自覚と片恋

(無自覚)ロ→←ド(自覚有)のロナドラです。
最後はハピエン。
私はハピエン好き。
さっさとくっつけばいいと思って日々生きてる。

きっといっぱい書かれると思うけど、それでも自分はこういう話が好きだし何個でも読みたいから書いた。

その日の夕方、事務所を出る前に用意されていたおにぎりを食べて、まだ寝ている一人と一匹を起こさないように、メビヤツに留守を任せてそっと出かけた。
個人的な依頼もなかったから、予定通りギルドで眠気覚ましのアイスコーヒーを飲みながら待機をすることにして、グラスを磨くマスターと世間話をしてすっぽり空いた時間を過ごした。
マスターは退治人仲間の相談をよく受けていて、依頼や退治のことだけでなく、私生活のことも相談されれば親身になって聞いてくれ、その経験値の高さを活かしたアドバイスをくれる。
だから俺も最近頭を悩ませてる問題に、何か良い案はないかと知恵を借りることにした。
最近の俺の悩み事。
それはマスターもよく知っている吸血鬼で、俺の仕事のパートナーであり同居人のドラルクのことだ。
転がり込んで来た当初は「ジョンとメビヤツは置いてお前は出て行け」と本気で思っていたし、口に出したことも何回もあった。
「城の再建費用が〜」とか何とか言ってのらりくらりと躱されて、いつの間にか胃袋をしっかりと掴まれ、アイツの作る料理が一番美味いと思うようになっていた。
初めのうちは「何か仕込まれてるんじゃないか」と怪しんでいたものの、下手くそな鼻歌を歌いながら作る姿を見ていたら「こいつはそんな事はしない」と確信にも近いものを感じるようになった。
それでも高確率でイタズラされるから、油断はできないけどな。
それに、退治についてきた時には、たまに極々たまにアドバイスをくれて役に立つこともある。
その二つに関しては、自分の胃袋の弱さと知識不足が原因だから仕方ないと思っているけど。
俺の頭を悩ますアイツの問題点。
それは、好奇心を刺激されると誰の懐にでも簡単に飛び込んで、あっという間に懐いてしまうところだ。
吸血鬼らしい享楽主義だなと思う反面、誰とでも打ち解けるその姿を見ると胸に靄がかかったようになる。
この前なんか「いつもチャンネル観てます!!」っていきなり話しかけてきた男と遭遇して、よほど気が合ったのだろう俺のことを忘れてクソゲーのことを話していた。
別れ際に握手求められたアイツは「ええ、もちろん」なんて偉そうに言って、人懐っこい笑顔で手袋を外そうとしていたから、咄嗟にその手を掴んで男から引き離してしまった。
「何をするんだ!」って怒られたけど、自分でもどうしてそんなことしたのか分からなくて、上手く誤魔化すこともできないまま、うやむやにしてして逃げた。
手を握ったまま引きずるように事務所に戻ると「いじけ虫」って笑いながらココアを出してくれて、それを飲んでいる間に鬱屈とした気持ちは緩んで消えていった。
もちろん俺だってファンから話しかければ喜んで対応するし、求められたらサインや握手も写真撮影だってするのに、アイツが他の奴にそういうのをしてるのを見ると、なんだか心に靄がかかったみたいになって、どうしようもなくイライラしてしまう。
「マスター、これってどうしてか分かりますか?」
ごほん。と咳払いして髭を撫でて少し考えた後「早くて帰ってそのまま伝えてみては?」といつもと変わらない声が返ってきた。
「今夜は他の方もいらっしゃるので、何かあっても大丈夫ですよ」
低音に促されるようにギルド内を見渡せば、確かに自分一人いなくなっても充分な人数が待機しているし、見回りに行ってるショット達からも何の連絡もない。
アイツからの連絡も無いってことは、事務所に依頼人も来てないってことだろう。
マスターの言うように、この話をするには今夜が絶好のチャンスかもしれない。
「じゃあ、何かあれば連絡ください」
この前アイツがツケにしていた代金も一緒に支払いをして、今頃はジョンの食事を見ながら寛いでいるだろうと、留守番中の姿を思い浮かべて急ぎ足で帰路についた。
そして、事務所からリビングに続くドアの前に着いた時、ジョンに話しかけるアイツの声が聞こえたから、出来心で立ち聞きをしてしまったんだ。






寝ている時、夢は見ない方なんだ。
正確に言えば、見ていたとしても起きてしまえば内容は覚えていない。
夢を見たと覚えているのも、この200年で両手で足りるぐらいだから、夢というのはそういうものだと思って生きてきた。
本の登場人物が「夢の話」をしていても、私とは違うんだなぐらいの考えでいたし、なぜ違うのか調べてみようとか、お父様達に聞いてみようと思ったことすらなかった。
もちろん聞かれることもあったけど、適当に話を合わせてはぐらかしてしまえば良い。
それぐらい「夢を見る見ない」は私にとって些末なことでしかなく、このまま生きていくんだなと思っていたんだよ。
ところがどっこい。
ここ最近。
毎日。
毎昼。
眠るたびに同じ夢を見る。
毎回、事務所がスタート地点だ。
事務机で何かしてる彼に「夕飯できたよ」って声をかけて「おう」って言葉が返ってくる。
熱々のソースがかかったハンバーグと、ちょっぴりバターを塗ったお手製バゲット、しっかり冷ましたコーンスープとお皿にてんこ盛りのサラダを食べるんだ。
「すげぇ美味い」って顔を綻ばせて食べるのが嬉しくて「じゃあ明日は何食べたい?」って、頬袋にハンバーグを詰め込んだ彼に聞くところで一度目が覚めるんだ。
ここまでなら平和な日常の夢だよね。
でも違うんだよ。
一度目が覚めるって言っただろ?
起きるにはまだ早いから寝直すと、さっきの続きが始まる。
今度はギルドがスタート地点だ。
「吸血鬼だ!!」
って声に答えて吸血鬼退治が始まる。
いつもみたいにホルスターから銃を抜いて応戦する。
彼自身は気付いてないだろうけど、相手に銃を向ける時に笑わないんだよ。
それとね、照準を合わせる時に開く瞳孔がすごくかっこいいんだ。
あの瞳で狙いをつけて撃たれるなら、銀の弾でも喜んで受け入れるかもね。
きっと痛みが届く前に砂になるけど、それでも真っ直ぐに見つめてもらえるなら、いいかなって思ってしまうんだ。
ごめんごめん、ちょっと逸れちゃったね。
えっとそれで。
それでね、彼は吸血鬼に反撃されて大怪我をする。
もちろん死ぬような怪我じゃないよ。
傷は小さいのに出血はやたら多いタイプの怪我さ。
でも私にはどれぐらい血を流したら死ぬのか分からないから「死んじゃう。誰か助けて」って血塗れの体を抱きしめるんだ。
流れ続ける血を止めたくてもできなくて、サイレンの音が頭に響いて、抱きしめる腕が震えて、ようやく夢から目が覚める。
そこまで見ると大抵は陽が沈んでるからそのまま起きるけど、最近の寝不足の原因はこれなんだ。
どうしてこんな夢を見るんだろうって、何気なくマスターに相談したんだけど「その理由に気付いているのでは?」って言われちゃってさ。
さすがマスターだね。
私の半分も生きてないのに、あの勘の鋭さは素晴らしいよ。
マスターの言うように、答えはもう分かっている。
私はね、彼に一目惚れしてるんだよ。
お城に退治にきたときのこと覚えてる?
あの大騒ぎしてるたった数時間で、彼に恋をしちゃったんだ。
恋愛の意味で好きだって気付いたのは最近だけど、そうでもなければ、この私が態々大変な思いをして荷物を発掘したり、棺桶運んだりなんてしないよね。
「退治人に襲われた」ってお父様に泣き付いたらすぐに新しいお城も、壊れたゲームも、新しい棺桶だって何だって手に入るんだよ?
それなのにねぇ。
あぁこれが恋愛感情なんだって気付いてから、毎日繰り返し夢を見るんだ。
幸せな笑顔溢れる食事風景は無くしたくない。
髪の毛一本ですら手放したくない、亡くしたくない。
そんな想いが夢になってるんだろうね。
さすがに毎回見るのが辛くてね、耐えられないんだ。
こんなにも強い執着心を抱えて、この先何食わぬ顔して彼と共に生きていくことはできない。
だからせめて、彼の人生が終わるその日まで。
「私は、初恋と一緒に眠るんだ」
ごめんね、ジョン。
弱い主人を許しておくれ。






ジョンの叫び声が脳に届いた瞬間、ロナルドは事務所から続くドアを開け放ち、ソファで半身を砂に変えつつあるドラルクまでの距離を一足飛びで詰めた。
「このバカ!!何やってんだ!!!」
青白い手に持っていたワイングラスを奪うと、力任せに両腕を掴み上げてソファに抑えつけ、目を見開く顔を正面から見据えた。
「ろ、なるどくん?」
突然現れたロナルドに驚き、その存在を確かめるように名前を呼ぶと、ドラルクは掴まれた腕を最後に残して全身を崩した。
座面に溜まった砂に縋るジョンを撫で、ロナルドは足にぶつかってきた物に目を向ける。
ドラルクが好んで飲む吸血鬼用のワインに、人間用の缶ビールやカクテル、この家にストックしてある酒を全て出してきたような本数が、無造作にソファや床に置かれ、中身を残したまま転がってカーペットに染みを作っている物まである。
砂の下にも瓶が顔を覗かせているのを見つけると、粒子が舞うのも構わず抜き取り、苛立ちをぶつけるように床に置いた。
ロナルドが予想した通りの大きな音と、ビリビリと床から伝わる振動に、ほんの少しだけ砂が揺れて広がった。
砂のまま逃げようとするドラルクを一粒も逃さないように集めて覆いかぶさり、肺に溜めた空気を叩きつけるように声を荒げた。
「お前は!この事務所の備品で!!俺の相棒だろ!!」
「勝手に何でも決めんな!!」
返事のない砂をかき集めて抱え込み、勝手にこぼれ落ちていく涙を染み込ませて囁いた。
「お前の気持ち、ちゃんと聞かせろよ」
縋るように砂に頬を寄せると、ふるりと震えたのがロナルドに伝わった。
点々と染みが増えるのに答えるように砂を動かし、ドラルクはロナルドと視線を合わさないよう顔を背けて再生を始める。
ロナルドの両腕に収まるように全身を再生し終わると「すまない」と一言呟いて、ジョンを抱き上げて顔を隠してして俯いた。
小さく丸まってマントですっぽりと隠れてしまった体を、ロナルドはどう扱えばいいのか分からず、まごまごと悩んだ末に隣に腰を降ろすことにした。
なぁ」
意を決して発されたその声が聞こえた途端、ドラルクはさらに縮こまって全身で拒否の姿勢をとった。
まるで天の岩戸だな。とため息をついて、この吸血鬼をどう攻略するか、これ以上逃げられないようにマントの端を掴んで頭を悩ませる。
もぞもぞとマントの中で動く気配の後「ヌヌヌヌヌン」とドラルクの足元からジョンが出てきて、ロナルドの手を借りるとドラルクの肩に乗り直した。
小さな手でよしよしと癖っ毛の髪を撫で、内緒話をするように耳元で何事かを囁く。
ドラルクが小さく何度も首を横に振るが、それでも諦めずに話を続けたジョンに負けたらしい。
マントの奥から震える声が聞こえてきた。
「今日は朝方までギルドにいるんじゃなかったの?」
「そのつもりだったけど、マスターと色々話してて早く帰ることにしたんだよ」
「いつもの大声はどこにいったんだ」と言いたくなるのを我慢して強くマントを引けば、恐る恐るというのが当てはまるような目が「何を?」と問いかけてきた。
「お前のこと、相談してた」
「出ていかなくて困ってるって?」
「そうじゃねぇよ」
「そっか」
涙を溜めた目を隠すように、再びマントの中に引きこもりそうになるのをジョンが一声鳴いて阻止すると、ドラルクは大した抵抗もせずに動きを止めた。
真っ直ぐに見つめれる位置に座り直すと、ロナルドは意志を込めて話し始める。
「さっきの立ち聞きしたのは悪かった。でも、お前の話を聞いて分かったことがある」
聞きたくないとでも言うように、きゅう。と目を閉じると、ほろりと痩せた頬に一筋溢れて落ちた。
首を竦めて逃げようとするドラルクの薄い瞼の上に、ゴツゴツした手をそっと置いて、大きな瞳に明かりが届かないように覆った。
夜に生きてきたドラルクが安心するかもしれない気持ちと、これから伝える言葉の気恥ずかしさに、ロナルドの方が耐えれそうにもなかったからだ。
面倒な吸血鬼退治のときのように、軽く息を吐いて丹田に力を込め、力で制圧しようとする手を、今はそうではないと気合いで抑えつけ、掌の向こうにある赤い瞳を思い出す。
じっとドラルクを支えているジョンにも勇気をもらい、今まで生きてきた中で一番厄介な自称高等吸血鬼に、気持ちを打ち明ける覚悟を決めた。
「俺は、お前が好きだ」
言い切った瞬間、ヒュッと息を飲む体に、ちゃんと言えたと、聞こえたんだと安堵した。
耳の先まで固まったかのような感触に「これで全部忘れられたら嫌だなぁ」と苦笑いが浮かんだ。
いつもの晩酌程度の飲酒ではない、ヤケ酒に近い状態で相当量を呑んでいるのを考えると、明日また仕切り直すことも考えなければならない。
すぐに煙に巻こうとするドラルクを逃さず、砂にせずに話すことができるのか不安が過ぎったが、それを見越したジョンがドラルクの耳に優しく話しかけた。
「ヌヌヌヌ?」
普段よりも強い声を聞いたドラルクの瞼が、ふるふると動くのを掌に感じた。
驚かせないように、怖がらせないようにと、緊張で震えるほどゆっくり手を外す。
離れる大きな掌を追うように瞼を持ち上げ、上目遣いにロナルドを見ると、ほんの少し目を眇めて言った。
ジョンが『返事は?』って言うから」
「うん」
「でも、その前に」
「?」
「あの好きって、本気かね?」
「ったり前だろ!!!冗談で告白なんかできるか!」
ロナルドが顔を真っ赤に染め上げて叫べば、ドラルクも同じくらい真っ赤に染めてマントで口元を隠した。
「そう」
「へ、返事はどうなんだよ」
「さっきの話しを聞いてても、返事がいるのかい?」
愉悦にとろんと染まるドラルクの目元に、靄がかかって燻んでいた心が歓喜の色に変わるのを、ロナルドは確かに感じた。
それでも、確たる言葉を貰うまではと気持ちを切り替え、腕を組んで口を尖らせて返事を強請る。
「当たり前だろ」
「勝ち確なのにねぇ」
クスクス笑いジョンを肩から下ろすと、気がきくアルマジロは「ヌヤン」と鳴いて目を瞑り耳を隠した。
ロナルドはその丸い背中を撫で、体をドラルクの方に傾けると、二人の顔と同じくらい真っ赤な上着を引き寄せられる。
内緒話ができる距離まで顔を寄せると、ドラルクは胸に溜まり悲鳴を上げていた言葉を、柔らかな円を描く耳に囁いて解放した。
「大好きだよ」
届いたその言葉に、ロナルドは天にも登る思いを小さなリビングに轟かせ、ドラルクは声の大きさに驚きつつも、無上の喜びを口元に浮かべて砂になった。
ジョンは二人の関係が変化したことに安堵のため息をつき、主人の一番の座は譲らない決意を胸に『よかったね、どらるくさま』と、主人が再生するのを寄り添って待つことにした。