「ありがとうございましたー!」
万屋のとあるお店で、店員の元気なかけ声と共に店を出る私。
外では何やら女子の歓声を中心に賑やかになっていた。気になりつつ、待ち刀
――山姥切長義を探していると、すぐに見つけた。
女子の歓声の原因は、その長義君に群がっていた。
(やっぱり、かっこいもんね。長義君は)
政府に所属していた山姥切長義。最近特命調査で〝優〟判定をもらえれば政府からの報酬ということで各々の本丸に所属される。私の山姥切長義は、その人気者になっている彼だ。
成り行きを見届けていると、長義君がこちらに気づいたのか「すまない、これで失礼する」とこれでもかというほど綺麗な笑みを浮かべながら女子の群れから逃げて、こちらに歩いてきた。
女子達は、私の姿を見るなりブーイングの声が耳に届く
……分かってる、私は審神者ってだけであり、それを除けば別にどこにでもいる一般人ですよ。皆さんの方が可愛いし、美人ですよー。
「主、終わったなら声を掛けてくれ」
「ごめんね。なんだか楽しそうだったから、話しかけづらくて」
「はぁ
……楽しそうに見えたか?」
長義君は、笑っていた表情を解除しげっそりと疲れたように肩を落としていた。
本当は関わりたくなかったらしく、だからといって店の前で争い事にはしたくないしで、仕方なく話し相手になっていたと彼は話す。
「俺は、どこかの女性よりも主と話している方が楽しいのだけどね」
「そ、そうかな。無理してない? 近侍も嫌だったら遠慮なく言ってくれていいからね?」
「嫌だったら今頃主と買い物へ出かけていないし、近侍も断っている。今の買い物だって俺も行くと言うと主が断る。主こそ、俺と一緒にいるのは嫌なのかな?」
そう言いながら、私より背が高い彼が私の顔を覗き込むように屈んでくる。
私は、長義君の整った顔が近くにやってきて慌てて視線を反らす。
時々、彼はこうやって近づいてくることがある。その度に私は彼を避けてしまう。
というのも、私は長義君が好きだから。
好きだからこそ、平常心で保たなくては
――というのはドラマでも漫画でもよくある話だと思う。
私と彼は審神者と刀剣男士。単なる主従関係でしかない。付き合ってるわけでも、相思相愛でもない。多分、私だけが一方通行で恋をしているのだと思う。
私は、顔を少し逸らしつつ顔が熱くなっていくのを必死に隠しながら「い、嫌じゃないよ」と答える。
「だったら、どうして避けるのかな?」
「な、何のことかな。さて、次のお店に行こうか」
「そうだな
――ってよくこんなに買い込んだね」
「筆記具だけは私のなんだけど、出かける前にあれやこれやと買い出しを頼まれちゃって」
出かける際、何人か刀剣男士たちと遭遇し立ち話をした。
短刀たちにはお菓子が欲しい。厨の料理当番たちには夕飯の足りないものの追加。鍛錬組たちから新しいタオルやらスポドリなど。
普段は買い出し組にお願いしているので、たまには私も気晴らしに出かけようと思って行こうと思った矢先だ。執務室で一緒に仕事をしていた長義君に「どこか出かけるのか?」と尋ねられて「気晴らしに万屋に買い物に行こうと思って」と答えると、彼も一緒に行くと言って現在に至る。
正直、頼んできた刀たちの分を運ぶには男手は必要かも、と思った。荷物持ちをお願いすれば「お安いご用だ」と言ってくれた。
お店の中も一緒に行けばよかったのだけど、少し前も買い出しに二人で行ったら同じく買い物中の女性や中年のおばさんたちの視線が長義君に釘つけになっていて、とてもじゃないが買い物に集中できなかった。レジの担当をしていた女性店員も仕事をしつつも長義君を見ていたり。
そんなことがあったので、今日は外で待ってもらおうとした結果がこれだった。
外で待つ長義君を女性達が群がって逆ナン状態になっていた。
……イケメンっていいのか悪いのか分からなくなってきた今日この頃。
長義君は私が持っている荷物を軽々と持ち上げる。
私だと少し重いなっていう重さだったのに、飄々と持っていてやっぱり男の人だなって見惚れてしまう。彼を連れてきてよかったなって思う
……もちろん、協力者としても、片思いしている私としても。
「ありがとう。少し重かったんだ」
「だろうね。彼らも少しは遠慮すればいいものを
――」
「長義君も付いてきてくれてよかったよ。ちょっとの距離ならどうってことないけど、この重さなら本丸着く前に力尽きそうだった」
「だからいつでも頼ってくれていいと言ってるだろう? 今日だって一人で出かけようとしていたし」
私たちはそんな会話をしつつ、次のお店へと足を運ぶ。
何気ない会話が私にとっては至福の時だ。たまに、さっきのような顔を近づけられたりとかドキッとするようなこともあるけど、それでもこの時間は大事だ。
買い物が一通り終わると、空は日が沈みかけた頃だった。
重い物は長義君が持って、軽い物は私が持つ形で万屋を出る道を歩いていた。
この時間帯は夕飯の買い出しをする人が多い。なので、道はどんどん狭くなっていく。町並みはタイムセールを開き始め、場所によっては行列を作っていたりする。
長義君は私の前を歩き、道を通れるように歩いてくれる。彼の何気ない気遣いが嬉しくて、後ろから付いていく。
(まだ、帰りたくないな)
もう時間なのに、本心はまだこの時が終わってほしくないと図々しく願ってしまう。
私はふと人の視線を感じて横を見る。
そこは、窓辺の席に座って読書をしているのか、本を読んでいる客がコーヒーを飲みながらちらりと窓から外を見ていた。その店は喫茶店のようだ。
(喫茶店か。長義君と飲むのは難易度が高いなぁ)
誰でも思ったことがあるだろうけど、私だって好きな人と一度くらいは喫茶店で一緒に飲みたいと思ったことはある。でも、誘うことさえ難しいと感じてしまう私には喫茶店に長義君と行くなんてものはあり得ないことだ。彼もまた「俺にも喫茶店に行く相手くらい選ぶ権利がある」と言って断るかもしれない。
(ううん、帰ろう。もう少し一緒にいたいなんて贅沢だもの)
この時だけでも奇跡だし、神様に感謝しなきゃ。
私は喫茶店から先に行っているだろう長義君に視線を戻そうとすると、いつの間にか戻って来ていた長義君がいた。
「主、どうかしたのか?」
「あっ、ううん! ごめんね。買い忘れがないか確認してただけだから!」
私は慌てて誤魔化す。
何でもないというように、長義君の横を通り過ぎようとする。しかし、手を掴まれて前に進むことができない。
「え?」と振り返ると、長義君が私が見ていた先
――喫茶店を見ながら言う。
「ちょっと休憩しようか」
「え、でも」
「その喫茶店、行きたいんだろう?」
「あ、いや
……えっと」
「俺は主と喫茶店に寄りたいと思ってるんだけど。買い出しに付き合ってくれたお礼をくれてもいいんじゃないかな?」
俺はこんな重い荷物も持って上げてるんだから、と言わんばかりに荷物を私に見せる。
これは、誘われているのだろうか。それとも「頑張ったからご褒美頂戴」という単なる報酬をせがんでいるのだろうか。
「でも、私と行っても楽しくないよ?」
「なら、俺と行っても楽しくない?」
「ちがっ! 長義君はいいんだよ。その相手に私は相応しくないというか
……」
どんどん声が小さくなっていく。
すると、長義君は私が持っている荷物全て奪い、重い荷物も同時に持つ。そして喫茶店のドアの前に立つ。長義君は私に視線を向けて声を掛ける。
「俺は寄りたい。だから、ドア開けてくれるかな?」
「でも」
「言っておくが、俺が喫茶店に寄りたいと思ったのも、買い物に行きたいと思ったのも主だけだから。今だってまだ帰りたくないって思ってる。本丸に帰ったら二人でいられないからね」
「長義君」
「だから、俺の我が儘ためでもいいから一緒にお茶を飲んでくれないかな」
そう言った彼は少し顔を赤くしていた。彼も緊張していたらしい。それが感染ったかのように私も顔が熱くなっていくのが分かる。
長義君が私と同じ事を考えてくれたなんて。
嬉しいような、ちょっぴり恥ずかしいような気持ちだ。
もう少しだけ、彼と一緒に過ごす時間をくれてもいいですか?
私は、長義君の前に向かい、喫茶店のドアを開ける。
「私も、もう少しだけ一緒にいたい。です」
「ありがとう。じゃ、中に入ろうか」
「うん!」
私は改めて軽い荷物を受け取り、喫茶店の中へ入る。
店員から「二名ですか?」と尋ねられ、空いている席に案内される
――が、長義君が止めた。
「すみません、できるだけ二人だけになれる静かな席がいいのだけど」
「
……分かりました。用意しますので椅子に座って待ってもらえますか?」
長義君が頷くと、店員は暗くしていた照明を付けて、テーブルを拭いて準備をしてくれる。
普段使われている席は賑やかで騒がしく、落ち着いてお茶が飲めない感じだった。
「これから二人だけの時間を過ごしたいからね」
彼が凜々しい表情で告げられて、私は意識をしてしまうのは一分も立たなかった。
「もう少し一緒にいたい」完
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