出した。昨日の昼以降何も食ってない。
「三井サン、まだ起きねーの?」
 声をかけても返事がない背中に諦めて、ひとりでベッドから起き上がった。

 ダンボールを開いた時、見覚えのある菓子箱に一瞬なんだったかなと思考を巡らせた。
 そんなオレの後ろで電子レンジが鳴った。
 あまりにも腹ペコで、冷蔵庫にあった弁当を勝手に温めていた。その間に備え付けの食器棚に食器を片付けようとしていたところだ。
 でも『食器』と書かれたダンボールに入っていた菓子箱。妙に心に引っかかるその箱の蓋を持ち上げて中身を見た時、「あ」と声が漏れた。
 これ、オレがアメリカから出したエアメールだ。
 封筒の束が菓子箱にピッタリと収まっていた。
 見覚えがあるのは、この箱が三井サンの部屋の棚に置いてあったからだ。
 思わずニヤけてしまった。
 三井サンから手紙は届いたことがなく、返事はいつも電話だった。いつからかオレも電話しかしなくなったけど……こうやって保管してくれていたなら、もっと出せばよかった。
 封筒に書かれた英語の文字は自分のものだけど、中に何を書いたか覚えていない。でも照れ臭くて中を開いて読む気にはなれなかった。
 ただ、「何通出したっけ」という好奇心だけで封筒の束をめくっていった。
 その指が止まる。
 一番下にある見覚えのない封筒があった。
「三井サンの……手紙?」
 三井サンから一度も届くことのなかったエアメールが、そこにあった。
 英語で書かれた宛先は確かにオレ。切手も無く、封を糊付けされていない封筒は、宛名だけ書いて箱の底で眠っていたらしい。
 見てはいけないものを見つけてしまった気がする。ドキドキしてきた。
 オレ宛てとはいえ、勝手に読んじゃいけないよな。分かってる。
 分かってるけど、手紙を箱に戻すことができずに立ち尽くしていた。
 ここに、三井サンの言葉が……その心が綴られているかもしれない。

「何やってんだ?」
「おわっ」

 手の中の封筒をいつの間にか背後にいた三井サンに取り上げられた。
 勝手に見て怒られるかと思ったけど、封筒を確かめた三井サンは「あぁ、コレか」と呟いただけで特に怒る様子はなかった。
「あの、それ何が書いてあるんすか?」
……これ見てぇの? 別に良いけど」
「えっ!?」
「おめーが中になんて書いてあるか当てたらな」
……ええっ?」
 それ、難しくない?
 三井サンが書きそうなことってなんだろう。無難に――
「元気にしてるか? とか……
「ハズレ〜」
 それがハズレ!? 手紙の書き出しで一番無難なやつなのに。
 一度も三井サンから手紙が来てないから、もう全く見当がつかなくなった。
 いや待てよ。
 ……この手紙は三井サンが出せなかった手紙だ。つまり、オレに伝えようとして、でもやっぱり思いとどまった言葉なんだろう。
 それはもしかして――
「好き……とか?」
 三井サンの唇の端が小さくひくっと動いた。
「寂しいとか、会いたい……とか?」
 そう告げられれば苦しくなる。応えられない自分が悔しくなる。でも三井サンにはそんな感情を持っていて欲しい。
 そんなズルい願いが顔を出した。
 途端に、ワハハハハと三井サンの笑い声が響いて拍子抜けした。
「わかったわかった、おめーはそういう手紙が欲しいんだなっ」
「え、違うの」
 ポンと手の中に置かれた手紙。
「ハズレだけど見せてやるよ」
 恐々と封筒の中から便箋を取り出して開いた。

 ――白紙だ。

「って、オイ! これはズルいだろっ!」
「ンハハハハっ」
 完全にからかわれた。楽しそうに笑っている三井サンに怒りが湧いて、……すぐにしぼんだ。
 三井サンだから、封筒の宛名だけ書いて、中身を書くのが面倒になったんだ。電話の方が手っ取り早い、そう言いそうだ。期待したオレが間違ってる。
「はぁっ、もーいいっす」
 三井サンに背を向けて電子レンジを開けた時、後ろから抱きしめられた。
「みやぎ」
 耳にかかる三井サンの声。それが珍しく弱々しい声で、驚いたまま体を固まらせて振り返れなかった。
「ごめんな。手紙出さなくて」
「な、何言ってんすか。別にオレが出したくてやってたことだから、返事は期待してなかったし。それに電話はしてくれたでしょ。それで充分だったから」
「電話だと簡単なんだよ。宮城の声聞いて、安心して、スッキリして電話を切れる。でも手紙は……オレも何度も書こうとはしたんだけど……結局書けなくて」
 手に握っていた白紙の便箋。その書き出しの場所に迷うようなペンの跡が点々と残っていた。
「だって手紙だと『ツラくなったらいつでも帰ってこい』って書きそうになる。んなの宮城のための言葉じゃねえ、オレのための言葉だろ。宮城に会いたいオレの弱気から出た言葉だ。覚悟決めてアメリカに行ってるやつに、届けていい言葉じゃねえ」
 三井サンの言葉が胸に沁みた。
 アメリカでは悔しいことも絶望することもたくさんあって、それでも自分が納得いくところまで足掻けた。
 それは遠い日本から応援してくれていた三井サンの気持ちがあったからかもしれない。
 言葉にしないことで、三井サンはオレの背中を押していた。
「み、三井サン……オレ、そんなに、弱くねーから。帰ってこいって書いても……好きだ、寂しい、会いたいって書いてくれても、よかったんすよ」
「そーだな。それじゃ次はそう書いてやるよ。『一緒に暮らせんのが嬉しい』も追加するか?」
……おねがいします」
 くっついたままの三井サンの体が小さく揺れて、後ろで笑っているのが伝わってきた。
 後ろから抱きしめてくれる三井サンの手を握った。
 ありがとう、と言えない。
 瞼が熱い。
 濡れた頰を拭えないまま、三井サンの暖かい腕の中で目を閉じた。
 



END