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紺色歯車
2024-04-21 19:09:59
4984文字
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【公然大告白】
どこぞの百科とかwiki風に書いてみたくて書いたものです。
※創作初めの頃にまとめたものなので、若干の設定の差異が含まれる可能性があります。
【公然大告白】
公然大告白、又は公衆面前大告白とは、ロボットレース界でも屈指の珍事件である。
《事の経緯》
事はベルギーで行われたグレード混合レース。このレースはこの事件を除いても小さな波乱やトラブルがそこかしこで起こっており、上位勢もまた例外ではなかった。
レースのコンディションは直前まで天候の乱れで大雨が降っており、以降小雨が降ったり止んだりで不安定。路面の水はそれなりに捌けているものの、絶えず供給される雨水の影響でドライになる気配がなく、若干の荒れ模様だった。安定しない路面状況ゆえに思うような走りができないレーサーが多く、中にはリタイアを選択したレーサーも数名。実際、このレースの全体的なタイムスコアは例年と比べると遅い数値である。
そんな中レースを制したのはセイボリーのコル。この日コルは非常に好調だったことに加え、有力候補のライバルが悪天候により著しく下がった路面コンディションの影響を受けたりトラブルを発したりで奮わなかったことも重なり余裕の勝利。
余程嬉しかったのか水滴塗れのバイザーが煩わしくなったのか(実際には機体トラブルでバイザーが展開できなくなっていたらしい事が後々判明したが)、コルは彼にしては珍しく目元を晒してインタビューを受けていた。従えるのは、ベートガーディン最高傑作の一機体ヴェイロンと、経験値と能力双方を併せ持つノインエルフ。心なしか受け答えの口数も多いような気がする中、「路面コンディションの悪い中でのレース運びに定評があるようですが」とインタビュアーが聞いたところで事は起こった。
「好きだ!!俺と付き合ってくれ!!」
というラーレンの大音響がコルの言葉を掻き消したのである。
呆気に取られる一同。
そんなことはお構いなしに続く第二声三声、四声
……
。
「君の走りに惚れたんだ!誰かの走りを見てこんなに心を釘付けにされたのは初めてだ!!」
「冗談なんかじゃないぜ、至って本気だ!!」
「俺の心は今、君でいっぱいなんだ!!」
その間に、カメラは音源を捉えていた。ピット前で、ロカに詰め寄り熱く語るラーレンの姿を。
彼の言葉の合間に絶妙な沈黙があったのは困惑したロカが何か答えているからだった。お構いなしに次々と言葉を発するラーレンに相当焦ったのか、初めこそオロオロとしていたロカは最終的に彼の口に手を押し付け空いた片手で自身の口元に人差し指を立てた。そこでようやくラーレンは己の発声音量がバグっている程大きくなっていることに気付いたものの、時すでに遅し。メディア達はこの突然の大胆な告白にすっかり注目を移してしまっており、コルのインタビュー所では無くなっていたのである。
なおこの時のそれぞれの行動と状態は以下の通り。
《ロカ》
ピットから先輩の輝かしい成績を祝おうとしていたら突然の大音量告白を受け、困惑より焦りが上回ってラーレンを止める行動に移った陰の功労者。
この日ロカは勝つことよりも経験を積むことデータを取ることを目的に出走しており、成績は二の次だったが、果敢に攻める走りを見せて入賞している。そしてコルはその付き添いのような形で出走しており、ロカからすれば(わざわざ付き添っての参加にも関わらず手本まで示してくれた事へ)祝福と敬意を払わねばならないのに(望まぬ形でとは言え)それらとは対局にあるインタビュー妨害をするという、思い切り泥を塗るような事態に陥ってしまった。客観的に見れば完全に被害者である。一応、「いきなり何ですか」「冗談なら直ぐに
……
と言うか貴方、音量
……
」「あの、スピーカー設定
……
」と、ラーレンの行動を止めようとしてはいたらしいが、ヒートアップしてしまっていた彼には物理的な行動を取るまで、まるで届かなかった。
騒動の後、コルベット兄弟に平謝りしたらしいが、揃って「お前は悪くない」と返された上に警備員とマーシャル双方が駆け付ける事態となったことを労われたとのこと。
《コル》
今回の一番の被害者。
このレースの彼は様々な要素が殆ど全て自身にプラスに働いたのもあり見事にポディウム頂点を獲得。自身でも納得いく走りだったのかリザルト確定時にガッツポーズしている姿が目撃され、後々公式からもネットへアップされた。
この時コルはポディウムは取るものの1着の獲得は逃し気味であり、久し振りの優勝だったことに加えて競り勝った相手はあのヴェイロンとノインエルフだっため、その喜びもひとしおといった所である。
……
はずだったのだが、ラーレンの大音量によりインタビューは中断。一応、事が収まってから再開されたが、その時にはもはや形式的なものに近くなっており、真の意味で彼に興味を戻したものはごく少数だった(隣の誰かさんは追い打ちかける行動取ってるし)。
どの角度から見ても怒っていい案件だが、当の本人は特にこれといった抗議的なアクションは示さなかった。そればかりか、むしろラーレンを庇うような声明まで出している(器が広いと言うか相変わらず弟最優先というか
……
)。
余談だが、ラーレンにインタビューを遮られた際のきょとん顔は通常だと先ず滅多に見られないレア表情で、普段の彼の振舞いとのギャップは一見の価値ありである。そんな顔するんだ。
《ヴェイロン》
コルの栄冠がしっちゃかめっちゃかになった所へ間接的にとは言え追い討ちをかけた機体。
この日のヴェイロンはバイク走行中のマシントラブルで思うようなタイムが出せず、その上終盤も終盤で無線トラブルに加えてブースターが突然の不具合を起こして失速。下手をすれば優勝争い脱落だった(それでもポディウムを譲らなかった辺りは流石だが)。
レース中のトラブルに対しては比較的寛容な姿勢を見せる事の多いヴェイロンだが、流石にこうも連続でトラブルが立て続くと違ったようで、ポディウムに立つ時からコルのインタビューが始まってもなお珍しく不貞腐れていた(余談だが、この時の顔を見てシロンのベース機体なのだと納得する人も多いとか)。そこへラーレンの大音量。最初こそ呆気に取られた顔で声の方向を見ていたヴェイロンだが、すぐに状況を理解したのか暴走する姿が面白くなったのか、徐々に口元が緩んでいく。最終的にツボに入ったらしく、終盤には肩を震わせて笑い転げていた。
なお、普段笑う時には声が大きくなる事で知られるヴェイロンだが、この時ばかりは流石に空気を読んだのか声を押し殺した上にバイザーを降ろし、その上常に口元を隠すような配慮っぽい行動を取っていた。
……
が、(基本バイザーオンのコルがオフ状態の中そうでないヴェイロンがバイザーオンでいる普段とは真逆の状態や、一人だけ明らかに状況を楽しんでいる事や、一転して機嫌を直している辺りなどが拾われることになったので)はっきり言って何の効力も擁していなかった。後々ラーレンを擁護する側に回っただけまだマシ
……
か?
《ノインエルフ》
ある意味において今回の被害者であるが、ポディウム三機体の中では最も無難な立ち位置にいた。
このレースにおいては安定感のある走りを見せたものの、終盤の加速時にスリップし、その際の立て直しの失速で僅かにヴェイロンに届かなかった。
件の瞬間、他のメンバー同様に呆気に取られた顔をした彼だが、バイザーのお陰で目元は見えなかった。以降、場を乱さぬようにかコルを気遣ったりヴェイロンの態度に戸惑ったりするような素振りはあったものの、特にこれといったアクションは示さず大人しくその場に控えていた。再開後のインタビューも当たり障りない受け答えだったので、振り返ってみれば、トラブルを乗り越えて(3着とは言え)ポディウムを獲得したのにその功労の余韻に浸る間も無く珍事に巻き込まれた可哀想な機体である(被害を受けても与えてもいない辺りはまだ傍観者だったと言えなくもないが)。
《ラーレン》
今回の主役。
よりによって「勝者インタビューを該当者でもない上に完全な自己の都合で中断させる」と言うエチケット違反もマナー違反もへったくれもない事をやらかした張本人。
この日のラーレンは苦手な悪天候レースとあって調子が上がらず、取り分け目立った場面はなかった。
あの瞬間までは。
レース終了後、ピット内で待機していたラーレンは、表彰式間際にその場を離れた。健闘を讃えに他のレーサーの元へ行ったのだと思ったメイレルーク陣営はこれを放置(ラーレンはそういうことをよくやるレーサーとしても知られている)。
……
が、これが良くなかった。結果は上記の通り。セイボリー陣営から最も遠い位置にあったことも災いし、同陣営スタッフが駆け付けるのにも時間を要してしまう(大慌てでピットを飛び出してくるスタッフ数名が映っている映像がある)。
後々にメイレルーク側が出した公式見解によると、本当にロカに一目惚れして告白へ踏み切ったはいいが、緊張のあまり機能調整を誤って実況用マイクの回線にアクセスした挙句ロカに止められるまで気付かなかったとのこと。当然、各方面からお叱りを受けることになったし、「そんなことあるか?」と様々な方向から指摘や批判が飛んだが、当の邪魔されたコルから「気にしてないしもう散々怒られただろうから」とコメントが出されたのと大幅なグレードダウンペナルティを食らったのとロボット学の権威に「心理的な面から貴重な事例だ」と言われたのとで何とか手打ちになった。ただ、コルは許したがベットが許さなかったらしく、めちゃくちゃ怒られたらしい(兄貴大好きで有名な機体だから仕方ない)。それでも後々公認のカップルになっているのだから、世の中何があるか分からない。
《ベット》
ある意味において今回の被害者。
この日の彼は出走者ではなかったが兄機と後輩の出走を応援すべく会場に足を運んでおり、特に兄機体のコルはここ最近「ポディウムは取るが1着は取れない」と言った状況が続いている状態だったため、運も味方につけて見事に優勝を手にした時、大はしゃぎして喜んでいた。
その喜びのままさぁ兄がどんなことをインタビューで語るのかと待ち構えていた所へ、ラーレンの大音量。インタビューが中断される。再開されたはいいものの、もはや殆どの者が兄のことなど中途半端にしか注目していなかった。ベットは「折角の兄貴の勝者インタビューだったのに」と憤慨。後輩のロカがターゲットだったということもあり、事の発端であるラーレンに対し怒りを露わにし、彼の所属するメイレルーク陣営に猛抗議した。コルが「気にしてないからそう怒るな。1着はまた取り直せばいい」と宥めると矛はすぐに収まったが、暫くラーレンに対する当たりがキツくなったのは言うまでもない。
《余談》
ロボット心理工学の側面からの分析によると、メイレルーク側の出した事の顛末
――
すなわちラーレンの言い分は、その場凌ぎにそれらしいことを言ったのではなく、一応筋が通っているらしい。
何名かの研究者が出した見解によれば、ラーレンが緊張のあまり実況用マイクの回線に繋がってしまったのは、人間で例えるなら、緊張のあまり声が裏返ってしまったり呂律が回らなくなってしまったりするのと似たようなものだとのこと。後々にこの説は本人によって殆ど真実であったことが証明されるが、ラーレンはこの時、冗談などではなく本気で告白へ臨もうとしており、緊張にこの意気込みが加わってこのような事態を誘発した可能性があるのだとか。要するに空回りをしてしまったと考えられ、想いを伝えたい気持ちが先走った結果実況用マイクにアクセスし、緊張のあまりそれに気付けなかったという訳である(リリーナ博士も同様の説を出していたので恐らくそうなのだろう)。
この一件は「心を持ったロボットの行動性および精神構造の変化」の観点から非常に貴重な事例とされ、ラーレンへの批判的な流れがさほど長く続かず終息したのも研究者達の表明があったことによる所が大きかったりする。
なおこの件以降、実況用マイク回線は改修され、独立した回線を持つように変更された。また、無許可アクセスに対して罰則が設けられるようにもなった。
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