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河童の皿箱
2024-04-25 07:51:18
3986文字
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遊戯王:短め(2024年度)
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巡業2
セアミンとディア・ノートが巡業するだけ。今回は真血公とカクリヨノチザクラのもとを訪れる。
2人が次に訪れたのは、淀む空と赤き月の下に聳え立つ、血のかおる古城であった。
こんこん、と扉を叩けば、城の主人たる白髪の男が中から外を覗く。2人の子供よりもずっと大きく、それでいて肉を感じられないほど細い男は、待っていたぞ、と目を細めて笑い、子供達を城へと歓迎した。
男の細身を際立たせる白いマーメイドドレスが、赤いカーペットの上に広がり、するり、するりと先を行く。揺れる紅のマントには、三対の蝙蝠の翼がちらりと覗く。男は城の主人であり、真血公と恐れられた吸血鬼である。けれど子供達は臆するでもなく、魅了されるでもなく、ただその背を追うのみ。階段を登り、一際大きな扉を抜ければ、そこには丁寧に磨き上げられた、巨大なダンスホールが広がっていた。
さあ、今日は何を見せてくれるんだ? 奥にポツリと置かれた玉座に、男は愉快そうに笑いながら腰を下ろす。子供達はすぐに準備に取り掛かり、面をかけ、衣装に袖を通した。
程なくして、ホールの中心に現れる。髪下ろす子の演じるは、欲に塗れた愚かな男。対するもうひとりの演じるは、愚か者はおらぬかと見回る男であった。大きな屋敷に訪れた男は、隠された大判小判はここにあるはずだ、と盗みに入ろうとするも、見回りの男が邪魔でなかなか入れず四苦八苦。はぁ、滑稽にも足を滑らせてずるり。けれど見回りの男の耳は妙に遠く、自分の仕事を満足にこなせやしない。ぼんやり光る提灯がゆらり、影に紛れる男もゆらり。ゆらゆら。ぶらぶら。うろうろ、と。あぁ、そうだ。愚か者は名案を浮かべた。あの提灯を奪って仕舞えば、見つかることもないだろう。ちょうどあの見回りも腰を下ろした。そろーり、そろり。物陰から密かに、静かに、男は見回りの提灯を奪った。さあこれでもう見つかることはない。提灯を腰に刺し、壁を登れば
…
。
かんかんかん。鐘が鳴っては、男は呆気に取られるままに取り込まれ、やんややんやの大騒ぎ。どういうことだと盗人が見回りを見れば、あぁ、愚か者めが。夜に提灯なんぞ盗んだところで、目印にしかならないだろう?
劇を終え、片付けを済ませ、子供達は再び男の前に姿を現す。男は鋭い牙を覗かせて笑い、いやはや、実に滑稽な劇であった、と。次に男は、子供達に衣装や小道具を見せてくれ、と頼み込んだ。子供達は素直に従い、自分たちの鞄から、ついさっきまで使っていた道具を並べていった。
なるほど、これはランタンか。海の向こうの明かりはこのような形なのだな。ふむ、こちらはマントか。ずいぶん軽くて薄いのだな。この生地は庶民が用いていたのか。そしてこれは帽子か? こんなに大きい帽子を被っていたのか。男は好きに道具を手に取り、それぞれをじっと観察した。
子供達は言う。これは、ずっと昔に海の向こうで使われていた道具。今はどの国に行っても、昔の道具は見なくなって、いつでもどこでも見れる道具に溢れてる、と。男は嘆いた。あぁ、私が眠っている間に、世界はずいぶん歩みを進めてしまったようだ。水など嫌わず、海を一度渡ってみるべきだった、この滑稽な男どもの血を、一度味わってみるべきだった、と。子供達は言う。昔にも面白いものはいっぱいあるし、何より今の自分を作っているのは、その昔なのだから。全て昔で染めるではなく、全て今と未来で染めるでもなく、どっちもあったらおもしろいよね、と。
男は頷く。あぁ、そうだな。それが人だ。永き時を生き存える私と、すぐに死ぬお前達とは違う。だからこそ、ほこりを被ったものを掘り返し続け、この城を恐れぬお前達に興味が湧いたのだ。
男はいくつかの宝石と金貨を子供に渡し、続ける。この草でできた帽子はいくらだ、と。子供は答える。こんなにいっぱいもらったので十分だから、その帽子はあげる。それはまだ、作れる人がいるから、と。それを聞いた男は早速、譲られた三度笠を被る。マーメイドドレスに、大きな陰が落ちる。男の形相がすっぽり覆われるほど笠を、男は大層気に入った。これならば、少し明るくとも外に出られるな、と。子供達は顔を見合わせて言う。でも、その格好だと。男がぴたりと止まれば、豪奢なドレスと、禍々しい翼に、似つかわしくない質素な笠。ふむ、一理ある。男は子供達に告げる。次に来る時は私に合う、お前達の召物を持って来い、と。子供達は忘れぬよう、紙に書き留めた。
さあ、そろそろゆく時間だろう。男が時計を見せれば、次に出なくてはならない時間だった。
子供達はもう一度片付け、男に一礼し、背を向ける。男は小さな背中を見送っては、広いホールでため息をついた。
あぁ、あの龍め。せっかく美味そうな血がここにあるのに、貴様のせいで手を出せぬではないか。
…
まあ、まだ熟していない、青臭い血など不味いだけか。だがいずれ、あの龍の力及ばぬ時さえくれば
……
そこまで考えて、ふと、男は空腹を思い出した。緻密に編まれた笠を被り、子供達が出ていった扉へ向かう。少なくとも今、あの血を抜いてしまうのはあまりに惜しい。血への飢えをどれだけ満たそうが、どうにも満たされぬ心へ、あの子供達は不可思議な力を注ぎ込んでは、どこか満足させてくれる。あぁ、そうだ、私は気に入ってしまったのだ。
ホールの扉がガタン、と閉まれば、ホールには誰もおらず。けれど巨大な窓の外では、紅き月を目指すかの如く、折り鶴が1羽、飛び立った。
死者の世界から出る、その少し手前。ここにしては珍しい晴天と、爽やかな風が吹き抜ける。生と死の境には大きな川と小舟、そして爛々と咲く桜の木がひとつ。髪を上げた子供は先をゆき、小舟の主人へと話へいく。淡い色の桜の木の前で立ち止まった、髪を下げた子供。ふと、荷物を置いては、構える。
子供は扇子を開いては、緩やかに足を運び、散る桜の中に舞う。風が起こる。桜は川へと、ひらり、ひらりと落ちていく。
ふと、子供が目を上げれば、桜の木に座り込む小さな影。淡く儚い桜色を身に纏い、頭に生える鬼の如き角は、生糸のような白髪に包まれ。少女は、その身ほどもある巨大な鎌を携えて、桜の下に舞う子どもをじっと見つめ続けた。
子供は扇子でひとつ、花びらを掬い上げる。ひとつ、またひとつと。子供は謡う。桜の名を持つ子の面影を、河辺の桜に探し続け、狂った母の、悲しみ、痛み。あぁ、なぜ桜は咲くのに、我が子は咲かぬのだ。どこへ行ってしまった、自ら身を売るなど。木の上の少女はその歌声に、静かに耳を傾けては、ただじっと、じっと佇み続ける。
舞に翻る振袖に、惜しみ扇子に乗るは花弁。あぁ、我が子は、我が子はと。ひとり狂う母の姿に、少女はひらり、木から舞い降りては、狂いし母の前に立ち、声を重ねる。
三年の日数程古いて、別れし親と子の
元の姿は変われども
流石見慣れし面立てを
よくよく見れば
悲嘆に暮れし母の顔は、天を仰ぎ、2人は並び立った。
最後の歌詞を2人で詠み、一息吸って。桜の少女は微笑む。いらっしゃい、と。その声に、母を演じた子供もまた、微笑む。少し、大きくなった、と。少女は言う。そう言う貴方は、いつも変わらない。
ふわり、また風が吹き抜ければ、川に桜の花びらが降りていく。流れに従って、遠く、遠くへと運ばれていく。ふと、子供が鞄の中から冷やされた赤い小瓶を取り出せば、少女はそれを受け取り、赤くドロリとしたそれを、木の根元へどぱり。かけては、空の瓶を供える。少女はまた、子供に笑いかけた。忘れないでいてくれて、ありがとう、と。
血を受けた桜は、瞬く間にその血を吸い上げ、その花びらを真っ赤に染め上げた。ひらり、ひらりと、川には赤い花びらがぽつり、ポツリと。それとともに、少女の淡い桜色の衣装も、徐々に、徐々に赤みを増して。
桜の木の根元から、ちらりと覗く髑髏。ケタケタ笑い、あぁ滑稽だ。人の子が桜にわざわざ血を捧げるなど。少女は笑わないの、と髑髏をひと蹴り。ぎゃあ、こわいこわい。生意気な髑髏に臍を曲げた少女、けれど子供は言った。気にしてないよ、と。
少女はただ、幽世に散る桜として佇み、誰も気にせず忘れ去られてゆくのみと、その身を散らしていた。けれど、ある時、舞い散る桜に、ひとり舞う子供と出会った。少女は徐に、あぁ、あれを歌ってみたい、舞ってみたい、と。何度か通るその中で、ついに声をかけたのがこの間の出来事のよう。子供は少女を歓迎した。いくつかの歌と、踊りを少女に教えた。少女はひとり、ここにいる時、それを繰り返し、繰り返し練習していた。
少女は言う。今日は、忙しそうだね、と。子供は頷く。今回は、予定が詰まってて。うまく調整できなかった。でも、少しでも、お話ししたくて。その言葉を聞いて、少女は笑う。気にしなくてもよかったのに、と。子供はいう。ううん、ただのわがままだから、と。
子供はもうひとつ、鞄から取り出した。真新しい本。少女が表紙を捲れば、そこには達筆な文字で書かれた詩がたくさん。少女は不意の贈り物にすっかり夢中になって次へ、次へと頁を進める。子供は言う。仲間が用意してくれた、と。少女は言う。ありがとう、その人にも、よろしく伝えて、と。
桟橋から、髪をくくりあげた子供が歩いてくる。そろそろ船出だって、と。それを聞いた子供は頷き、少女に手を振った。またね、と。少女もまた手を振り、またね、と。
黄泉、あるいは幽世と、現世の境に流れる川を渡る。船に乗る、小さな影は振り向かず。濃淡様々な花びらとともに、川を下っていく。木の上から少女が見送れば、新しい贈り物を、またペラリ。次はいつ、来てくれるかな。
…
次は、これを見てもらおう。早速練習だ。
赤き桜の舞う空に、折り鶴が1羽、飛び立った。
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