hai__ro
2024-04-17 00:32:55
814文字
Public ミハギャラ
 

融解

小説と呼ぶには筋書きが薄すぎるもの。なにもかもが憶測で、ver2.2の訪れと共に虚構歴史学者の活動に寄与することが確定している文章。
含まれるもの:ミハギャラ

 古い鏡が映す像のような記憶。老いさらばえたミハイルのくぐもった呼吸音。皺だらけの乾いた手のひらが、緩慢に俺の背中を撫でる感触。
 それを思い出させているのが俺の旧懐なのか、今の俺を構成する52の要素のうちどれかなのか、虚構の上に浮かび上がるギャラガーの輪郭なのかは不明瞭だ。答えのない問題、無意味な思考だ。すべてはもう融解し、混ざり合い、今の俺の形に冷え切ってしまったのだから。さながらチョコレートのように。

 ミハイルの亡霊が裏切り者の俺を呪い殺しにくることを、ときどき考える。たとえ霊魂でも彼に会えるならそう悪くはないかもな、とすこし思う。
 昔はこんなことを考えなかった気がする、気がするがその感覚が誰のものかはわからない。神秘の運命の行人と52人のつぎはぎと最も真実に近い嘘、ぜんぶ違うもののはずなのに脳髄がひとつしかないせいだな。

 右腕の傷跡から滲み出る炎を特製のモクテルで誤魔化す。かつては怪我をして戻るたび、ミハイルは無鉄砲に飛び出すものじゃないと俺を叱った。彼はいつまでも俺のことを子供扱いしていた。そうじゃなきゃ聞き分けの悪い犬だと思っていた。
 今じゃもう俺が無茶をしたって何かを言う奴はいないから、気楽な反面寂しいものだ。ミハイルの心配と呆れが混ざった表情も、父親のように言い聞かせる口調だって、もうどこにもないし。

 感情が記憶につける注釈はいちばん信用ならないもので、回顧は過去に対する破壊行為だ。今の感性によって、過去の記憶はたやすく変質する。日常における最も小さな『神秘』のひとつだ。
 俺はほんとうのミハイルをまだ覚えているだろうか?彼のことを思い出すたび考える。考えても詮無いことだから、道端で買ったスラーダで流し込んで忘れる。
 密輸したスラーダの甘い味、結露で濡れた瓶のつめたさ、希望に燃えていたころのもう不確かな俺たちに乾杯。添加物にまみれたこの味だけが、あの頃と同じだ。