鳴上
2024-04-20 20:27:41
2579文字
Public ナツシン
 

吐露

シンくんが夏生のグローブに助けられてるんだって思いながらハルマさんと対峙する小話です。

days158の前に書いた話に少し手を加えたものなので、解釈違い等あるかと思いますが……
days157のネタバレが含まれているのでご注意ください。

 自分の長所はどこかと聞かれたら、迷わすエスパーがあるところだと答える。幼少の頃より手に入れたその力は、シンをシンたら占める根幹であり、いつも隣にあるものだ。
 では逆に短所はどこだと聞かれたら、その答えには枚挙に暇が無い。パワー不足に体力不足、技術力だって足りないし臨機応変さだって欲しい。自分には足りないところだらけで、いつも誰かに助けられて立っていると、坂本商店で働き始めてからより実感している。
 殺連関東支部での戦闘や、編入試験でも常に自分には何か一歩足りないものがあったように思う。それを補うかのようにシンの手元に現れたのは、とある武器製造科のエースが作った、ここ最近一番の問題作であった。
 一見少しごつめのグローブのようだが、それは脳のリミッターを外し平常時の人間にはありえないほどの膂力を引き出す。シンの短所を補うのに最適かのように思えたが、欠点が一つだけあった。発動までにある数秒のラグ。近接戦闘においては致命的な欠点で──だけどシンにとってはなんの欠陥にもならなかった。
 先の死刑囚との戦いで得た未来視は、シンをさらなるステージへと連れて行ってくれた。それまでの自分とは確実に違うが、だからと言って憧れに追い付けたかと言われればそうではない。その人はシンよりはるか先にいて、その背中は未だ見えそうにない。だからチャンスだと思った。まるで自分のためかのように作られた武器に、心が踊った。これで少しは役に立てる。たとえその反動で腕が使えなくなろうと、足手纏いにならなくて済むと思った。そう、思っていた。
 実際にはどうだ。スラーの仲間であるハルマと名乗る男対峙して、シンのそれは思い上がりであったことを知った。殺スポーツマンシップという、意味の分からないことを言っているにも関わらず、シンは防戦一方だ。真冬と戦い、秩序と戦い、それから爆発を喰らった。シンに蓄積されたダメージは、文字通りシンの負荷となっている。だけどそれだけではない力の差が、彼らにはあった。
 いつだって自分はあと一歩足りない。それは自覚しているから、どうにかしたくて足掻いている。
 ハルマが石像の頭をもぎ取り、ボーリングの構えでこちらへと向かってくる。スポーツを模した攻撃はガーターかと思いきや、ぐいと大きく曲がりシンへと直撃した。その反動で空中へと飛ばされたシンは、その肩を掴まれるとそのまま思い切り床へと叩きつけられた。
 地面が割れる衝撃に、頭の中が揺れる。身体が強い痛みを訴えかけくるのに、ダメ押しで窓の外へと投げ飛ばされた。
 もうあちこちがボロボロだった。きっと打ち所が悪ければとっくに死んでいるようなダメージだった。水飛沫が顔にかかる。薄く張られた池は、何かの展示だろうか。それともただ景観のために美術館に備え付けられたものなのだろうか。水の冷たさが、もう随分と鈍い身体に伝わってくる。
 シンの長所は、エスパーが使えるところだ。心を読んで動きを先取りし、人よりも一歩先へと進める力。ラボにいた頃に身につけたその力はずっとシンのそばにいて、離れたことなどなかった。
 言い訳にするつもりはない。エスパーが使えないから、上手く戦えないなんて甘えだ。それもひっくるめてシンの実力で、だからこそこんなにも歯痒い。どうしたってまだ辿り着けそうもないその先に、早く進みたくて焦って藻搔いて。
(ああ、くそっ。今の俺の力じゃ勝てねぇ)
 だけど現実はいつだって非情だ。ハルマに上から叩き落とされて、もう身体は満身創痍で満足に動かせやしない。
(でも)
 バチバチ、とどこかで音が聞こえた。遠いようで近いその音に、自然と心が奮い立つ。
(坂本さんが俺に任せるって言ったんだ!)
 きっとずっと、加護対象だったことには気がついていた。部下だったあの時から、こうして一緒に働いている今までずっと。坂本の中でシンは、背中を預けられる相手ではなかったのだろう。だけど今はどうだ。坂本はシンにこの場を任せて、先へと進んだ。それが坂本なりの答えなのだと思う。無口は時に顕著に行動へとその気持ちを表す。
 その信頼が嬉しかった。任せると言ってくれたことも、信じて背中を向けてくれたことも。応えたいと思ったのだ。
 どうにかして現状を打破できないか、必死に頭を回転させる。叩きつけられガラスを突き破った身体でできることなど、ほぼないのかもしれない。それでも。何でもいい。自分にできることは──
 ふらつく視線を巡らせ、そしてあるものが目に飛び込んできた。狭まっていた目の前が、音を立てて開けていく。丸っこくて小さいそれには、かつてJCCで見せてもらった、そしてタイでも美術館でも何度も助けられた。キンと冷えた空気が、シンのまわりを包み込んだ気がした。
 自分一人で立っているわけではない。たくさんの人に助けられて今があることを、シンはとっくの昔に知っている。
 シンの心の中にはいつも憧れの背中がある。
「おいまだ試合中だろコラ
 そして気がつけば隣に、見えないけれど確かにそいつがいるのだ。
 坂本みたいにその場の物をなんでも活かして戦えるわけじゃないし、平助みたいに突出した才能があるわけでもない。晶みたいに殺しのセンスがあるわけでもないし、南雲みたいに高みにいるわけでもない。そんな自分にできることは、たったひとつ。シンにはそれしかないから。
 自分の両手を覆うグローブの感触を肌で確かめる。初めて付けた時よりも馴染んだそれは、もうなくてはならない大切なもの。
 頭の中を、黒が過ぎる。近道なんかはないと、自分をまず三流だと認めることが必要なのだと教えてくれたそいつは、気がつけばいつもシンの背中を押してくれる。きっとお前はこんな使われ方、望んでないんだろうな。
 だけど悪い。もう少しだけ、力を貸してくれ。
 シンは痛む体を無理やり動かして立ち上がると、腰を低く落とした。
「来いよ、お前の土俵で負かしてやる」
 セバ、お前が残した土産、ありがたく使わせてもらうから。だからきっと、これで最後。