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西尾六朗
2024-04-29 23:42:02
2121文字
Public
現代平和イぐ♀(現パ/転パ/並行パ)
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カルデアレジデンス409④
マブダチに彼氏できたよって報告した
「
……
その出会いで、なんで仲良くなってるわけ?」
壁粉砕から三日後、駅前のチェーン店カフェでの、友人との会話である。
立香の向かいに座った絶世の美女
――
仏人らしい高い鼻とすらりとした切れ長の瞳をした友人ジャンヌは、片方の眉を持ち上げたいつもの表情で、半笑いの立香をじっとり睨んだ。
「物干し竿で壁破ったとか、ヒャクゼロでアンタが悪い。私だったら損害プラス慰謝料請求するところよ」
「うん、そうだよね」
「だってのに、相手は手続き結局全部そのまま引き受けて? しかも費用も払って?」
「うん」
「修理までしばらくかかる間、何だかんだで仲良くなって?」
「うん」
「で、今は穴空いた壁越しにお喋り?」
「うん
……
」
「揃って頭がおかしい」
ぐうの音も出ない正論だった。
彼女が復唱した全ては、今しがた立香が長々説明したこれまでの経緯のまとめであって、何ひとつ間違っていない。客観的に見れば隣人
――
ジャンヌと同じくフランス出身である巌窟王と立香の関係は、短い時間で異常と呼べるほどに接近していた。
「でも実際そうなっちゃってるんだよねぇ
……
」
「ていうか、危機感無さすぎるのよ、アンタは」
言って、ジャンヌはがぶりとシナモンロールを齧る。呆れてものも言えない、そんな顔だが、彼女が立香を心から心配しての呆れであることは疑いようもない。口も態度もきついが、根はいい子なのだ。だからこそ包み隠さず話した、というのもある。
「いや、何があるか分かんないよねホント。お恥ずかしい」
「何照れてんのよ、彼氏できたみたいな顔して」
「え、いや、まあ」
「
……
は? そういう意味で仲良くなってんの!?」
がたん、とジャンヌは机を揺らし、前のめりに驚愕した。
その通りである。その通り過ぎる。
出会って、触れて、確かめて。お互いに運命を見出して、当たり前のように立香と巌窟王のこれからの人生が重なった。猛スピードで決定した人生プランである。えへへと笑うしかない。
「ちょ、おかしい。ホントにおかしい。アンタそんなに尻の軽い女だった!? 今日日女子高生だってもうちょっと時間かけるわよ!」
「そ、そんな怒らないでよ! わたしもびっくりしてるんだって! でも自然とそうなったんだよ。あっちも驚いてるみたいだし、なんかすごく相性良くて」
「相性って、どこまで距離つめてんのよ! まさかもう
……
」
その先は、流石に外で大声では話せない。
はは、と照れ笑い気まずさトッピングで目を逸らした立香に、ジャンヌはぱくぱく口を開けて閉じて
――
どすん。椅子に乱暴に尻を落とした。
「
……
マジですか」
敬語が出るときはそれこそマジの時だ。はああ、と深いため息付きで。
立香は慌てて両手を否定の意味で振り、本当に大丈夫なんだよと繰り返した。
「身体目当ての関係じゃないよ、ちゃんと確認したし」
何の説得力もないことは分かっている。もし逆の立場なら自分だって止めただろう。
だけれど、当事者だからこそ、当事者にしか納得できない理由がある。こんなこと、口に出したらそれこそ彼女の怒りが燃え上がって爆発してしまいそうだから言えないのだけれど
――
(運命、って)
思って、しまって。
示し合わせたように、この人だと確信した。
疑いなんて欠片も持たなかった。この人こそが一生一緒にいる相手、運命で結ばれた唯一無二の存在なのだと互いに理解した。
その後の出来事は、友人にも話せるような内容ではない。ただ、今現在の立香はとても幸せで満ち足りた気持ちでいる。
何一つ不安もなく、彼の。
巌窟王の隣に、自分が立っているという事実が、嬉しくってたまらない。
ということを、可能な限り恥ずかしくない語り口で説明すると、ジャンヌはまたしても大きなため息をついた。
そして、じと、と、立香の目を上目で見つめて、
「
……
アンタの
ボディガード
・・・・・・
は何て言ってるの?」
とだけ、問いかけた。
立香はちらりと足元を見てから、
「何も。だから、それもあって大丈夫だと思う」
「そう、ならいいわ」
短い言葉で、ジャンヌは一応の納得を示した。
そして、鞄を手に立ち上がる。もともとこれから予定があるところにねじ込んだ時間だった。もう行くわと呟くように言う彼女は、立香に人差し指を突きつける。
「アレが何も言わないっていうなら信用するけど、後で紹介しなさい。顔と名前と住所と勤め先は控えるから。日本人利用しようとするクズは多いんだからね」
「同じ国の出身なのに、手厳しいなあ」
「同じだからよ、おばかさん。じゃ、またね」
苦笑いを浮かべる立香に手をひらひらさせて、彼女は去った。
見事な銀色の髪をなびかせて去っていく背中を、店内の窓越しに見送る。横断歩道を越えて、駅の方角に消えていくのを見届けてから
――
「優しいなあ。ありがたいよね」
立香は、足元に向かって小さく囁いた。
脇をすり抜けていった店員が不思議そうな顔する。慌てて口を押えた。
そこには誰も、何も居ない。
ただ、店の灯りでうすらぼんやり浮かび上がる影が、丸くうずくまっているだけだった。
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