Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
溶けかけ。
2024-04-16 22:27:04
1834文字
Public
ほぼ日刊
Clear cache
嘘つきのアリア
観用少女パロ。
「ヌヴィレット様!こちらです!」
部下のメリュジーヌの声の方に向かう。豪華な屋敷の廊下には捕縛された者たちが並べられているのを横目にヌヴィレットは進む。メリュジーヌが指し示した扉を水元素で吹き飛ばした。
「ここに何が
……
」
部屋に入ったヌヴィレットの言葉が不自然に途切れた。
「ヌヴィレット様、これは
……
」
隣でクロリンデが息を呑んだのが分かった。彼らの視線の先には、青い衣服を身に纏った観用少女と呼ばれる生きた人形が眠っていた。それは事前情報と相違ない。しかし、その姿は
――
。
「フリーナ殿
……
?」
数年前に行方不明になった元水神、フリーナに酷似していたのだった
――
。
あれよ、あれよと半年が経った。あの騒動で捕まえたならず者たちの中でも下っ端の者たちの処分は既に終わっている。残りは幹部だが、証拠品の最後の一つが揃わないと言うことで裁判を後回しにしていた。その最後の一つを受け取りにヌヴィレットはこの店を訪れていた。
「店主はいるか?」
ヌヴィレットが店内に足を踏み入れると胡散臭い男が一人出てきた。
「はい
……
これはこれは、ヌヴィレット様。半年ぶりですね。」
「ああ。
――
例の人形はどうなった?」
「ああ、彼女ですね。少々お待ち下さい。」
店主は店の奥に行くとフリーナ似の幼い人形を抱き抱えて戻って来た。
「貴方がたの調査通りでしたよ。彼女は『天国の涙』を作り出せるほどの品質の観用少女でしてね。そのために誘拐されたのでしょう。まあ、作られ方すら知らない凡愚だったのでしょうね。貴方がこちらに運び込まなければ、枯れてしまっていたことでしょう
……
いや、あれは枯れまいと抗っていたのかもしれないですね」
「?」
首を傾げるヌヴィレットに店主は含みを持った笑みを返すだけだった。
「証拠品として一度そちらにお預けした後はこちらにお返し頂けるのでしたね」
「ああ、本来は気が進まないが大切な証拠品なのでな」
店主がヌヴィレットに人形を手渡す。彼の手が人形に触れた時、人形が瞼をゆっくりと持ち上げた。
「おや、これは珍しいこともあるものだ
……
お客様は選ばれてしまったようですね」
まだ眠りから覚めたばかりの人形はしぱしぱと目を瞬かせた。浅瀬と深海の色をした色違いの双眸がヌヴィレットを捉える。
――
その目はいなくなった彼女を思い起こさせた。フリーナ、と彼の口は無音で良く似た人間の名を形作る。
「どういたします?もう一度眠らせることもできますが」
店主の声で我に返った。幼い人形と見つめ合う。
――
眠らせる?誰を?彼女を?
……
冗談じゃない。
「その必要はない。
……
こちらまで彼女に入用な物を送って欲しい。幾らかかっても構わない」
ヌヴィレットは観用少女を抱き上げてメモを渡すと店を出る。小さな人形は目的地につく頃にはすっかり眠りについていた。
「今日はここにいたのか、フリーナ殿」
パレ・メルモニアの一角、ヌヴィレットに与えられた部屋に少女はいた。この部屋は水神であった頃のフリーナが、『仕事人間のキミでも仮眠室くらいあった方がいいだろう?』とヌヴィレットに下賜した部屋である。必要な物しか置かれていない室内ではあるが、置かれている物の品質は一級品と言っていい。何せ、彼女がオーダーした部屋だ。最高審判官の身分に相応しいランクの物しか置かれていない。
「ミルクを持ってきた
……
飲めるだろうか?」
柔らかな部屋着を纏った人形はコクリと頷いて窓際から離れるとミルクを受け取って無表情に嚥下する。彼女は枯れる寸前だったせいか一日中ぼんやりと外を見ているか、眠っている事が多い。動くことも、笑うこともない。
――
彼女はじっとしていられない性分だったな、と姿形は似ていても浮かべる表情や動きから全くの別人なのだと安堵する。彼女の名前をフリーナにしたのは本人たっての希望であった。まさか、文字が読めるとは思わず、フリーナに関する書類を出しっぱなしにしていたら、彼女がその名を指し示し、人形の名前はフリーナに決まってしまったのだ。ミルクを飲む人形の頭を撫でながら、彼女
――
居なくなってしまったフリーナに想いを馳せる。会えなくてもいい。ただ、無事であれば
……
ヌヴィレットは徐々にやって来る眠気に抗えずに意識を手放した。意識を手放す寸前、懐かしい彼女の声が聞こえた気がした。
ごめんね、ヌヴィレット。
広告非表示プランのご案内