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ハレ
2024-04-30 09:21:44
4771文字
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それはコイの話
「自分たちの間に恋など生まれるはずがない」(というかそういった思考にすらならなかった)と思ってる厄災討伐後ハテノのふたり。
恋愛ポンコツなふたり大好き。
「昔から光ってはいたんだ。こう、内側からぼんやり白く光ってた。神々しいというか」
城の暗闇に浮かび上がる彼女の白く細い指を思い出す。燭台に火を灯す前でさえ、彼女の全身は光り輝いていた。
「でも最近はちょっとこう...違ってて。なんていうかキラキラしてる。外側が輝いてる」
あの、心底うれしそうな笑顔。目を細めて、にっこりと笑う。そして大抵、そのあとに自分の名前を呼んでくれる。ひだまりのような、あたたかな人。
マンサクは絶句して隣で訥々と話す若者を見た。
「お前
…
」
「ねぇ、なんだろこれ。なんだか最近は胸も苦しくて、食事が前の半分くらいしか入らない」
「
…………
」
「ねぇ」
「病気だよ」
「おれが!?」
「コイの病ってやつだ」
「コイ?」
なんだそれは、といった風情で小首を傾げるモテそうな若者に、マンサクは「本当、宝の持ち腐れだな」と言い放った。
「コイの病!?もしかしてこの前食べたサンケゴイでしょうか!?」
ハテノの家で向かい合ってお茶を飲みながら、先ほどのマンサクとの会話を思い返す。ゼルダには「リンク、最近食べる量が減ってません?」と言われたときに自分の状態は話してあった。正直、自分自身よりもよほどゼルダの方が心配してくれていて、事あるごとに「今日はどうですか」「調子は悪くないですか」と声をかけてくれる。
気に掛けてもらえるのはうれしいが、心配させるのは本意ではない。元気がないわけではないのだ。
「でも、ゼルダ様も同じもの食べましたよね」
「そっ、それもそうですね...たまたまリンクが食した個体が悪かったとか?」
「とりあえず、おれ、明日医者にかかってきます。ちょうど巡回で村に来るそうなんで」
「わたしも行きます!」
ゼルダは身を乗り出して意気込んだ。
一瞬、リンクは自分をこんなにも心配してくれるゼルダの優しさに心躍ったが、主訴の内容に「ゼルダがキラキラして見える」という本人に聞かせるにはいささか、かなり抵抗のある内容を含んでいたため、丁重にお断りした。
翌日リンクは目の前に座る医者に、一緒に住んでいる人がキラキラして見えるんです、一緒にいると息が苦しいんです、食事が喉を通らないんです、知人には「コイの病」だと言われて、この前食べたコイが良くなかったんでしょうか?と一息で言った。医者は目を剥いて呆気に取られてから、信じられないくらい大笑いをして手元の紙に、
「恋の病」
と書いてリンクに見せたのだった。
「リンクおかえりなさい!どうでしたか!?」
家の扉を開けるなり、ゼルダがリンクに気付いてすっ飛んできた。リンクの手を取り、上目遣いで見つめてくる。ふわふわとした白くて小さな手がリンクの厚く硬い手を包み込む。不安からか目が潤み、口を引き結んでリンクの言葉を待つその顔に、また、心臓が絞られるような気がする。
「け、結論から申しますと、命にかかわるようなものではありませんでした」
「よかった!」
ぱあっとゼルダの顔が輝く。文字通りに光り輝く。眩しくて目が眩む。取られた手を離したい、このままでは死んでしまう。
あれ、やはり致死性があるのでは。
「原因はわかったんですか?」
解決したわけではないと思い直したゼルダが、喜び一転、また不安そうに問うてきた。
原因は、わかりました。あなたでした。
恋だそうです。
心臓が口から飛び出そうだ。
言えるわけがない。
リンクは俯き、なんとか、なんとか言い逃れてこの場を辞退できないか考えていたが、握られた手がそれを拒み、ゼルダが答えを待っている。
「
……
あの
……
」
「はい!」
「かならず、かならずお伝えしますので、今はどうか、一人にしてもらえませんか。申し訳ございません」
結局、うまい逃げ道も言い訳も見つけられず、極力ゼルダを傷つけないように、自分にできる精一杯で言葉を絞り出した。ゼルダの顔が見られない。
命に別状はない、と言いながら、これではかえって大病のようではないか。いや、自分にとっては、考えもしなかった大病なのだけど。
「わ、わかりました。まくし立ててしまってごめんなさい。身体、つらいですよね」
する、とゼルダのやわらかい手と、ほんのり感じていた体温が離れていく。
名残惜しい、と思ってしまう。
矛盾だらけだ。どうすればいいんだ。
「少し、外を散歩してから晩飯の買い出しをして帰ってきます。失礼いたします」
ゼルダの顔を見ずに一礼する。100年前のようだと思った。ゼルダが何か言いかけたのには気付いたが、踵を返し、リンクはそのまま戸外へ出た。玄関扉のバタン、という音がいつもより一層大きく響いて、リンクは扉を背に、ズルズルとその場にへたり込んで両手で顔を覆った。
晩御飯の時間は、お通夜のように静かだった。リンクが作った料理はどれも絶妙に失敗し、不味くはないが美味しくもない。
二人は「いただきます」のあと、一言もしゃべらずに黙々と食事を続けている。場を明るくするための話題を振ることさえ躊躇する空気があり、ゼルダがリンクに気を遣った結果、そうなっているのは火を見るより明らかだった。
この夜を過ぎれば、おそらくもっとこじれてしまう。どんどん言いにくくなる。今考えてみると、大丈夫でした、そのうち治るそうですなんて言って、昼のうちに適当に誤魔化してしまえばよかった。「恋」という単語が持つ、鈍器で殴られたような衝撃的な響きに頭が回っていなかった。意味ありげな引き延ばし方をしてしまった以上、今更そんなことを言ってもおそらくゼルダは納得しないだろう。自分で自分を追い込んでしまった。
しかし、昼間、第三者によって突然暴かれた自分の気持ちをこんなにも突然、当事者であるゼルダに伝えなければいけないことがどうしても憚られた。
膝の上で手を握り締め、決死の思いで絞り出すように彼の人の名前を呼ぶ。
「
……
ゼルダ様
……
」
「! はい!」
「おれの
…
病気についてなのですが
…
」
「聞いてもいいんですか」
「はい、あの
…
」
リンクは言葉を切った。リンクがここまで歯切れ悪く言い淀むのは珍しく、ゼルダは急かさず辛抱強く続きを待った。ゼルダが食事の手を止めたまま、神妙な顔でリンクを見る。
心配そうなその瞳が、また、言葉を遠ざける。
「やはり、コイ、でした」
「あっ、やっぱり、食あたりだったんですか!?」
「違います、ゼルダ様
……
恋です
…
」
リンクは喉から絞り出すように繰り返した。心臓が耳の中で打っているかのごとく、直接、音が頭に響いてくる。ゼルダはピンと来ないようだったが、とてもではないが昼間に医者が自分にしたように紙に書く気にはなれなかった。
「こい」
違います、と言われたからには鯉ではないのだ。口元に手を当ててしばらく考え込んでいたゼルダは、不意に一つの可能性にたどり着き、目を見開いた。しばらく固まったあと、言われてみれば「こい」という単語はそんなにも多くないということに気付いたかのように、意を決してリンクに問いかけた。
「
…
こ、恋というと、あの、恋愛的な意味でいうところの
…
」
ゼルダが言う。
リンクは顔を上げられない、が、彼女の言葉に小さく頷いた。ゼルダがそれきり口をつぐんだので、また、静寂が訪れる。
長い沈黙が心を削り取っていく。彼女が次になにを言うのか想像もつかない。膝の上で両手の血流がなくなるほど手を握りしめた。静寂が重い。沈黙が痛い。
何も言わないゼルダを伺おうと決死の思いで伺うように少しだけ顔を上げると、真っ白な顔でテーブルの真ん中を見つめるゼルダの姿があった。
「
……
リンク」
「はっ、はい」
「
……
たいへん申し訳ないのですが、来週まで待っていただけますか」
「はい!
…
ん?」
反射的に顔を上げ勢いよく返事したものの、ゼルダが言った言葉の意味はまったくわからなかった。間の抜けた声が出てしまい、思わず眉根が寄る。
「ゼルダ様、あの...?」
「気付かずにたいへん失礼しました。リンクの優しさに甘えて今まで長く滞在してしまいましたが、すぐに出ていけるように準備します。明日明後日、にはちょっと、無理ですが、インパかプルアを頼って、来週にはこの家を出ていけるようにしますので」
「え!?」
リンクは思わずテーブルに手をついて立ち上がった。その拍子にリンクの座っていた椅子が倒れて、大きな音がした。彼女の言っている意味がわからない。リンクの気持ちがゼルダにとって嫌だということだろうか。迷惑だ、ということだろうか。
自分に好意を持っている男と暮らすことなど恐ろしくて不可能だという意味だろうか。
「ま、待ってくださいゼルダ様」
「本当にすみません、気付かなくて」
ゼルダは先ほどのセリフを繰り返す。
気付かなくて、とはいったい何のことだ?
「リンクに、いい人ができてたなんて」
続く言葉にリンクは頭が真っ白になった。目を見開いてゼルダを見つめたまま動けなかった。
「荷造りは、すぐに始めますね」
そう言うと、ゼルダは「こうしてはおれない」といった体で急いで立ち上がり、私室としてリンクにあてがわれた2階に向けて早足に歩みを進めていく。
リンクは、そんなゼルダが自身の横をすり抜けた時、反射的に腕を掴んだ。
「リンク?」
「違います!」
驚き振り返った彼女に、叫ぶように言葉を被せる。
「リ
…
」
「これが、この想いが恋だというのなら、おれは100年前からあなたに恋しています。100年前から、あなたに笑いかけられると息が苦しくなる。泣きたくなる。うれしくてうれしくて、抱きしめてしまいそうになる」
ゼルダが瞠目し、リンクを見返す。信じられない、という瞳の色にリンクは一瞬怯んだが、正しく伝えなければ勘違いされて終わってしまう。腕を離し、彼女の両手を包むように握ると、向かい合ったゼルダはいまだ呆然とリンクを見ていた。
ゼルダがこの家を出ていく。居なくなる。それは考えるのも恐ろしいほどに「失う」ということだった。
「おれのこと、好きでなくてもいいです。でも誤解だけは解かせてください。おれの好きな人は100年前からあなただけです。他の人なんていません」
そしてできればこれからもこの家で一緒に暮らしてほしい、と言いたかったが、それは自分には決められないことだ。
自分の気持ちを明け渡して、それを受け取るかどうかを相手に委ねるのは、こんなにも恐ろしいことなのかと今更ながらに思い知る。ゼルダの気持ちも考えず、半ばぶつけるように自分の気持ちを吐露してしまったが、ゼルダがどう思ったのか。リンクには想像もつかなかった。
恐る恐る、そっとゼルダの顔を窺うと、瞳になみなみと涙を湛えた彼女と目が合って、息を飲んだ。
「わたしこそ100年前よりお慕いしておりました、わたしの騎士様」
そう言ってゼルダが笑うと、涙が溢れて彼女の頬を伝った。
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2023年10月ごろブレワイクリア直後でリンゼルに狂い倒している(今もだけど)時に書いてそのままにしてあったやつ。
内容がかなりコメディチックなのとオチが決まらないので放置してあったんですが「読みたい」と言ってくださるハイラルの女神様がおられたのでところどころ直してオチを加筆して蔵出ししました。
このころは「近衛の解釈が」「回生の解釈が」などとブツブツ言わずにまっすぐ回生を書いていた形跡がありますね
…
!笑
いま書いたらたぶん全然違う形になるような気がしますがこの頃のパッションを感じてこれはこれでいいかもしれない。
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