梶間
2024-04-30 08:11:56
2048文字
Public
 

ソラマチに行く二人

現?パロ

東京ソラマチ。二〇一二年の東京スカイツリー完成後、約三ヶ月後に開業した商業施設。
カブルーとライオスは東京観光のために押上の地へとやってきていた。

「これがスカイツリーかー!」
「見事なものですね」

ライオスがスカイツリーに行ってみたい、としきりにカブルーを誘うので、それに付き合って観光に来た二人。

「世界で二番目に高い建造物だそうですよ」
「へー。一番は?」
「ドバイの高層ビルだそうです」
「へー」

いまいち関心が薄い。ライオスはスカイツリーが目的でここまで来たのではなかったのかと、カブルーは内心首を傾げた。

「スカイツリー見に来たんですよね?」
「展望台も行けたらいいなあとは思っているのだけど」
「スカイツリー見に来たんですよね??」
「実は今日ここで迷宮魔物展がやってると聞いて」
「付き合うんじゃなかった」

世界には迷宮と呼ばれる異空間が古来より存在する。一般人がそう易々と立ち入れる場所ではないのだが、地上の生き物とはまるで様相が違う幻想的な姿をした魔物たちは昔からおとぎ話のモチーフとなり、近世では動物園での展示や映像での視聴も可能となり爆発的な人気を得ていた。
照れたような表情でライオスが言う。

「商業施設で行われる迷宮魔物展はここが始めてらしくて、魔物を使ったコラボメニューが今回の一番の目玉だって」
「どこの誰だそんな企画を出したのは」
「歩き茸同好会協力とホームページに書いてあった」
「あいつらか……
「歩き茸からはいい出汁がとれるらしい」
「魔物料理は聞かなくもないですけど相当特殊な調理が必要って聞きましたよ?」
「今回は調理師免許が必要なものを使わないメニューらしい。比較的初心者でも楽しめるとか」
「免許が必要なのはあまり食べようとは思えませんね」
「えっ」
「それは一人で食べに行ってください」
「じゃあシュローを」
「トシローさんお腹壊しますよ」
「じゃあ止めとく……

肩を落としたライオスの背中を軽く叩くカブルー。カブルー自身は過去動物園から脱走した犬に似た魔物に追いかけ回され、魔物があまり得意ではない。
魔物がカブルーに懐いてじゃれついていて可愛かった、と母は言っていたが、まだ幼いカブルーには今にも頭から食べられて死んでしまうのではないかと非常に恐ろしい思いをしたのだ。恐ろしさにべそべそに泣きじゃくる自分を母は慰めてくれたが、何年経っても母の友人のミルシリルがあの時のカブルーはかわいかった、また見たい、と蒸し返すので魔物への苦手意識に一層磨きがかかっていた。

とはいえ、友人の頼みで来たのだから展示を見るくらいならまあなんとかなるだろう。ライオスに魔物が苦手、とは伝えていたが、どこまで苦手かは伝えきれていなかったかもしれない。人の心情を汲むのが苦手な人間なのだから今一度丁寧に説明してやろう。

ライオスを気遣うカブルーの一方で、ライオスはそういえばカブルーは魔物苦手だって言ってたけどスカイツリー行きたいって言ったら付き合ってくれた!じゃあ大丈夫なんだ!やったー!と、とても軽く考えており、友人と自分の好きなものが見られる楽しみに当日まで浮かれきっていた。
案外カブルーは自分に甘い面があると無意識のうちに覚えたライオスは、無邪気にカブルーを振り回していた。


そうしてライオス念願の展示を見た二人は、最初こそ活き活きと楽しんでものの、見終える頃にはくたくたに疲れて力の抜けた表情をしていた。

「「はあー……」」

二人はたまたま空いた日にスカイツリーへと訪れたが、世はゴールデンウィーク。ソラマチの中は家族連れや観光客でいっぱいだった。迷宮魔物展は子どもにも人気のあるジャンルであり、展示会場は人でいっぱい。
人混みの中を押し合いへし合い、なんとか展示を見て、コラボメニューも食べ終えたところで二人は身体がじんわり重くなるのを感じていた。
ちなみにコラボ店では普通の料理メニューの方が豊富だったので、カブルーはそちらを食べた。
ライオスは念願の歩き茸を食べることが出来たため、料理が出てきた瞬間と食べている間は元気だったが、食べ終えるとどっと疲れが出て今は肩を丸めて長い息をはいた。

「「疲れた……」」

二人とも同じタイミングで一言呟いてからは無言で飲み物にさしたストローで中身をくるくると回している。氷のカラカラと涼やかな音が二人の間で響いていく。

「つかれたっすね……
「ゴールデンウィークだったことを失念していた……
「いやそれでもここまでの人混みとは……日本の連休を舐めてました、俺……
「本当はこの後展望台にも行く予定だったんだが」
「人の多さで決めていいですか」
「少なかったら行こうか」
「そうですね、折角スカイツリーまで来たんだし」

東京スカイツリーの展望デッキの当日券を買うためにまた人混みに並ばないといけないことを、この時の二人はまだ知らない。