鯖織
2024-04-18 19:34:01
3303文字
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過去でも今でも

2022/02/26
ぷちセカ第7話からの妄想
お付き合い中の司類がタイムマシンで過去に飛ぶ話

「これ、どうするんだ?」
「うーん、どうしようか」
 一週間前、「未来の自分たち」に回収されたタイムマシン。それが司と類の目の前に鎮座していた。
 ただ、本当に同一のものかと言ったら別である。
 というのも、今日「過去の自分たち」がやって来ていたからだ。過去を変えない為、二人は一芝居して一週間前と同じ展開を繰り広げた。そして予定調和で「過去の類が作ったタイムマシン」を回収したのだ。
「手元に戻ってくることは分かっていたけど、特に使い道もないしね」
「この機械、タイムパトロールが知ったらまずいんじゃないか」
「ドラえ◯んじゃあるまいし」
 「調整役がいるならそもそも……」と、類はよく分からない理論を展開して悩んでいたが、急に口撃のようなそれが止む。どうしたのかと司が横を確認すれば、そこには良いことを思いついた、というような怪しい笑みが浮かんでいた。
「そうだ、前は未来に行ったから、次は過去に行ってみようか!」
「過去……となると、いつだ?」
 過去に行くのが成功したとすると、司たちは「過去の自分たち」に会うことになるが、司は「未来の自分たち」に会ったことは一週間前の一度しかない。
 よって、司が「過去の司」に会おうとしても会えないことが既に決まっているのだ。
「何年か前の方が見た目も違うから分かりやすいかもね。さあ乗った乗った」
 しかし類はその疑問に気付くことなくグイグイと司の肩を押す。段々とタイムマシンの方へ追いやられていく司が別に今じゃなくとも……とモダモダしていると、タイミングよく屋上の扉の奥から二人を呼ぶ放送が流れ始めた。
「早くしないと先生が来てしまうよ?」
 このままでは過去に行く前にタイムマシンが押収されてしまう。
「大丈夫さ。過去に行ってもこっちの時間は進まない」
「だが」
 類は抵抗する司にトドメのような一言を放った。
「昔の僕を見たくないのかい?」
 その甘言に乗せられない司は並行世界にしかいない。つまり端的に言うとすれば、司はまんまとタイムマシンに乗せられてしまったのだ。


 ……ガタン、と二人の聞き覚えのない異音がする。


 しばらくして到着を知らせるかのように機械の扉が開き、同時に煙が足元から湧き上がった。
「む? ここは……?」
「過去には飛んだみたいだけど、どうやら別の建物に着陸したみたいだ」
 てっきり神高の屋上に着いたと思っていた司だが、よく見ると窓から覗く景色が違っている。キーボードを操作している類に尋ねると妙にあっさりと失敗を認めたので、司はなんとなく違和感を覚えた。
「座標データを修正しないといけないから、司くんは周囲を確認してくれ」
 司は類に言われるがままタイムマシンの外に出て辺りを見渡す。学校の屋上であることは間違いないのだが、やはり見慣れたそれではない。
 一体ここはどこなのか。類のことだから危険な場所ではないだろうが……と不安が多少込み上げて来たところで司は気づいた。

 屋上の奥の人影に。

(見られた⁉︎)
 類の解説や実体験から、時間移動には色々と細かい制約があることを察していた。しかしそれがなくともまずいと分かる状況。これがもしフィクションであれば目撃者を消して終了だろうが、まさかノンフィクション、自分が当事者になるとは予想だにしていなかった。
 動揺でバクバクと激しく鼓動する心臓を胸に司はそっと人影に近づいた。すると、陰で見えなかった姿がハッキリするにつれ、胸の高鳴りは別のものへの変化する。

「類?」
……誰でしょうか?」

 ――そこにいたのは、別の制服を着た類だった。

「初めまして、過去の僕。僕は高校生の君さ」
 司の背後にいつの間にか立っていた類が自己紹介をする。
「そしてオレは天翔ける――
「タイムリープ? それとも平行世界? ああ、僕を過去と呼んでいたか、なら」
「こっちの類も話を聞かんのか!」
 冴え渡るツッコミを入れつつも、司はようやく事態が飲み込めてきた。
「彼はペガサスくん。僕の恋人でね」
「へぇ。驚きだ」
 なんともいえない反応を返すこの類は「過去の類」であるようだ。
 適当に結えつけられた髪、本来より低い目線。司と出会う前の類。写真ですら確認できなかった、司の知らない類がそこにいた。
「類」
 司が呼ぶと後ろと前の両方から「なんだい?」と聞く声がする。たしかにどちらも類である。
「む……そうか。じゃあ、オレの類」
「ん?」
 背後の類を見上げるように司は上を向く。そして叫んだ。

「ショーをしよう!」

……僕は厳しいよ?」
 どこであっても観客がいるならば。それが二人の暗黙なのだ。それが過去であっても、昔の恋人であっても変わらない。
「厳しくて結構!」
 過去のお前を満足させられなくて誰がスターだというのか。きっと、いや絶対に満足させてみせよう。
 そう豪語する司を、期待に揺れる二対の瞳が貫いていた。


……

 単調な、しかし気持ちの篭った一人の拍手が屋上に響く。
「素晴らしいよ。流石は恋人、と言ったところかな?」
 そんな言葉をかけられた司の目には、過去の類の心ここにあらず、というような表情が映っていた。
 本当は不満があるのだろうか? しかし類がショーに対して嘘をつくはずもない。
「共にショーをしているからね。息はピッタリさ」
 司の代わりに類が答える。類と目を合わせた過去の類はハッとして、それから穏やかな表情を浮かべた。
……僕からもお礼を贈らせていただこうかな」
 有りあわせで悪いけど目を瞑ってくれるかい? そう頼まれて、司は素直に目を閉じる。何をされるのか。視界を奪われ、こめかみに手を添えられても、司はその瞬間まで気付けなかった。


 ――今よりずっとカサカサで、だけど温かい何かが瞼に触れる。


 類の唇だ。司はすぐに分かった。しかし正体に気づいてもすぐ動けるかは別の話である。
 もしかしたら一瞬にも満たない接触だったのかもしれないが、司には限りなく長く思えたのだ。 
「な、え、」
 呆然とする司に顔を引いた過去の類は微笑むばかり。その飄々とした態度にますます混乱する司に類は肩を寄せる。
「そろそろ誰か来るかもしれない」
「あ、ああ」
 手を引かれ、司は心の整理もそのままにタイムマシンに乗せられた。
 窓の外から過去の類が手を振るのが見えて、司も振り返す。段々と浮き始めるタイムマシンが屋上のフェンスを超えた頃、窓外の景色が一変した。


「またね、ペガサスくん」
 騒がしさは鳴りを潜め、屋上の影が一つに戻る。
……ふふ」
 タイムマシンがその場から消えて数秒、過去の類は何かを堪えるようにその場へ伏せた。



 ゴウンゴウン、と駆動音を響かせるタイムマシンが時の海を泳ぐ。絵の具を混ぜたようなマーブルの世界を一瞥してから、司は説明を求めるべく目の前の恋人を問い詰め――
「まさか目の前で浮気されるとは。酷いよ司くん……
 ――ようとして、先制を取られた。
「浮気⁉︎」
 心にもない冗談を吐き、よよよ……とわざとらしく嘆く類。司もその不真面目な態度に釣られてヒートアップしていく。
「そもそもお前から迫ってきたが⁉︎」
 それに類はこうなることを知っていた。他の誰でもなく、類本人が過去に同じことをしたはずなのだから。
「まあね。それでも、昔は昔、今は今」
 興奮している司の耳元で類がそっと囁く。
「今の僕が昔の僕に妬いてしまうのも仕方のないことだろう?」
「なっ……、何ー⁉︎」
 類の口から嫉妬の二文字が出てきたことに嬉しがればいいのか、嫉妬させてしまったことを悔いればいいのか。
 あわあわと震える司を横目に、類は操作パネルへ向かう。

 なぜ彼がキスをしたのか。それは類も当然知っている。知っているから、司のことを本気でずるいと思うのだ。
……過去も現在も関係なく、僕を虜にしてしまうんだから)
 ファーストキスを捧げたあの日を思い出し、類はそっと頬を赤く染めた。