ここは現代。
私は時の政府に所属する職員の一人だ。
普段は政府機関内で仕事をしているのだが、外に出向く人が急遽体調不良になってお休みになった。
仕方なく機関内で暇をしているように見えたらしい上司から、出動命令が下ってしまった。そして相棒として山姥切長義という刀剣男士も付いた。
「私が臨時で担当することになりました。よろしくお願いします!」
「ああ、話は聞いている。君は元審神者だったと聞いたが
……まぁよろしく」
顔を合わせて自己紹介を済ますと、山姥切長義は必要最低限は話さないように移動中もほぼ無口でいた。
それもそうか。本来は彼の相棒が一緒にいるはずで、私は突然配属になったわけなので不信感は持っていても仕方ない。
私は元々審神者をしていた。
だけど、とある調査にて私はヘマをしてしまい重傷を負ってしまった。
検査を受けた結果、命に別状はなかったが審神者を続けるには難しい体になってしまった。軽く走るくらいなら大丈夫だが、時間遡行軍と対峙して彼らに結構な霊力を奪われてしまったようだ。そのため本丸と刀剣男士の維持運用は難しいと政府機関に属する医師から告げられた。
この場合、私は審神者を引退し元の世界で一般人として過ごすか政府職員として審神者達を支える立場になるか、という選択肢が出てきた。
私は審神者生活が好きだったので今更この生活を離れたくない。
審神者ができないけど、彼らを支えたい
――そう思ったら政府職員としての道を選んだのだった。
審神者の知識もあるため、基本的には内勤での仕事が多めだ。だが、最近の外勤担当の職員らはあちらこちらと出払っており、人手不足状態。そして、彼の担当である職員は体調不良
――そこで私が外勤に選ばれてしまったのだ。
彼らの担当は現代に時間遡行軍が現れたというデータを元に、とある田舎町の調査をすることだった。私はほとんど都会の方にいたため、田舎のことになると右も左も分からない。
一応担当だった職員からの資料を引き継ぎ、内容をそれなりにだが把握した。が、今まで言ったことがない町だったため、半分は山姥切長義に頼るしかないのかもしれない。
新幹線に乗って現場へと走る。着いた頃には昼を越えていた。
まずは、泊まる予定の旅館へ向かいチェックインを済ます。
案内された部屋は二人部屋としては広すぎる部屋で、窓を見れば自然に囲まれ、空は綺麗に澄んでおり都会とは違う迫力があった。
「元審神者だというなら、大体のやり方は分かっているね?」
「重労働はできませんけど、出来るところは頑張ります」
「時間遡行軍が現れたらその都度断固撃破。期限は一週間。収穫はあってもなくても一週間で戻らなくてはならない」
「はい
……」
山姥切長義が淡々と調査の内容を教えてくれる。その度に私は久々の調査で緊張が走る。
審神者を辞めて一年以上経つ。つまり、一年間ほど機関内で仕事をしていたことになる。一年も経てば調査のやり方など忘れてしまう。
(ああ、やっぱり不安になってきた。山姥切長義に迷惑掛けないようにしないと
……)
上司から彼のことは聞いている。彼の主な仕事は特命調査と時間遡行軍の撃破。
基本的に時間遡行軍と遭遇するのは審神者側の刀剣男士だが、政府機関の配属された刀剣男士の仕事は、その審神者が調査がしやすいように事前に職員側が下見調査をするのだ。
実は、審神者よりも危険な仕事を政府職員側の外勤だったりする。なんせ、審神者側は予め職員らが調べたことを彼らに伝える。しかし、私たちは何も分からず足を踏み入れるのだ。しかも私のように元審神者出身者はまだしもほとんどは霊力もないごく普通の人間職員だ。その配属された刀剣男士は、審神者以上に弱い立場である人間の職員の護衛は厳しいのだった。
私の緊張している態度は、彼にも伝わっていたのかテーブルの前に湯飲みが置かれた。
「え?」
「まずはお茶を飲んで、気持ちを落ち着かせるといい。貴女もいきなり担当外の配属になって不安になっているんだろう? そのあたりの事情も把握している。これは研修だと思ってやってみるといい、時間遡行軍には指一本触れさせない。だから安心してくれ」
「あ
……ありがとう、ございます」
「あと、俺のことは長義でいい。審神者だった頃、当時の〝山姥切長義〟は長義と呼んでいたんだろう?」
どう呼んだらいいのか分からず、彼のことは「山姥切長義」と呼んでいた。審神者だった頃は「長義」と呼んでいたのだ。まさか、そんな過去のことも知っていたとは知らず気を遣わせてしまったようだ。
「長義、さん」
「長義でいい。あと、無理して敬語で言わなくてもいい」
お互いにいい関係を築けたいからと彼は少し笑みを零す。
私は煎れてくれたお茶を一口飲んで、気持ちを落ち着かせる。そして、彼の言葉に「はい」と頷いた。
「えっと出来る限り頑張る、ね」
「ああ。それでいい」
いつも通りでいいと言われ、話してみるもどこかぎこちない。
それは彼も分かっていたのか、小さく苦笑している。
こうして、私たちの特命調査が始まったのだ。
結果を言えば、事件は解決した。
一週間の調査で解決出来なければ、審神者にさらなる調査を頼むところだったのだが、時間遡行軍は思いのほかすぐに本隊が現れ、最小限の被害で済んだ。
予定より早く終わったので、上司に連絡をすると「一日空いてるんだろ? だったら観光でもしてから帰ってこい。それも含めて一週間の期限だからな」と言われてしまった。
それを長義に伝えると「ならちょうどいい。オフを楽しもう」と言って嬉しそうに微笑みつつ、読みかけていた本に視線を戻した。
私たちの最終日はこの町の観光と休息ということで決まった。
次の日の深夜。
私はふと目を覚ました。何となく障子を開けて外を見ると空には綺麗な星がキラキラと輝いていた。
「綺麗」
都会は眠れない街ともいう。都会では夜中であろうと照明を消すことを知らない。そのため星はほとんど見られないのだ。見たいならプラネタリウムにでも行くしかない。
私の最後の一日は旅館内でブラブラ過ごしていた。
仕事柄観光も中々行かないのもあるが、旅行に利用するだろう旅館やホテルも利用しないからだ。何となく、旅館内に設置されているゲームや庭などの探索、温泉を満喫していた。
旅館の外には散歩スポットになっていたはずだ。
あの星空の下で散歩とかきっと楽しいだろう。
私は、貴重品を持って客室を出た。
* * * *
外は少し肌寒いが、空気はとてもおいしかった。
空を見ていれば星が私を見守っているようだ。
散歩道を歩いていると、小さい公園と言うべきか、広場というべきか。そんな場所に着いた。
綺麗に整備された広場。
私は、草むらの上に座る。
「ここに住んでる人はいいなぁ、こんな綺麗な星空を毎日見られるなんて」
「
――ああ、そうだな」
「えっ?!」
「ふふ。驚きすぎだ」
「ご、ごめん
……長義がいるとは思ってなくて」
独り言のつもりが、下から声が聞こえて思わず下を見る。
今更気づいたのだが、ここは坂になっており少し下りたところで長義も座って星空を眺めていた。
(ああ、だから座りやすかったんだ)
とはいえ、座った場所は今更動きづらい。すごく座り心地がいいのだ。
長義は刀を持って隣にやってきては座る。
思わずドキッと緊張が走る。
私は意識しないように星空に集中する。初めこそは長義の視線がこちらに向いていることは分かっていたが、次第に星空に向いたようで心の中でほっと胸をなで下ろす。
しばらく二人で黙って星を眺めていると、私はふと言葉を紡いだ。
「あの、時間遡行軍にやられそうな時に助けてくれてありがとう」
「礼には及ばないよ。言っただろう、貴女に指一本触れさせないと」
調査して時間遡行軍の本隊と対峙した私たち。
見つけたときは叩いていいと指示はあったので、決着をつけたのだけど、私がふとぼーっとしていた時があり、その隙を突いて時間遡行軍が私に襲いかかってきたのだ。それを長義が庇ってくれて、軽傷を負ってしまった。彼は「こんなの痛くもない。安静していれば傷も癒える」と言ってくれたけど、これは私の監督不届きが原因だ。
少しでも隙を敵に見せてしまった時点で私の落ち度だ。私がしっかりしていれば、長義も怪我することなく無事に任務を終えたはずなのだ。
「それに、手入れをしてくれただろう? これに関しては不問だと言ったはずだが」
「そ、それはそうなんだけど」
「
……ふふ。人間は本当に面白いな」
「え?」
「自分のことを大事にせず、他人を優先にする。それは一種の美徳だが、一種の大罪でもある。俺はあくまで時間遡行軍を倒すために下ろされた刀剣男士だ。だから怪我したところで、君たちは気にする必要はないはずだ」
折れたならまた審神者を使って新たな〝山姥切長義〟を下ろせばいいのだから。
そう言った彼はどこか寂しさを帯びていたような気がする。
「人によってはそういう考えの人もいるけど、私は違うよ。どんな形であれ、どんな理由であれ、私たちは手を取り合って協力していくべきだと思う。だから私が審神者だったときの彼らも付いてきてくれた
……と思う」
今頃彼らは元気にしているだろうか。
本丸を手放した後は、とある新人審神者に引き継いでいると聞いている。
私がいないなら刀解してくれと言う刀剣男士もいたが、私はしなかった。生きている命をそう簡単に投げ出して欲しくないからだ。それを伝えたら彼らも納得して私たちは別れを告げたのだ。
私は政府職員に。彼らは新たな審神者の従者として。
別れは辛かったけど、間違った選択じゃないと今でも思う。
「
……では、俺はどうかな。俺は貴女の仲間として見てくれているかな?」
「ちょ、ぎ」
気がついたら私は長義に頬を手で触れられ、俺を見ろと言わんばかりに固定される。
月明かりに薄ら照らされる彼の整った顔はいっそう美しく見えた。
「この任務、実は貴女を試していてね」
「え?」
「元の職員
……主は大怪我を負って職員を辞めたんだ」
「え、でも上司からも貴方も体調不良で
……って」
「ああ、あれはそういう口実をしただけ。本当は次の俺の相棒として相応しいか、貴女を試していたんだ、俺と上司がね」
「そんなこと、上司から一言も
――」
そういえば最近「他の課に興味ないか?」とか言われてた気がする。それはもしかして、長義の相棒がいなくなるからその跡継ぎを私にしてほしかったのだろうか。
「そういう事情があると、義務感で引き受けるだろう? それでは意味がない。俺の仕事はパートナーとより効率よく調査をこなすことだ。互いに知らずに任務をこなすのは次第に仕事にも支障が出てくる」
そうなる前に、お互いにいいパートナーになれるか今回の調査を通じて試していたということらしい。
私は途端に顔を硬直してしまう。それを見て長義はまたくすりと笑う。
「また顔強張ってるよ
……初めから告げたらそうなるだろうと思って、俺と上司で黙っていたんだ。すまない」
「い、いえ
……」
今度こそ、彼の手が頬を離す。少しだけ緊張が解けた。
「貴女にとってどうだった? 今回の調査は」
「初めてで、右も左も分からないことばかりだったけど
――長義が助けてくれたから、その
……言い方はアレかもしれないけど、すごく楽しかった」
これは本心だ。
事件に巻き込まれ、住民に事情を聞いたり、いろんなところに二人で出向いたりした。
忙しかったけど、長義と一緒に仕事をしている時間が楽しかった。
確かに、出来たらもう少し彼と一緒に任務を続けたかったと思ったのも嘘じゃない。
だがそれも政府機関に帰るまでだ。
帰ったら私たちはそれぞれ別の課で働くことになる。
少し寂しいなと思っていると、長義も一つ頷いて言う。
「俺も同じ気持ちだった。前の主も悪くないが、貴女と一緒に任務をこなしているうちにパートナーとして相応しいと思っている。できたら、この後も俺のパートナーとして一緒に働かないか?」
そう言って、私の手を握って真剣な眼差しで言う。
私は彼の澄んだような綺麗な蒼に魅入ってしまう。
「それは、私もできたらいいなって思ってるけど上司は
――」
「許可はすでに取っているよ。お互いに了承したら俺の所に異動して構わないと」
「え?」
それ結構重要なことでは? 何で部下の私に言ってないの?
何となく上司が「あははは~すまん、忘れてた~」と笑顔でピースをしている上司の顔を思い浮かんだ。たまに上司はど忘れする癖がある。その度に私の課は残業がわりとあったりする。
「なら、交渉成立ってことでいいね?」
「え、私の選択肢は?」
「いいなと思っているなら、なってもいいってことだろう?」
そう言って、少しだけ何かを企んでいるような笑みを浮かべる。
そして、長義は私を押し倒した。
声を出す時間もなくそのまま倒れる。気がついたら覆い被さってきた。
私は次第に顔を赤くなっていくのが分かり、そっぽ向く。
「そっち見ていたら星が見えないよ?」
「〝そっち〟見ても星が見えないよ」
今前を見たら長義が至近距離にいる。その背景に星空がある。
どう考えても見ていられるはずがない!
長義は、何度か「こっち見なよ」と肩を叩いてくるけど、負けじと長義の顔を見ないでいる。
今すごく顔が赤いだろうし、彼に見せられる状況じゃない。
そして長義はまた小さく笑うのだった。
「
……くっ、本当に面白いね貴女は」
「誰のせいですかね!」
「
……やっと本性出したね」
「え?」
「敬語はなくなったけど、どこか余所余所しかったからね。そういう所をもっと見せてくれ」
――何せ、これから一緒に働くパートナーなんだから。
彼がそう言うと、覆い被さっている彼が離れて隣でごろんと寝転がっていた。
驚いて、彼を見るともう気にしていないかのように星空をじっと見つめていた。
私は、彼の意外な部分を見たと思い星空に視線を向けた。
私たちの初めての任務は無事に終わった。
政府機関に無事に戻って上司に報告をすると、既に私の机はなくなっており、異動手続きも終えていた。
案内された課でこぢんまりと座っていると、私の前に長義が現れた。
「やあ、さっきぶりだね。改めてよろしく、俺のパートナー」
「こ、こちらこそ」
私は、新しい部署で新しいパートナーと任務をこなすことになった。
「星空の下で」完
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