スサ
2024-04-17 17:08:31
2670文字
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【鬼水】告白されて取り乱してしまう話※途中

原稿の一部になるかもしれないのですが、👹くんとしばらく距離置こうという場面(それを経て丸く収まる予定の話です)のはずが謎の攻めぢからに私が押されてこのままでは距離置かなくない?になったので置きにきました
過去に水が未遂(助かってる)けど襲われたことがある…という一文があります。ご注意ください。魔性を本人が持て余してるタイプの養父どのです。
ていうか…きたち強すぎない?!

 白い小さな花が雨のように降り注ぐ。ざあっと吹く風に冷たさはなく、霧雨のような雨にも既に冬の冷たさはない。しっとりと濡れていく髪は艶を帯び、そこに後から後から花が降ってくる。
 男の伏せた目は憂いを帯びた青鈍色、そこに睫毛が影を落とす。笑えば人懐こく甘やかな顔に違いない。だが、どれほど外にいたのだろうか、今は青ざめた肌をして、幽鬼のようだった。
 とはいえ、そのためにかえって凄絶ななまめかしさを漂わせており、一目見たら魂が吸い取られそうな妖しい美しさがあった。
 男は目的を持って歩いているというより、ただやみくもにあたりをさまよっているように見えた。
、」
 男の革靴の足が木の根に躓く。そのまま、彼は立ち止まり、近くに立っている木に寄りかかった。今にも泣き出しそうな顔をしている。
 実際、男は泣きたかった。

 彼の懊悩の原因は、小一時間前に遡る。大事な大事な養い子に、お慕いしていますと告げられたのだ。
 頭が真っ白になって固まってしまった男──水木に、十年育てた義理の息子、鬼太郎は少しだけ困ったように笑ったが、片方だけの目をそらしたりはしなかった。堂々としており、小なりとはいえもう立派な男なのだとそのしゃっきり伸ばした背中から伝わってくる。動揺する水木と違い、鬼太郎は微塵も迷っていないようだった。
「どうして、俺に
 血は繋がらないとはいえ育ての親だし、美女というのでもないし、と一般的な理由を告げてもあまり意味がないように感じた。鬼太郎があまりに落ち着き払っていたからだ。そんな言い訳は通用しないだろう、と。
 鬼太郎は一途な眼差しのまま首をかしげる。
 水木にはひとつ懸念があった。懸念というのが適当かはわからないが、昔から水木には一つの悪癖のようなものがあり、それが働いてしまったのではないかと。
 水木は苦しげな表情で目を伏せた。事ここに至り、鬼太郎も怪訝そうになる。
俺が悪いのか?」
「は?」
 絞り出す、といった風情の水木の言葉に鬼太郎はぽかんとした。誰がいつ水木を責めたというのか、鬼太郎には見当がつかなかった。そんな話はしていない、と。
「水木さん?」
 怖がらせないよう─と、子どもの外見の鬼太郎が思うのはおかしいかもしれないが─鬼太郎は水木にそっと触れた。ビクッ、と水木は体を跳ねさせ、それからひどく悲しげな、どうかすると怯えたような眼差しを鬼太郎に向けた。鬼太郎は、それまでの落ち着きが盛大に崩れ落ちていくのを感じた。水木にそんな目を向けられるなんて考えたことがなかった。足の底、地面が抜けたような愕然とした気持ちになる。
「俺が、おまえを、なにか、おかしく、俺が、さそ、」
 水木の顔は今や真っ青で、鬼太郎はあ然としながらも咄嗟に養父の体を抱きしめていた。水木は一瞬体を固くしたが、振りほどこうとはしなかった。ただし抱きしめ返してもくれなかったが。これまでなら鬼太郎が抱きつけばすぐに抱きしめ返してくれたのに。
 しかしそれは今、一度手放してしまった関係性に依るものだ。またそうなることがあるとして─そうなる予定だが─その時は別の感情と関係性が二人の間にあるだろう。
 もう、庇護される幼子として愛されるのでなく、ひとりの男として見てほしいと気持ちを定めてしまったのだから。
…………
 水木は泣いてはいなかったが、ひどい顔色だった。何が彼をそこまで追い詰めたのかわからなくて、鬼太郎は途方に暮れる。それはもちろん、俺も好いているぞ!といきなり同じ気持ちを返してくれると思っていたわけでもないのだけれど
 水木自身にはいつも自覚はないし、意図して振る舞ったこともないのだが、定期的に水木の周りの人間、特に男がおかしくなる。おかしくなった男達は、たいていの場合水木が悪い、水木が誘ったのだと責めて、時には襲われそうになることもあった。それらは皆未遂に終わったが、襲われたこと事態はなくなりも変わりもしない。
 同輩、仲間、友人。そういったものだったはずの人々が変質していくだけでも辛いのに、こぞってお前のせいだと責められてはたまらない。彼らは水木を魔性とさえいうが、己で制御できないようなもの、水木本人にとっても災難でしかない。
 今それを口にすることは気持ちの問題でできなかったが、水木が自分を責めるには十分なもので。
………
「ごめんなさい」
………、鬼太郎?」
 水木はぼんやりした表情で顔を上げた。鬼太郎は困ったような、けれど、水木を芯から慕っているのだという顔をしていた。
 どくん、と一際大きく鼓動が跳ねる。自分がどんな顔をしているか水木はわからなかったけれど、鬼太郎は穏やかな、何なら、聞き分けのない子どもを見るような目をしていた。
「あなたを驚かせた」
………
 取り繕って上手い返事をすることもできず、水木はじっと義息を見つめた。それしかできなかった。
「そんな顔させたかったわけじゃないんです」
………、俺、どんな顔してる」
 水木はかすかに眉をひそめて、囁くような声で聞く。鬼太郎はやはり困ったように苦笑した。
「泣きそうな顔」
………泣かない」
 鬼太郎は答えなかった。答えるかわりなのか、そうっと慎重に水木の手を捕まえた。小さな手だった。けれど、当たり前だが、もうとっくに赤ん坊ではない。
 そう思った瞬間、水木の頬をすぅ、と静かに一雫の涙がこぼれ落ちた。鬼太郎は目を丸くする。水木は涙を拭うこともせず、じっと鬼太郎を見た。まるで初めて見る人を見るような目をしていた。
 もしかしたら涙があふれたことにも気づいていないかもしれない。
早く喋るようになったらいいな、と思ってた」
…………
「いろんなこと、してやりたくて。可愛くて。大切で」
 鬼太郎はちょっとばつが悪そうな様子で、それでも静かに手を伸べ、水木の頬の涙を拭った。するとそれが呼び水になったように、後から後から、涙がまぶたに盛り上がり溢れていく。
 それは、鬼太郎を美しい絵画を見ているような心持ちにさせた。
こんなこと言われるなんて、思ってもいなくて」
……ごめんなさい」
 水木は首を振った。こちらの胸がしめつけられるような、苦しそうな顔をしていた。
俺が悪いんだ」
? あなたが何を言ってるかわからないんですが」
 水木は黙って首を振った。養父はものすごく頑固で、梃子でも動かない時がある。どうやら今もそうであるようだった。