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凱
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ロナドラ
違和感の原因
できあがってるロナドラ。
そのものの描写がないので全年齢にしてますが、やることやってるし、そんな表現も少し出てくるので苦手な人は注意です。
ロナルドが事務所でパソコンに向かっていると「夕食持ってきたよ」とエプロン姿のドラルクがやってきた。
今夜が新月だと確認した上で決めていた休業日。
おかげさまで吸血鬼が現れたという電話もなく、飛び込みの依頼も今のところはない。
たまには締切ギリギリを攻めるより余裕をもって取りかかるのもいいもんだな、と執筆家の顔をしたロナルドは昼下がりから黙々とパソコンに文字を打ち込んでいた。
リビングの方で活動音がし始めたときに一度顔を出し、キッチンでコーヒーのおかわりを淹れながら、まだ意識がはっきりしていないドラルクに「依頼もないし向こうで原稿書いてる」と伝えた。
声を出すのも怠いのか「
…
ん」とドラルクが片手を上げて了解の合図を送るのを確認して、ロナルドは静かにリビングを後にした。
それからしばらく後。
ことん。と静かに置かれたお盆の上には、三角形のおにぎり3個とタコの形にされたウィンナーが串に刺さって乗っている。
ひとつだけ一回り小さなおにぎりは、ジョンがドラルクに手伝ってもらって握ったのだろうと、ブルーライトカット眼鏡の奥を緩ませた。
ケースに眼鏡をしまうとおしぼりで手を拭き、両手を合わせて「いただきます」と幼少期に兄から教えられた通りに、食べ物とそれを作ってくれた人に感謝をしてかぶりつく。
具の違いを楽しみつつ半分以上食べ終えたところで、ソファに座っているドラルクの方に視線を向けた。
いつもならスマホを弄って騒いでいるか、死のゲームで遊びながら喋り続けているのに、珍しく難しい顔をしてテーブルを睨みつけていた。
ロナルドの訝しげな視線に気付いたのか、ドラルクが表情豊かな眉毛をへにょんと下げて口を開いた。
「起きた時からずっと、お腹に違和感があるんだ」
座っていても立っていても、着替えをして夕食の用意を始めてもずっと違和感があって
…
。
そうロナルドに告げると、尖った耳も下げてしまった。
「夕飯も簡単なのにしちゃって、すまないね」
「んなこと気にすんなよ」
二個目のおにぎりを咀嚼し終えると、三個目を手に取って大きくかぶりつく。
ふんわりと解けるほどよい握り具合に中の具を見ると、自分一人の時では想像したこともなかった梅マヨだ。
タコさんウィンナーには目にあたる部分には黒胡麻が乗っていて「どこが手抜きなんだ?」と疑問を浮かべる。
クルクルとウィンナーを回しつつ、エプロンの上からでも分かる薄い腹をじっと眺めた。
「そんで
…
腹だっけ?なんか拾い食いでもしたのかよ」
「失礼な!そんなことするわけないだろ」
ロナルドが揶揄い半分で言ってみた台詞に、カッと口を開いて反論はするものの、声量はいつもの半分くらいで、なるべく腹部に力を加えないようにしているのが見てとれた。
「さっきデスリセットしたけど、まだ違和感があるんだよ」
心配する青い瞳から視線を逸らすように俯いた先には、ドラルクが自身のために用意したホットミルクが、手付かずのままテーブルの上に置いてある。
身体が暖まれば違和感もなくなるかと思って用意はしたが、ずっと体温が低いままで生きてきたのに、暖まったところで良くなるとも思えず、そのまま放置されて少しぬるめのミルクになってしまった。
仕方ないからまた後で温めなおして飲もう。そう諦めてマグカップをトレーの上に乗せると、お盆を持ってきたロナルドが横に座った。
ごちそうさまの声が聞こえなかったが、こちらを心配してくれてるのだろうと思って、今日は特別にロナルドを叱ることはしない。
ん?とドラルクが首を傾げれば、分厚くて硬いタコがある掌を胃の上の辺りに当ててきた。
ストレスの緩和にも繋がるその行為を甘んじて受け入れてみれば、大きな掌からゆっくりと伝わる暖かさで、違和感が少なくなったように感じた。
幼少期にも父親にこうやって甘えてみたり、不安な日はずっと膝の上で過ごしていたことを思い出し、横に座る人間からも同じように、癒しの効果を与えられていることに少しくすぐったさを感じた。
父親とは違う、ロナルド自身から溢れ出る優しさにそのまま身を任せることにした。
「腹のどの辺だよ」
「この辺りなんだけど」
鳩尾辺りをさすっている手を臍の下まで移動させ、撫でてくれとロナルドに催促をした。
「けっこう下だな。お前トイレ行かねぇし、下すってことなさそうだよな」
ロナルドは力加減を覚えたばかりの筋肉を使い、服の上からでも分かる薄い下腹部を催促されるがまま撫で摩る。
少し前に恋人関係になって以降、数えきれない接触事故を起こしながらも前に進んだおかげで、今ではこうやって加減を覚えた腕に、ドラルクは安心してもたれることもできるようになった。
手を繋げば手汗の不快感で砂になり、腕を組めば照れてエルボーをされて風穴か開き、ハグをすれば腰から上下真っ二つにされたこともあった。
「本物のゴリラのが優しくない?」と揶揄っていた日々を思い出し、ドラルクは一人で小さく笑って会話を続ける。
「記憶にある限りトイレは行ったことないよ」
痛みを感じたり、これは痛いぞ、と思っただけで砂になる体なのだ。
この違和感は『痛い』わけではなく『もやもや』とするだけで、気持ち悪くても死ねる体なのに、そこまで不快でもない微妙な感覚なのだと、ロナルドの手の上に自身の手を重ねて零した。
「昨日飲んだ牛乳、腐ってたか?」
「ちゃんと期限見てるし、開封したらしたで君も飲むからすぐ空になってるだろ」
ロナルドはそれもそうかと納得すると、こてんと首を傾げた。
腕の立つ退治人がやるこのポーズも、ドラルクが時折りやっているのを見ているうちに、ロナルドへ癖が移ってしまったものだ。
ふさふさの銀髪が揺れるのを見るたびに「真似するな」と首を元に戻されていたのが、ここ最近は「全くもう」と少し頬を膨らませるだけで許されるようになった。
「他に何か口にした覚えねぇのか?」
「ほかに、ねぇ
…
」
昨夜の食事の用意をする時にジョンと一緒に味見をしたが、それも小皿に移して啜る程度のものだった。
その行為自体は特別なことでもないし、違和感を覚えるような量の味見をした覚えもない。
「起きてからいつも通り家事して、その後は一緒に退治に行っただろ?
……
あ」
「ん?」
顎に手を当てて固まったドラルクの顔を覗き込むと、半目になってロナルドの方へ視線を向けた。
「あぁ〜」と間伸びした声を上げて、ドラルクは昨夜の行動を優秀な頭の中で繰り返す。
日暮れと共に起きて、夕食の用意をして、もりもり食べるのを眺めて、片付けは後回しにして、下等吸血鬼退治に同行。
ヒーヒー喚きながら吸血アブラムシを引っ叩くのを遠目で応援して、私ってば今日も大活躍!!なんて喋りながら帰宅。
交代でお風呂でさっぱりして、目を擦るジョンを寝かしつけて、その後
…
。
そう、その後の行動がこの違和感の原因で間違いないだろう。
そう目星をつけたドラルクの呆れとも怒りともつかない視線に、ロナルドの背中にじわりと汗が滲んできた。
「
…
なんだよ」
「原因が分かったけど
…
君に言うの嫌だなぁ」
「ってことは俺が関係してることか?教えろよ、気になるだろ」
「ん〜。言ってもいいけど、殴るなよ?」
両手をがっちり
…
といってもロナルドが少し力を入れたら解けてしまうが、それでもドラルクなりの全力でロナルドの分厚い両手を握りしめる。
そして目を閉じて、大きく息を吸って、吐く。
深呼吸をして次の言葉を紡ぐ用意をドラルクがすると、つられるようにロナルドも深呼吸をして、これからの一言に心の準備を整えた。
「あのね
…
寝る前にいっぱい中に出してくれたのが悪さしてるのかも?」
うっとりと上目遣いで囁いた瞬間、ロナルドの両手はドラルクの手を振り解き、ソファの背もたれに当たった方は砂になった。
「っ!!!ごごごごめ!!!わっ!」
一瞬で真っ赤なリンゴの様になった片言の意味を理解すると、首を傾げて今度は試すような笑顔をロナルドに向かって浮かべる。
まるでドラミングでもするかのように両手を振り回すのを、座る位置は変えずに背中を反らして避けた。
顎に人差し指を当てて「ん?」と追い討ちをかける。
「ちょっと処理が甘かったのかな?ロナルド君はどう思う?」
「いや!!!あの、ごめっ!!!!」
「まぁ何回かデスリセットすれば治ると思うけど
…
」
このままさめざめと泣いてもっと慌てる姿を見るか、それともどこまで真っ赤になるか試してやろうか。
真っ赤な顔で暴れるゴリラを上から下まで眺めて、一つの決断を下す。
「次からは、ちゃんと、この指で、掻き出して?」
お願いだよ?と、一つずつ区切りながらおねだりをして、暴れる左手に両手を添えて下腹部に持っていくと、ロナルドは人語とは思えないような叫びをビル中に響かせた。
そのまま薄い腹を大きな拳が突き抜けると、ドラルクはゲラゲラ笑いながら崩れ落ち、本日のデスリセット2回目を達成した。
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