溶けかけ。
2024-04-23 21:38:13
2000文字
Public ほぼ日刊
 

魔女の僕と龍のキミ

以前呟いていた、幼龍ヌ×魔女フの日刊ver.です。
冒頭だけなのでヌの出番少なめです。
ヌは龍化してます。


「ふう、今日の水やり終わり!ありがとう、みんな!」

 フリーナの言葉に妖精――隣人たちが集まってくる。

「フリーナ!ごほうび頂戴!」

「僕にも!僕にも!」

「私にも!」

 彼ら、あるいは彼女らはフリーナを囲うとご褒美、ご褒美と大合唱を始めた。

「分かってるよ、はい、どうぞ」

 フリーナは青い石を差し出す。彼女の魔力を込めた石は隣人たちにとってはご馳走のようなものだ。最期の1人まできっちりとお代を渡したフリーナは長い髪を靡かせて、家へと入る。

「ただいま」

 フリーナが声をかければ、使い魔の4体が嬉しそうに出迎えてくれた。それぞれの頭を撫でて調薬のための部屋へと向かう。グツグツと煮立つ鍋をかき混ぜて、出来た薬を魔法を使って冷ます。瓶に丁寧に詰めたらまとめて箱に入れる。箱には中に入った物を軽くさせる魔法がかかっているからフリーナの細腕でも楽々なのだ。

 マントのフードを被り、カバンを肩からかけて箱を抱えたら準備は完了だ。家に鍵をかけたら足元に気をつけながら歩き出す。

 街についたフリーナはまずは薬屋へ。古くから付き合いのある薬屋はいつもフリーナの薬を買い取ってくれるのだ。

「まいどあり」

 先代の老人から孫に替わってから、いちゃもんをつけられて薬の買い取り額が安くなってしまったが、ここ以外で薬を買い取ってくれるところがないのでしょうがない。薬を売ったお金でお菓子やパンを買えて浮かれていたフリーナに突如、声がかけられる。確か、最近出来た雑貨屋の奥さんだったかな?と考える。

「ねえ、魔女さん」

「なんだい?」

「今度、うちの店の看板を直してくれないかい?」

「お安い御用だよ。壊れ具合にもよるけど、基本は1000モラからだよ」

「え?お金取るの?」

「当たり前だろう?いくら魔法を使うとはいえ、タダなんてこの世に存在しないよ」

「金を取るなんて聞いてない!魔法で楽してるくせに!ケチ!」

 逆ギレに近い形で吐き捨てて、そのまま彼女は去っていった。フリーナは溜息を吐いた。折角の楽しい気分が台無しだ、と落ち込むフリーナの耳にキンキンとした子供の声が届く。
 
「あ、魔女だ」

「みんな、魔女がいるぞ!!」

「やっつけろ!」

 子供たちは次々に石を投げる。近頃は、魔女を神の教えに反する異教徒だと言う一派に乗せられてこうやって攻撃されることが増えた。

――痛っ……!」

 フリーナの額に石が当たり血が出る。子供たちは魔女をやっつけたぞ!と嬉しそうに走っていった。周りの大人たちは誰も咎めない。――彼らからしたら魔女である自分は異端で恐ろしいものだからだ。
 フードを深く被り直し、フリーナは荷物を持って歩き出す。ぽたぽたと滴る血が石造りのタイルに染みを作るのを魔法で掃除しながら街を後にした。

 家へと帰れば、妙にざわざわと隣人たちが騒がしい。

「フリーナ!フリーナ!大変なの!」

 隣人たちがフリーナを引っ張る。彼、彼女らの尋常じゃない様子にフリーナも慌てて走り出す。

 案内されたのは大きな木の下。そこには白い美しい幼龍が真っ赤な血溜まりを作って目を閉じていた。

「な!?キミ、大丈夫かい!?」

 幼龍に近づけば、僅かに体が上下しているのが分かって安堵する。急いで魔法で浮かせて湖まで運ぶ。
 霧の湖と呼ばれるこの湖は強い魔力のせいでいつでも霧がかかっている。フリーナは湖の浅瀬に幼龍を寝かせると魔法を唱え始める。傷を治す魔法なのだが、傷が大きすぎたり、毒に侵されていると効果が薄い。フリーナは唇を噛み締めた。――もっと、強い力じゃないと駄目なんだ。フリーナは息を大きく吸い込んだ。

「ウンディーネ!キミの力を貸してくれ!」

 人嫌いのウンディーネはこの湖を守っている隣人だ。彼女は水に準ずる隣人の中でも強い癒やしの力を持っているが手を貸してくれることは少ない。何度呼びかけても湖はしんと静まり返っている――ああ、やっぱり駄目なんだ、とフリーナが諦めかけたとき水面が大きく盛り上がり、美しい少女が現れた。

「ウンディーネ!」

 少女は笑むとフリーナの額に口づけた。フリーナの中にウンディーネの魔力が流れ込み、龍の傷がみるみるうちに塞がっていく。

「ありがとう、キミがいなければこの子は死んでいたよ……

 ウンディーネは頷くとフリーナの髪を指差し、チョキン、と指で切る動作をした。フリーナはすぐに理解し、鋏で自身の長い髪を一思いに切った。

「はい、どうぞ」

 髪を渡されたウンディーネは嬉しそうに笑うとバイバイをするように手を振って再び湖の中へと戻って行った。

「ふぁ〜疲れた。傷は塞がったよ……早く元気におなり、小さな龍くん」

 幼龍の背を撫でたフリーナは気を失うように眠りについた。