kaede
2024-04-27 00:01:01
3937文字
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燐音くんが一彩くんのことをかわいいかわいい言いすぎてメンバーに引かれるはなし

燐一
あたまからっぽにして読んでください

……燐音はん、『かわいい』言いすぎちゃう?」
「HiMERUもそう思います」
「いやまあ、燐音くんの気持ちもわからないでもないですけどね」

 俺は何もわかんねェんだが?


 つまんだポテトを口の中に放り込んだこはくちゃんが、ジト目でニキを睨む。
「燐音はんの肩持つなや、ニキはん」
「別にそういうわけじゃないっすけど、二人よりは一緒にいる時間も長いんでいろいろ知ってるっていうか……あっ、それは僕のお肉っすよ燐音くん! ハウス!!」
 今さらナゲットのひとつやふたつでガタガタ抜かすンじゃねェよ、ニキ。俺っちがハンバーガーを一個食い終わるまでにセット二つ平らげてたくせによ。
「んー、でもまあ、顔立ち自体はかっこいい寄りっすよね」
「見た目がっていうより、年齢的に、っち話や」
……ああ、なるほど。そういうことですか」
「なるほどなるほど〜」
「椎名は何もわかっていないでしょう」
 もう一回言うけどよ、俺っちも何もわかンねェぞ? メルメル。

「ったく、好き勝手ブンブンしゃべりまくるおめェらの話をここまで黙って聞いてやってたけどよォ、まったく話が見えねェんだが」
 別に主導権を奪う隙がなかったわけじゃねェからな……こはくちゃん、なんで俺っちを睨んでンの?
「最初に一彩はんの話をしたんは燐音はんやろ」
……いや、そりゃ確かにしたけどよ」
 状況把握にちっと手間取りはしたが、これぐらいは許容範囲内だろう。
 確かに、昨日弟くんにせがまれて一緒に出掛けて、あいつのあまりの世間知らずっぷりに閉口した話はしたけどよ。
「それと『かわいい』が、どうつながンだよ」
 と、俺っちはこはくちゃんに話を振ったのに、答えたのはコーヒーをすすってたやつだった。
「HiMERUは、天城が弟さんとの、ここではあえてデートと言いますが、そのデート内容をHiMERUたちに無理矢理聞かせるのに『かわいい』という単語を何度使うか数えていたのですが、両手の指が足りなくなったところで飽きました。と言えば天城ならば理解できるでしょう」
「ンだよ一彩がかわいいのは当然……
 いや待て今ここでそう返すのはさすがに悪手っしょ。
「いやいやいや、それは盛りすぎっしょメルメルゥ〜」
「燐音くん、燐音くん」
 なんだよニキ、くだらねェことならハウスだかンな。
「見てくださいよ、これ。昨日弟さんがひなたくんとお揃いの髪型にしてもらってた時の写真なんすけど」
「オイ、ニキてめェ、ニキのくせに俺っちのかわいい弟を隠し撮りとはいい度胸じゃねェか」
「ちゃんと許可は取りましたよ、人聞きの悪い! せっかく燐音くんが見たいかと思って撮っておいてあげたのに、僕の親切心を仇で返すなんてひどいっす!」
「気が利くじゃねェかニキきゅ〜ん!」
「うわ急に態度変わりよった」
「気持ちの悪い猫なで声ですね」
「よーしよし、なら今すぐそのかわいい弟くんを俺っちのスマホに送信してこの写真は今すぐ削除しろ」
「ほれみぃ」
「あ?」
 あ。
 何を指摘されたのかに気づいた俺っちを見る六の瞳が痛い、ってことはないがまァ、ばつが悪くはある。
 何て言って話を逸らそうか、と思案していると、ふっ、と。そのうちの一人分の圧が、減った。
……まあ、天城の言い分もわからないではないですが。兄にとって弟という存在はどれだけ歳を重ねようがかわいく映る、というのが世間一般的な解釈ですからね」
「そうなん?」
「そんなもんっすかね」
「だよなァ! さっすがメルメルは俺っちの心の機微ってやつをわかってるなァ! 心の友よ!」
「友になった覚えはありませんが」
 そんなこと言いつつ、背中を叩く俺っちの手を避けねェンだから、やっぱメルメルは心の友……
「とはいえ弟さんくらいの年頃になると、自身の評価と、他人からの評価に著しい齟齬を感じてつい感情的な反応をしてしまう、いわゆる反抗期というものもありますからね」
 ……なァンか雲行きが怪しくなってきたな。
「たとえば、桜河のように」
「わしは関係ないやろ」
「そういうところはとても『かわいい』ですよ、桜河」
「うんうん、わかるっす! かわいいっすよね」
「二人ともええ加減にせえよ!」
 うんうん、ほんといい加減にしろだよな。わかるぜェ、こはくちゃん。
「あっ、燐音くん! お肉返してくださいっす!」
「いつまでも残ってっから、いらねェのかと思って片付けてやったんだろォ? んじゃ、俺っちパチンコで一稼ぎしてくるんで、あとはシクヨロ〜」
「もう! 片付けるなら自分が食べたものの片付けにしてほしいっす!」

 ……ったくよォ。ほんといい加減にしろよ。おめェらは何もわかっちゃねェ。
 あの『良い子』を絵に描いたようなかわいいかわいい一彩に反抗期なんて、ありえないっしょ。


 っつーわけで、その日から俺は一彩のことを『かわいい』っていうのをやめた。




 別にあいつらの言い分を鵜呑みにしたわけじゃねェ。が、確かに客観的に見れば一彩は俺っちに似てイケメンの部類に入る子ではあるわけだし。鵜呑みにしたわけじゃねェが、年頃であることに間違いはないし。君主である俺には言い出せないだけで、本当は不当に思っている可能性がゼロとは限らない。ゼロでないとも限らないが。
 つまり、改めて指摘されて自覚させられたせいで、俺は俺自身の思考と発言を俺自身によって縛られてしまった、それだけの、単純で複雑な話だ。

 んで、そんなわけのわかんねェ雁字搦めの日々がいくらか続いたある日のことだ。
 事務所に顔でも出しとくか、とESの廊下をぶらぶら歩いていたら、曲がり角からうさぎが飛び出してきた。
 正確には、うさぎの仮装をした人間だが。
「ちゃんと前見て歩かねェと危ねぇぞ、うさぎちゃん」
 と、からかい混じりに忠告しつつ抱き止めたそのうさぎの顔を見て、これ以上見開いたら眼球が落ちるんじゃねェか、ってくらいに驚いた。
……………弟くん!?」
「すまない、急いでいたからつい注意を怠ってしまって……って、兄さん!」
 うさぎちゃんもとい、俺のかわいい……心の中で呼ぶ分にはノーカンだろ……かわいい弟が俺の腕の中で、誰が見たって文句なしの十点満点をつける笑顔を俺だけに目いっぱい向ける。
 ……ここは天国か?
「って、そうじゃなくて」
「そうじゃない?」
「どうしたんだよ、その格好」
「ああ、これ? シャッフルユニットの衣装だよ! 春の草花を思わせる色使いが素晴らしいだろう?」
 いや一番の注目ポイントはそこじゃねェだろ。
「かわ」
「かわ?」
「いや、うん、おう。その、素晴らしいな?」
 危ねェ危ねェ。
 いや、これはさすがに『かわいい』って言っても許されるだろ。そう言われるために存在してるもんだろ。頭の上のそれはよ。
……ああ、このうさぎの耳が気になるのかな?」
 俺の視線の先がどこにぶつかるのかに気づいた弟くんが小首を傾げると、それに連動して、まるで神経が通っているかのように柔らかく、長い耳が動く。
「ふふ、少し首を動かすだけでまるで本物のうさぎのようにぴこぴこ動くんだよ。愛らしいよね!」
「愛らしいな……
 やめろやめろわかったからそれ以上ぴこぴこ笑うなお兄ちゃんにはオーバーキルだ。その証拠に鸚鵡返ししかできなくなってンだろ。気づけ。愛する弟よ。
「それに、耳だけじゃないんだ。見てほしいよ!」
 腕の中からぴょんと飛び出して、その場でくるりと半回転した弟に、俺は今度こそ命を奪われたかと思った。
「なんと、しっぽもついてるんだよ! まあ、こちらはさすがに動かないけどね」
 動かないってわかってるならかわいい尻を無防備に振るんじゃねェよ……
……一彩」
「ウム?」
 ああ、一彩……不甲斐ないお兄ちゃんでごめんな、一彩……
 でも、俺はもうダメだ。

……かわいすぎンだろ、一彩ォ!」

 言った。
 言っちまった。

「ごめんな、一彩。お前は不服かもしンねェけど、でもお前のかわいさを黙って見過ごすなんてこと、俺にはできねェ!」

 謝りつつ、けれどお前を貶める気持ちは微塵もないんだと、一ミリでも伝わればいい。
 と思ったかどうかは定かじゃないが、というか多分かわいすぎて感情が暴走しただけだろう。
 一彩を抱きしめることをやめられずにいると、腕の中の一彩も、俺にぎゅうと抱きついてくる。

「ふふ。よかった」

 よかった?

 何が。
 見下ろした先の一彩は、俺の中の一彩かわいい記録を大幅更新する、道端の小さな花がほころぶよりも健気にいたいけに清楚に純粋にあどけなくはにかみながら俺を見上げていた。

「最近、兄さんが僕のことを『かわいい』って言わないから、僕はもう、兄さんにとってかわいくなくなってしまったのかと思っていたけど」

 一彩……

「僕はまだちゃんと、かわいいんだね」

 一彩……




 っつーわけで、その日から俺は一彩のことを『かわいい』っていうのをやめるのを、やめた。
 どうしてかって?

……んで、廊下を歩いてたらいきなり腕の中にうさぎが飛び込んで来てよォ。なんだァ? って思ったらなんとなんと、かわいいかわいいうちの弟くんだった、ってわけ」
「さよけ」
「そうですか」
「燐音くん、とうとう幻覚が見えるようになっちゃったんすね……

 そんなの、俺の弟はかわいいからに決まってンだろ。
 それ以外に理由がいるか?
 いらねェよな。
 わかったなら黙って聞いてろ。

「やっぱ弟くんはかわいいよなァ!」