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かくまう最王
本編2章らへんの話……?
お互い恋心もなければ付き合ってもない
「あっ、最原ちゃん!」
いつものように自由時間に校内を散策していると、王馬くんが廊下の奥から走り寄ってきた。僕よりも幾分小柄な彼が、僕の腕を取りながら背後に身を隠す。誰かから逃げ隠れている様子だった。
「どうしたの?」
「かくまって!」
やっぱり。
「王馬くん、また余計なことしたの?」
呆れて背後の彼に問うと「余計とはひどいな! オレはみんなの為に行動してるのに」と不服そうに返してきた。
「いいから匿ってよ、百田ちゃんがお冠なんだよ」
なるほど、被害者は百田くんか
……
。王馬くんが走ってきた方向から、「王馬
――
!!」と百田くんの怒号が響き渡る。王馬くんの言う通り、かんかんのようだ。
「最原ちゃん〜」
王馬くんが甘えたような声を出しながら、僕の服の裾をひっぱった。彼の本性を知らなければ、あどけない表情に騙されるだろう。
廊下の奥で百田くんが教室のドアを開ける音が聞こえた。くまなく探しているようだ。こちらに来るまでまだ少し余裕がある。
おそらく、王馬くんが百悪い。概ね、いつものように百田くんに要らないことを言って怒らせたのだろう。けれど、困ったようにひっつく王馬くんの首根っこを掴んで百田くんに突き出せるほど、僕は強くはなかった。
つい、王馬くんの細い腕を掴んだ。王馬くんは、僕が彼を百田くんに突き出すか、あるいは面倒を放置してこの場を離れると思っていたのだろう。意外そうな顔をして僕を見た。そんな彼の腕を引きながら、近場の男子トイレに急いで滑り込む。
「ここ、行き止まりだよ」
背中で王馬くんの非難を受け止めた。そんなことは分かってる。僕は手前の用具入れのドアを開けると、王馬くんと一緒に体を捩じ込ませた。狭い。当たり前だ。トイレの個室とは違って、人が入るようには出来ていない。衛生的とは言えないモップやら水切りが立てかけてある為、王馬くんをこちらに抱き寄せた。もとあといえば彼が悪いのだから、多少の窮屈さは我慢してほしい。
百田くんが近づいてくる音がした。百田くんには悪いけど、なんだかホラー映画を思い出す。トイレのドアが開いた。王馬ー? とやや疲労感が伺える声が響く。ぱこんぱこんと、彼の踵がスリッパを叩く音が聞こえる。今思うとあのスリッパってなんなんだろうな。個室のドアは全て開け放たれているため、百田くんは軽く確認した後に盛大なため息をついて踵を返した。
「たく、どこ行ったんだよ」
用具入れの中だよ、百田くん
……
。王馬くんは、僕の胸に顔をうずめながら息を潜めている。当たり前だけどあったかいな。百田くんが用具入れの前を通る時、緊張して王馬くんをぎゅうと強く抱きしめてしまう。
ばたん。トイレから百田くんが退出した音が聞こえた。足音がどんどん離れていく。静寂。そこでやっと僕は、張り詰めていた息を吐いた。ほんと、なんで彼の肩を持ってしまったんだろうか。後で百田くんに謝らないと。今更な後悔が僕を苛む。少し、王馬くんを抱きしめている腕を緩めた。
「王馬くん」
「最原ちゃん」
呼びかけるのと同時に、王馬くんが被せるように呼びかけてきた。僕が手を下ろしても、王馬くんは顔を僕の胸元に押しつけたままだ。
「オレが男の子でよかったね」
また非難された。けど、よくよく考えてみたら、彼の非難のとおりかもしれない。胸の中にいるのが王馬くんではなく女子だったらと思うと、この状況はかなり不味い。王馬くんのいう通り、王馬くんでよかった。いや、そもそもキミが百田くんを困らせたのが
――
。
ぐだぐだと考えを巡らせていたら、彼の耳が目に入った。少し、赤い。息を潜めていたから、酸欠にでもなったのかな。
「王馬くん、耳赤いよ」
何気なく触れてみた。王馬くんの肩が揺れる。くすぐったいのかな。くすぐったいなんて、王馬くんでも思うのか。いくら彼が人間離れした表情の使い手だったとしても、キーボくんじゃないんだから触れれば温かいし、反応も返ってくる。僕と同じ、血の通った生きた人間だ。
彼の耳の縁をなぞる。相変わらず王馬くんは顔を上げない。はあ、と少し熱のこもった吐息が、僕の胸に広がった。熱いな。胸が熱いのは、王馬くんの顔がくっついてるからだ。そうに決まっている。
今、どんな顔をしているのか見てみたい。でも、見たらいけない気もする。僕の右手の人差し指と親指が、王馬くんの耳たぶ挟み、さする。胸元で小さくうめく声が聞こえた。いつも他人を翻弄する彼が、おとなしく僕にいいようにされていることに少し気が大きくなっていく。
それと同時に、もうこれ以上はやめておけと、妙に冷ややかなもうひとりの僕の警告が聞こえた気がする。その声を無視して、空いている左手を王馬くんの腰にやる。そのままさすってやると、王馬くんはたまらそうな反応を返した。僕の制服が皺になりそうなほどに、強くしがみついてくる。彼の小さな声が、僕の耳をくすぐり脳内に響いた。なんだか、僕までたまらない気持ちになってくる。
王馬くんの腰が、僕の太ももらへんに擦られた。僕の左手から逃げてるようにも思えるし、彼の欲を押し付けているようにも思える。さすがの嘘つきの彼でも、そこをコントロールすることは出来ないだろう。多分。つまり、たっていた。王馬くんが興奮してる。その事実が、僕を余計に昂らせた。
――
何故、彼はなにも言わないのだろう。どうして、おとなしくいいようにされているのだろう。
いつもの王馬くんなら、百田くんが去った段階で「最原ちゃんがそんなケダモノだったんなんて知らなかったよ
……
。オレがこんな可愛いショタフェイスだからって、欲情するなんて
……
! ヴェァァ
――
ン! 可愛く産まれてきてごめんなさい! この罪はキー坊が償います!」とか適当なこと言って、僕を足払いしたあとにトイレから飛び出していくだろう。
完全に真っ赤になってしまった王馬くんの耳が、彼の細い黒髪の隙間からのぞいている。それが妙においしそうに見えて。だめだ。これ以上は本当に、よしたほうがいい。僕は、赤く熟れた形のいい耳に唇を寄せた。
その時。
僕の体がバランスを崩した。
背中を預けていたドアが、開いている。王馬くんが開けたんだ。こういう時、茶柱さんなら受け身をとれるんだろうな、と呑気なことを考えながら思い切り腰を打ちつけた。
……
痛い。あぶないよ。こんなところに腰を強打して怪我でも負ったら、学級裁判どころではない。いや、そもそも打ちどころが悪かったら僕が被害者になって、王馬くんがクロになるところだったんだぞ。色々と頭のなかで文句が飛び交うが、正直、僕が百悪い。
視界が痛みで白んでいる。痛みに悶え耐え、少し落ち着いた頃に視界が正常に戻った。用具入れのドアは閉ざされ沈黙している。下の方、少しあいている用具入れの隙間を見ると、王馬くんの足が見えた。
「な、なんの音だ? 」
百田くんがトイレに飛び込んできた。よほどの音を立てていたらしい。僕は気まずくなって、へらりと笑う。
「す、すべっちゃって
……
」
百田くんが差し出した腕を取りながら、返した。相変わらず腰は痛い。茶柱さんか東条さんあたりに診てもらったほうがいいかな。ヒビでも入っていたら最悪だ。百田くんの視線が、不自然に僕の股の方に向く。そこで、ああ、と納得したような顔をしてみせた。笑顔が眩しい。
「終一もちゃんと男なんだな!」
まさか、処理するためにトイレに来たと思われたのか
……
。親指を立てないでよ
……
。
「邪魔してわりーな! っと、そういえば王馬のヤロー見なかったか?」
「
…………
見てないよ」
居た堪れない気持ちになりながら、僕は嘘をついた。百田くんに謝るつもりだったのに、これじゃあ完全に共犯者だ。僕が
……
百悪いけど
……
。
「そっか! じゃあ、ごゆっくり!」
ごゆっくりじゃないよ
……
。百田くんは颯爽とトイレから出ていくと、スリッパの音をぱたぱたと響かせて去っていった。どっと疲れ、ため息をつく。用具入れが「にしし」と笑った。
この状態では、トイレから出られない。百田くんの言う通り、処理する必要がありそうだった。でも、用具入れには王馬くんがいる。そんな状況でどうやって
――
。なんとも最低で自分勝手なことを考えてる自覚はあるけど、さっさとトイレから出て行ってくれないかな
……
。
そうだ。王馬くんも同じなのか。本当にこの状況、どうしようかな。僕は頭を抱えた。
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