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2023-10-01 13:43:15
1563文字
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序章

エマー☆ちゃんの夢小説、序章 あんまエマー☆ちゃんでてこないです

 頭を締め付けられるような、鈍い頭痛で目を開けた。まるで変わりのない殺風景な部屋がぼやけて見える。頭も肩も腰もテレビも本棚もゴミ箱すら、自分が認識できる体の範囲はすべてどろりとした灰色がまとわりついて、もう一度目を瞑ってしまうことすらも億劫に感じた。
 静寂を切り裂くようにアラームが鳴る。どれだけ泥酔していてもこれをセットすることだけは忘れていなかったようだ。自分のクソみたいな生真面目さに感動すら覚えた瞬間、ぐるっと喉の奥が鳴った。
 あ、と思った時にはすでに手は動いていた。ベッド下のゴミ箱を手探りで引き寄せる。溢れたゴミを捨てて、なんとか隙間を作って顔を突っ込む。洗っていない総菜や弁当で作られた、饐えた臭い。それが恥だとかためらいとか、そんな感情をぺしゃんこにつぶして、あっけなく胃の中身をそこへ吐き出した。
 口の中が気持ち悪い。止まらない涎と、吐瀉物から立ち上る生ぬるい空気が顔を撫でた時、このゴミ箱をいますぐ部屋の中にぶちまけるか、窓の外に投げ捨てられたらな。そんな考えが浮かぶだけ浮かんで、ひきつった笑いがこぼれた。アラームはいつの間にか再開していて、私はそれが体の中に入るのを拒む選択ができない。いっそ泣きたいような気分だったけど、ぜんぶがあまりにも日常の延長戦だ。
「ねぇ、この音がでてるもの、なぁに?」
……目覚まし……アラーム」
「ところで、あなたはなにをしてるのかな?」
……吐いてんの、二日酔いで……みてわかんないの?」
「はく?はくってなぁに?それってエマー☆にもできるかな?ねぇ、もう一回やってみせて!」
返事をしようとした口のまま、はたと動きが止まる。
 私は、記憶の限り、この部屋には恋人どころか家族も、友達すらも招いたことはない。だというのになぜ、このどこかキンキンと響く声と、当たり前のように会話をしているのか。
 どっと冷や汗が背中を滑り落ちる。強盗、空き巣、もしくは変質者。そうじゃなかったら何だ?アラームは無意識に毎日かけているのに、家の鍵をかけているかどうかはいつも五分五分なのが恨めしい。
 スマホは手を伸ばさなければ届かない。下手に動くと相手の何かに触れてしまうかもしれない。そうなったら、私は生きてこの部屋から出られるか、もしかしたら死んだ方がマシな目に合うのかもしれない。咄嗟に武器になりそうなものは腕の中のゴミ箱だけだった。いや、この際自分の部屋中が吐瀉物でまみれようと、死ぬよりもマシだ。すがるようにそれを握りしめながら、眼球だけを持ち上げて部屋の中を見渡す。
 ……誰も、何もいなかった。ぐるりと左右に動かしても、確認できる範囲には、何も。
「ねぇねぇ、エマー☆にもできる?」
ちがう。
この声は明らかに、発せられている場所が、私の目線では、ない。
「ねぇってばー。無視されちゃうのは、エマー☆ちょっとかなしい、かも!」
のんきな声につられて、はじかれたように顔を上げる。
 そこには、なにかがいた。なにか、としか形容できない、生き物のような、『なにか』。
 床から一メートルほどの高さをふわふわと浮いている、絵の具で塗りつぶしたように真っ白なすらりとした足。こちらを覗き込んでくる顔も、血の気がまったく感じられないほど白い。吐息は感じるけれど、その顔には産毛どころか、毛穴が見当たらない。ぱっちりとした、いやむしろ穴とでも言いたくなるほど大きな瞳の中に瞳孔や虹彩といったものはなく、奇妙な模様が浮かんでいる。
 でたらめだ。生きているはずなのに、生々しさを感じない。まるで、そう、漫画のキャラクターのように、なにもかもが人工的で、記号めいていた。
 その『なにか』が、にっこりと笑う。
「おはよー、ございます!……だっけ?」
人間の言葉を、口にして。