ロイエンタールはおれたちの中で誰よりも美しく、あの方を「わが皇帝」と呼んだが、あの男ほど気取らずに「疾風ウォルフ」と口にする人間もいなかった。
遠征から帰ってきたおれたちは、たしかロイエンタールの邸宅で酒を飲んでいた。ソファに深く体を沈めた屋敷の主は、緩くなった酒と氷とをグラスの中で転がしながら、上機嫌に笑っていた。まだ、軽く肩で風を切り、光に従ってひたすら突き進んでいれば良かった頃のことだ。
「おい、知っているか、ミッターマイヤー」と、ロイエンタールが前のめりになった。頬ひじをついた拍子に、ダークブラウンの髪がひと房こぼれて、青い瞳を遮った。目元に刻まれた皺が優しかったのを、よく覚えている。
「先のアムリッツァ以来、卿は兵士たちの間で『疾風ウォルフ』などと評判じゃないか。おれにも呼ばせろよ」
そのあだ名はロイエンタールに呼ばれてはじめて、水のごとくおれの体に染み込んだのだ。
あの金銀妖瞳の男だけが、全銀河で誰も知らなかった「疾風ウォルフ」の名を、ずっと昔から知っていたのではなかろうか。そんな風に錯覚させる響きでおれのあだ名を呼ぶくせに、しばしばロイエンタールはその異名をからかってきた。おかしくて仕方がなかった。「疾風ウォルフ」がすっかり定着してしまった責任の一端は、卿があまりに自然な口ぶりで呼んだことにあるのにな、と。
ロイエンタールはそれほどまでに、「疾風ウォルフ」の名を負うおれを信頼してくれていたのだ。最後の通信に至るまで。
だが、おれはその名を、この手で貶めてしまった。
「ロイエンタール元帥は、ミッターマイヤー元帥をずっと待っておいででした。でも、とうとう……」
こうして、「帝国の双璧」と称されたおれたちの一方が砕けたとき、もう一方にも、取り返しのつかない瑕がついたのだ。
なあ、ロイエンタール。「帝国軍の至宝」などという、疵物にも拘わらずごたいそうなあだ名をこそ、おれは卿に笑い飛ばしてほしい。卿が「疾風ウォルフ」とおれを呼ばう、力強く澄んだ声音で、分不相応な名を洗い清めてくれたら。
だがそれは、卿の死に目にまにあわなかったおれには、望むべくもないことか。
おれがまにあわないことを容れたとき、卿はどんな風に「疾風ウォルフ」の名をからかったのだろう。中々やってこない不甲斐ない友人を、心の中で責めただろうか。
しかし卿は、相撃ったおれのために酒を用意しているような、情の深い男だ。卿が結んでくれた友誼を、水のごとく生命の源にしていたおれだから、わかる。ロイエンタール、卿は、逞しい草の生えることを願って、大地に水を撒くことのできる男なのだ。
だから、卿が「遅いじゃないか」とからかういつもの声も、おれには届いている。
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