ある日の昼下がり。
私は、長義と一緒に万屋へお出かけをしていた。ウインドウショッピングをしていると、とても可愛らしい雑貨が飾られており、魅入っていると長義が「中に入ってみるか?」と了承してくれた。
店の中に入ると、若い店員が「いらっしゃいませ!」と元気よく挨拶をしてくれる。中には何人か女性が「これ、可愛い!」「思わず買っちゃった!」と楽しそうに商品を見ている。
どうやら、この雑貨屋は最近オープンしたばかりらしく、噂を聞いた女性たちを中心に雑貨を見て回っているようだ。学生っぽい子から女性まで、おばあちゃんのような人も孫のような子と一緒に楽しんでいるようだ。
「雑貨が並んでいるようだね」
「うん、すごく可愛い。この人形とか」
「ああ、そうだな」
日本人形だろうか。男女がお互いに見合っているような形で客人を出迎えてくれる。
雑貨と言っても文房具や服とかも売っているようで、本当に雑貨という感じだ。刀剣男士も気になったのか、短刀の子を中心にわいわい騒いでいる。
しばらく歩いて見ていると、ふと気になった物が目に入る。
――藍色のマフラー。
他にはプリントもマークも何もない、藍色に染め上げたマフラーだ。思わず、それを手に触れてみる。隣にいると思っていた長義を見上げようとすると、彼は別のコーナーで見ている。ここからは彼の横顔しか見えない。
(このマフラー、長義に似合いそう)
戦装飾が藍色を多く使われているというのもあるが、彼には藍色がとてもよく似合う。あの衣装でマフラーをしたら、もっと格好いいだろう。思わず、彼がこのマフラーをして戦っている姿を想像する。
うん、悪くない。
値段を見れば、それなりだったけど普段は個人的な買い物はしない方だ。たまには奮発してもいいかもしれない。
私は、紺色のマフラーを手に取ってレジに並んでいた。
店員は今すぐ使いますかと聞いてきたので「はい」と頷いた。すると、値札を外してくれて手渡ししようとするも、私は袋に入れてもらっていいかと尋ねると、店員が頷いた。
綺麗な紙袋に丁寧に畳まれた藍色のマフラーが入る。紙袋を受け取ると、まるで誰かに買ってくれたかのようにふふ、と自然と笑みを浮かべてしまう。
(今まで、今使っているマフラーだけしか使ってなかったけど、新しく〝この子〟が仲間入りできてよかった)
今日この店に入らなければ、出会わなかったかもしれない。そう思うと、長義が行ってもいいと言ってくれたことに感謝する。
ぎゅっと紙袋を抱きかかえて、店の外に出ると長義が待ってくれていた。
「主、何か買ったのか?」
「うん、いい物を見つけたからたまにはいいかなって」
「そう。何を買ったのかな?」
「内緒」
私が答えると、長義は一瞬だけ目を見開いた。答えてくれると思ったのだろう。
なんてこと無いただのマフラーだけど、長義だと思って買ったものだということは、長義に告げたくなかった。
次のウインドウショッピングへ行こうとする。長義は気にしてないようにしていたが、しばしば私が持っている紙袋を見ていた。彼にとってよほど気になる物なのだろうか。
(恥ずかしくて言えない)
だって、余りにも子どもっぽい発想だから。推しの好きな物を自分が持ちたくなるような、そんな感覚。それを当の本人に知られでもしたら、しばらく審神者業できなくなる。何せ、近侍は彼なのだから。
ウインドウショッピングを終え、万屋を出る道を私たちは歩いていた。
そして、前を歩いている長義が急に歩みを止めた。付いていくように歩いていたため、私は彼の背中にぶつかることになった。
「主」
「ご、ごめん。前見えてなかった」
「それ、何を買ったのか教えてもらえないかな?」
「え、どうして?」
「どうしても気になってしまってね」
「経費のこと? だったら私のポケットマネーで払ってるから大丈夫だよ。たまにはお金使わないとね」
なるほど、彼は元々政府所属の刀剣男士だったこともあり、経費や政府の雑用もよくやっていたと聞く。今のほとんどは博多藤四郎が経理関係を管理してくれているが、彼が修行に行く前は経費周りも長義が管理したこともあった。
もしかしたら、本丸の経費から落としたのかと思ったのかもしれない。
政府からは本丸への経費と、審神者への給料を別に振り込まれる。今回購入したものは私への給料分のみだ。ただでさえ、給料は多額だ。マフラー一つ購入するくらいで財布がすっからかんになるほどでもない。
「いや、そうじゃないんだ。その、誰かにあげるのかと思って」
彼は次第に声が小さくなっていく。そして視線を私から反らしていた。まるで恥ずかしいのを隠したいかのように。
このマフラーは誰にもあげるわけじゃない。長義だなと思って買ったマフラーを誰かに渡るなんてとんでもない。でも、私が内緒と言ったせいで気になって仕方ないというのなら打ち明けた方がいいかもしれない。喧嘩だけはしたくない
……喧嘩するほどの内容でもないけど。
私は紙袋からマフラーを取り出す。
長義は現れたマフラーにただ魅入っている。
「何となく、〝長義〟っぽいなーって思って買ったんだ」
「え、俺?」
「だって、藍色は長義のカラーじゃない?」
「
……まぁ、戦装飾を見たら分からないわけでもないが」
彼はそう言って、自分の身だしなみを見渡す。そして、好みも決まって藍色。藍色といえば長義だと言わんばかりに。
「だから、その
……誰にあげるのでもなくて。このマフラーを持ってたら、長義が居なくても一緒にいるような気がして」
「
……何だ、主に好きな人が出来たのかと思った」
「え?」
「いや、何でもない!」
ゴホンと咳払いする長義。そして耳元が少しだけ赤くなっているような気がする。
だが、長義も自分だけ言わないのはよくないと思ったのか、ぼそぼそと言う。
「誰かにあげるのかと思って、少し焦ったんだ。その、本丸内で主に好きな人ができたんじゃないかと噂が出ていてね。もし、変な男だったらと思ったら気になってしまってね」
「え、噂?!」
それは初耳だ。いや、それもそうか。本人の知らないところで広まっているから噂なのだから。
まさか、私が長義が好きだということが誰かにバレたんだろうか。そんな素振りを見せないように、してきたはずだ。
「
……今は、審神者として頑張るだけだよ」
「だが、恋は盲目とも言う。気がついたら恋をしていた、というのはよく耳にする」
それは、政府にいた頃だったか、本丸に来てからだったか、人間の恋愛や書物などでよく見ていた。今はそうかもしれないが、いつの間にか恋に落ちていることもよくあると。それが相思相愛の相手ならばいい、だが下心だけで近づく輩だったならば、と長義は危機感を感じたようだ。
「心配?」
「ああ。主はとても優しいからね。すぐに何でも騙されて、ついて行ってしまいそうだ」
「えぇ
……私、子どもっぽいってこと?」
「そうじゃない。俺が見ない隙に捕られないかハラハラすると言ってるんだ」
そう言った長義は、呆れつつも仕方ないというような笑みを浮かべながら私を見る。嘘を言っているようには見えず、私は思わず魅入ってしまう。そして、重要なことを言われたような気がしたのは後に分かった。
「それってどういう
――?」
「いいことを思いついた。主、そのマフラーをくれないかな?」
「え? でもこれ、女物
――」
「でも、俺だと思って買ったマフラーがあるだろう? だったら、俺にも主だと思える物が欲しいかな」
そう言って、長義は今巻いてある私のマフラを外す。
その代わりに、長義は藍色のマフラーを私の首につけてくれる。
軽く整えてくれると、長義は愛しい物を見るような優しい目で私を見る。
「うん、映えるな」
「あ、え
……」
「主は、それを常に付けていたらいい。それを見るたびに俺のことを思いだしてくれたらいい」
私は、首から少し出ているマフラーの端を見る。これは夢なのかと思いつつも、現実なんだと買ったばかりのマフラーの温かみを感じて認識する。
私は気がつけば、声を出していた。
「長義、少しかがんで?」
「ん?」
「私も、マフラー巻いてあげる」
私が使った後で、しかも女物で悪いけど、と一言いうと長義は「いや、嬉しいよ」と言って少しかがんでくれる。
マフラーを巻くだけなのに、緊張して上手くできない。でも、彼はそんな私を小さく笑いつつも待ってくれる。
巻き終わると、彼は腰を上げてマフラーに触れる。
藍色が似合う長義に、明るい色のマフラーが首元にあることでアクセントになっている。これはこれで似合っていた。
「これは、俺にマフラーをくれてもいいと取っていいのかな?」
「うん、えっと
……私だと思って使ってくれると、嬉しい」
「ああ。ありがとう、主」
彼に素直に言ってくれたのだから、私も言わなきゃ不平等だろうと思った。
何せ、私は誰かの者になると焦って嫉妬してくれたのだから。
こんなことするのは、長義だけだよ。
「じゃあ、本丸に帰ろうとか」
「うん」
私たちは互いにマフラーをしつつ、気がついたら長義の方から手を繋がれた。
愛しい人の手に包まれた私の手は次第に温かくなる。
本丸に着くと、手を繋いでいるのとマフラーをしているのを見て、騒ぎ出すみんな。
長義君は慌てて「ちがう、そうじゃない!」と否定しつつも、マフラーはそのまま付けたまま、彼らを追いかける。それを私は小さく笑って見送るのだった。
今日のお出かけはちょっと前進したような不思議な一日だった。
「首に巻かれて」完
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