Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
溶けかけ。
2024-04-26 23:41:23
1845文字
Public
ほぼ日刊
Clear cache
陽光と白
シーツを被ったフを花嫁と重ねて自身の恋心を自覚するヌ
暖かな陽光がヌヴィレットを包み込む。
街行く人々は欠伸をしたり、ベンチに腰掛け微睡んだり、と何処かのんびりとした休日の午後。少し気分転換でも、と愛用の杖を持ちフォンテーヌ廷をゆったりと歩く。時折、すれ違う人々にご機嫌よう、と挨拶されヌヴィレットもご機嫌よう、と返す。ふと、今の自分を彼女が見たら、やっぱり、僕の言った通りだっただろう?と言いながら笑うのだろうか。
すれ違う人々がヌヴィレットを見ては、ぎょっとしたような顔をしているのに彼は気づいていない。街の空気に当てられたのか、はたまた別の要因か
――
普段は公平無私で無表情な最高審判官殿が薄っすらと微笑みながら歩いているなど今までの彼からは考えられなかったからだ。
ぴたり、とヌヴィレットは止まる。聞き馴染みのある名を呼ぶ声が聞こえたからだ。
「すみませーん、フリーナさま!」
「構わないよ。おーい!そんなに焦らなくても大丈夫だから!」
白いシーツを被り、どこか楽しそうに上を見上げるフリーナ。白いワンピースに白いシーツの組み合わせは花嫁を思い起こさせた。
「ん?ヌヴィレットじゃないか。久しぶり」
被ったシーツを頭から下ろし、丁寧に畳みながらフリーナはヌヴィレットに挨拶をした。
「
……
ご機嫌よう、フリーナ殿」
胸焼けしたような気分になったヌヴィレットは辛うじて挨拶を返す。モヤモヤとなんとなく気持ち悪い感じがして自身の胸を数度撫でた。
「フリーナ様、ほんっとーにすみませんでした!!」
二人の元へ妙齢の女性が駆け寄るとペコペコと頭を下げる。
「気にしないで。歩いていたらシーツを被るなんて初めての経験だったからちょっと新鮮な気分だったよ」
フリーナはからりと笑うと畳んだシーツを女性へと手渡す。女性はお礼を言いながら、受け取ると再び家の中へと戻って行った。
「キミ、今日は何か予定はあるかい?」
くるりとヌヴィレットに向き直るとフリーナはニコニコとしながら聞いた。
「いや、特にはないが
……
」
「じゃあ、たまにはお茶でもどうだい?勿論、カフェ・リュテスで」
ヌヴィレットは少し考える。このモヤモヤとした胸のつかえをフリーナに聞いてみるのもいいだろう、と結論付けて首を縦に振った。
「ん〜!やっぱり、ここのケーキは美味しいね」
至福の表情でケーキを頬張るフリーナ。とはいえ、テーブルマナーを破ることはない。あくまで上品に、である。
「フリーナ殿、少し聞きたいことがあるのだが」
ヌヴィレットの真剣な表情にフリーナも緩んだ顔を引き締める。
「なんだい?」
ヌヴィレットは先程の胸のモヤモヤをなるべく詳細に話した。
「うーん。難しい話だね」
フリーナは紅茶を啜ると、音を立てずにソーサーに戻した。
「フリーナ殿でもか?」
少しがっかりしたようなヌヴィレットにフリーナは苦笑する。
「まあ、結局はキミの心の問題だからね。僕がこうだ、と言ったところでキミは納得いかないだろう?」
ヌヴィレットは言われて、思考する。
……
なるほど、確かに納得しないかもしれない。
「君は私の話を聞いてどう思った?」
「僕かい?僕は娘が大きくなった、と感慨にふける親のようなものなのかなって。キミからしたら僕は手のかかる上司だったわけだし」
「ふむ。そのような考え方もあるのか
……
」
ヌヴィレットは黙り込んで考える。なんとなく、フリーナの言葉も当てはまらない気がしたからだ。
未だに晴れない気持ちを紅茶とともに飲み込んで誤魔化した。
「またね、ヌヴィレット」
夕暮れを背景にフリーナが手を振った。ああ、また、と返してふと、気付く。もう少し、お茶をしていたかったと残念に思う自分に。
「
……
フリーナ殿、またこうしてお茶をする機会を設けてもいいだろうか?」
ヌヴィレットの言葉にフリーナは意外そうな顔をした後、ふわりと顔を綻ばせた。数百年共に居て、見たことのない優しい顔にヌヴィレットは暫し、我を忘れて見入っていた。
「キミとなら、喜んで」
フリーナの姿が見えなくなる頃、ヌヴィレットはやっと胸のモヤモヤの正体に気付いた。彼女の隣に別の誰かが居たら、と思うとモヤモヤが大きくなるのだ、言い逃れは出来まい。ヌヴィレットは目を閉じて新たに芽吹いた感情に名前を付けた。
なるほど、これが恋しいという気持ちなのか
――
と。
広告非表示プランのご案内