koto
5514文字
Public れめしし😈🦁
 

Missing

カラス銀行爆散後のれめしし😈🦁
身体の関係はあるけど付き合ってはいなかった二人。
「連絡先が分からなくても🦁君ならすぐに見つかるでしょー」と油断してたら会えなくなっちゃた😈君視点の話。

※はぎょさんのポストに狂って書いた話です

 気付いた時には手遅れで、愕然とした表情を浮かべる。チェックメイトを受け入れられずに足掻いてみせる。そんな顔を幾度となく賭場で見てきた。逃げ場なんて一切ないゲームオーバー。対戦相手はなかなか魅せてくれる奴もいれば、そうでもない奴もいて。見る価値があるなと思った奴でも、一週間もすれば記憶から消えていくのがほとんどだった。日々、見逃せないものや観測しなくてはいけないものは更新されていく。見落として悔やむようなことは御免だから目を配る。オレの知らないところで見るべき何かを取りこぼさないように。
 
 そのはずだったのに。
 
 一週間どころか数年を経た今でも、探している姿がある。無くしてしまったそれはいつでも手の届く範囲にあって、その気になれば難なく手を伸ばせると思っていた。オレの腕は長いから。その気になればたいていのものには手が届く。
 
 
 明け方に見た夢は、目が覚める直前までハッキリとその空気感までもを思い出せるくらいに酷く鮮明な夢だった、気がする。でも、起きて頭が覚醒した瞬間から、それは一気にぼやけていってしまう。リアルな夢を見た、という事実だけが頭に残って、肝心の映像はもうモヤがかかって浮かびやしない。こういう夢を見た、という認識だけが頭の中に居残っていた。
 
 久しぶりに夢に出てきた敬一君は、ベッドの上、こちらに背を向けて寝息を立てていた。呼吸に合わせて上下する身体は汗が引いたからか少し寒そうに肩が竦められていて。肩口までブランケットを上げてやりながら、少しの出来心で頭のてっぺんにキスをした。唇に触れる髪の毛一本一本の感触まで分かりそうで。腕の中に囲ったその存在が、今、他の誰でもなく自分の腕の中に在ることに心が浮き立った。このまま眠っていて欲しいような、起きた時にどんな反応をするのかみたいような。
 だから夢から覚めた後も、当たり前のように敬一君を探してベッドのシーツをまさぐってしまった。それだけオレの記憶が生み出した敬一君は〝本物〟だったんだよ。寝起きのよく働かない頭で、そこに居ると錯覚するくらいに。撫でたシーツの冷たさに小さく絶望する朝が来るなんて数年前は思ってもみなかった。
 それは無くすはずないと思っていたのもあるけど、それ以上に、こんなにかけがえのない存在になるなんて思っていなかったという意味で。
 
 気付いた時には失っていました? 無くしてから初めて大切さに気付きました?
 そんなチープなドラマでもあるまいし。そう笑い飛ばしたかったけど、それならこの喪失感はなんだっていうのか。
 
 分かることは、今、敬一君にめちゃくちゃ会いたくて堪らないってことだ。
 
 
 §
 
 
 あの銀行が無くなってからなんだかんだもう三年近くが過ぎた。無くなったっていうのは正確じゃないか。
 いわゆる終わりの始まりってやつは、銀行が所有していた「保養所」で起きたガス爆発の事故だった。なんでも温泉汲み上げのポンプ小屋に可燃性の天然ガスがたまたま滞留してしまったところに、近所の若者がたまたましていた花火が飛び込み引火して、更には小屋近くに杜撰に保管されていた液体燃料に燃え移り、建物は一昼夜燃えたとか何とかってのがニュースになっていた。偶然がこんなにも重なり合ったのなら、それはもう偶然とは言えないだろうにな。
 多分、いろんな大事なものが燃えちゃったんだろう。それこそ、ありとあらゆるいろんなものが。
 そんで、それをきっかけに銀行の不信を煽る噂が待ってましたとばかりに迅速に広まって、最終的にはガッタガタの経営となり他行と合併。合併後の銀行の名前には元の名前の名残もない。キレイさっぱり消えちゃったわけだ。誰かが描いた荒唐無稽なシナリオみたいに。あまりの荒唐無稽さは、逆に陰謀論なんて出る余地を残さなかった。よく考えたものだ。
 
 まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。銀行がどうこうなったってのは、オレにとって観測場所がひとつ減ったっていう以上の意味はもたない。
 それでも、とばっちりを受けないためにも身辺の大掃除を済ませて、念入りに身ぎれいにしていた。他のみんなも大なり小なり後ろ暗いものはあるので、そっちの片付けに忙しくしていたんだろう。いろんな面で仲良くしていた敬一君もご多聞に漏れず。忙しかったから、連絡を取るのは後回しにしていた。敬一君もバタバタしていたのか特に連絡も無くて。そのうちに、掃除の一環で使っていた連絡先も手放した。これはオレが先だったのか敬一君が先だったのかは分からない。
 
 ようやく落ち着いて、それじゃあ探してみよっかなと敬一君の居所を探し始めて。……探し始めたんだけど、敬一君はびっくりするくらいに、それはそれはキレイに後片付けをしていたみたいだった。なんとか元雑用係は見つけたものの、そのどちらにも今後の所在は明かさないままで居なくなってしまったらしい。賭け事を除けば犯罪者でもなんでもないのに、念の入れようはさすが敬一君といったところなのか。臆病さがこういうところで真価を発揮する。嫌になるくらい強力に。
 次に向かった先は礼二君のところだった。礼二君は研修という名目で関西にある病院に移っていた。さすがに直接アポ取りをするのもよくないかという配慮の下、診療科の待合付近で待ち伏せしてたんだけど、オレを見た瞬間の礼二君の嫌そ~な顔は忘れられない。別に礼二君の生活をぶち壊しに来たわけじゃないのに。結局、礼二君も敬一君どころかあの賭場の関係者全員の居所も連絡先も知らないらしく、無駄足に終わってしまった。
 そうして、いよいよ気付いた。これ、もしかして、敬一君に一生会えない可能性もあるんじゃないか? って。
 
 
 §
 
 
 ここ数年、街中でふと振り返る瞬間が増えた気がする。少なくとも自覚できるくらいには。いったん視界に入れた人の姿は、頭の中では冷静に精査できてるはずなのに。ただ、照らし合わせてる自分の記憶が、どれだけ正しいのかはもう確かめようがなくて。万が一の観測ミスを疑って振り返ってしまう。その先には、もちろん敬一君はいない。
 だからオレは自分の観測の正しさを確信する。祈るような小さな期待に、それこそ数えるのも嫌になるくらい裏切られながら。
 
 信号待ち。交差点の向こう側。もうすぐ変わる赤信号に堰き止められてる人の群れも、もう息をするように隈なく目を配った。数秒後に信号が青に変わり、また擦れ違った奴に敬一君のカケラを無理やり見出して振り向いてしまう自分を思い浮かべウンザリとする。あとどのくらいこれを繰り返せばいいんだろう。
 
 パッと信号が変わり、よーいドンの合図が鳴らされたみたいに一斉に人のかたまりが動き始める。ザクザクと人の隙間を掻き分けることはあまりしない。人波に紛れることなんてまず無いし、たいていは周りの奴らが避けていく。敬一君もガタイが良い方だけど二人で歩いている時、「オマエの隣だと歩きやすいな」って笑ってた。ガタイの良い男と上背のある男が二人並んでたら、そりゃさぞかし歩きやすく感じるだろう。まず人に流されることがない。
 そうだよ。オレの隣は歩きやすいって思ったんだろ?
 最初は警戒心の塊でしかなかったくせに、敬一君は徐々にセンサーが麻痺してったのか、オレの隣で無防備に無邪気に笑うことも増えた。それなのに。
 
 あー、もうバッカじゃねーの?
 
 全部、全部だ。この状況、全部が気に食わない。何年も見つからない敬一君も、見失ったオレも全部。
 
 
 
 交差点では右折車がチカチカとウィンカーを上げて人の波が切れるのを気長に待っている。まあ、この人混みじゃ当分曲がるのはは無理だろうな。この辺ではよく見かけるメーカーの黒の外車。通り過ぎがてらチラリとエンブレムを捉え、進行方向へ視線を戻す。
 その一瞬だった。視界の端でチラリと捉えたものに咄嗟に立ち止まって振り向く。後ろを歩いていた奴が驚いたように小さく声を上げて、すぐ横を歩いていた女のバッグがぶつかったけど、そんなのはどうでもいい。オマエらの存在なんてどうでもいいんだよ。
 
 何回目か分からない失望を感じるより早く、オレはその車のボンネットに思いっきり両手を叩きつけた。突然の奇行に周囲から声が上がり、面倒事に関わるのを避けるため人の流れが遠ざかる。交差点の歩行者信号が変わるのを待ちわびるように眺めていた運転手が何事かとこちらに顔を戻して、オレの姿を見とめると、その表情が驚きに満ちていく。
 向こうがオレの姿を見たのを確認して、すぐに助手席側に回るとドアノブをガチャガチャと引っ張る。どう見ても犯罪の気配しかしないのか、周りの連中が通報すべきか迷い始めてるみたいだった。
 中で慌ててドアの鍵を開けるのが分かって、今度こそ手応えを感じながらドアノブを引っ張る。助手席に滑り込んで大きく開いたドアを勢いよく引いて閉める。信号が変わり人の波が途切れたらしく、隣の運転手はそのまま横断歩道を横切って車を進めた。
 
「おっまえ、相変わらずだな!?」
 鼓膜に響く声に、ああ、そうだ、こんな声だったと記憶の中の情報をアップデートする。
 運転中だから前を見なくてはいけないものの、こちらが気になるのかチラチラと視線を寄越してくる。前方不注意はよくないな。
 運転する姿を改めてマジマジと眺める。そこにはたしかに敬一君が存在していた。車は変わったけど車内は今までの敬一君の趣味から逸れたところはない。敬一君自体に余計な装飾品もついてない。
「ちょっ!? おい! 危ねぇーよ! 何やってんだ、急によ!!」
「危ないのは敬一君だろ? ちゃんと前見てなくちゃ」
 あとは……とその首元に顔を埋めて匂いを嗅いだら上がった苦情がさっきのだ。少なくとも今は他の奴の匂いは感じ取れない。嗅ぎなれた懐かしい敬一君の匂いだけがする。数年ぶりに嗅いだ匂いが色褪せてた日々の記憶を一気に呼び覚ます。
 敬一君だ。本当に、ちゃんと今、間違いなく隣にいる。
「っっ!! 叶! ほんと何してぇんだよ!?」
 さっき以上に困惑した敬一君の声が車内に響く。うるさいよ。ただでさえ車の振動でやりにくいのに。
 高級車といえども、走行中の多少の揺れは防ぎきれない。片腕を運転席の後部に回して身体を安定させ、首筋に密着させた唇と肌に隙間をなくして吸い上げる。考えてみたら今までこんなふうに独占欲丸出しみたいな痕を残すなんてしたことなかったなと思い出しながら、丹念に時間をかけて鬱血痕を残す。暫くして、もう十分かなと唇を離すと、くっきりと痕が残っていて、それをチロリと舐めてから顔を離した。
 敬一君はもう何を言っても無駄だと悟ったのか、口を噤んだままフロントガラスの向こう側をムスッと睨みつけてる。
 
 
 どこに向かうのかなと思ってたら、車は手近な商業ビルの駐車場へと入っていく。多分、ここに用事があるわけじゃなくて、一旦落ち着いて話せる場所を探したんだろう。二回ほどスロープを上がった先の空いているスペースに車がゆっくりと停車される。車のバック音が鳴り止んで、完全に動きが停まりエンジンが切られる。
「っとに、おめぇは……
 シートベルトを外して身体ごとこちらを向いた敬一君は、記憶の中と寸分違わず、とはいかなくて。そこにはやっぱり、微かにだけど数年の空白を感じてしまう。
「街のど真ん中であんなことする奴あるかよ」
 そう言った直後に、まあ、でもコイツだもんなと思い直してるのがありありと伝わってきた。
 そうだよ。周りなんて関係ないし、正直、そんな余裕もなかった。助手席のドアをガンガン蹴らなかっただけでも良識があるだろ?
「ま、なんにせよ久々だな。まさかあんなとこで会うと思わねぇからビックリしたわ」
 目の前の敬一君は何年も会えてなかったというのに、せいぜい数ヶ月ぶりくらいの感じで接してくる。
 ねぇ、本気? オレよりも敬一君のほうがよっぽど感覚ぶっこわれてない?
 
 悔しくて、さっきつけたばかりのキスマークを指先で撫でる。くすぐったかったのか少しだけ敬一くんの身体が跳ねた。このまま前みたいに首筋から耳の裏に指を這わせ少し顔を傾けたら、敬一くんは唇を寄せてくれるのかな。
 でも、違うんだよ。会いたかったけど、前と全く同じ、元通りになりたいわけじゃない。
 
「なあ、敬一君」
「なんだよ」
 次にオレが何をするのか皆目検討がつかないせいか、少しだけ警戒しているらしい。持ってる感覚全てをオレに集中させて出方を伺ってる。
 うん、悪くないね。久しぶりに浴びる敬一君の視線が堪らなくて、ついニヤけそうになっちゃう。
「敬一君には、めっっっちゃくちゃ文句あるんだけどさ。とりあえず……
 何を言われるかと構える敬一くんに、ずいっと身を乗り出しその眼を覗き込む。
 
「もう、オレ絶対に敬一君を手放す気ないから。だから諦めてオレの恋人になろうよ」
「こぇ、はぁっ?」
 冗談かどうかなんてことくらい、分かんねぇとは言わせないぞ?
 
 展開についていけない敬一君を待つ間、空いている方の手で敬一君の手を握りしめる。
 手のひらから伝わる体温と絡めた指の感触が、失わずに済んだことをジワジワと実感させた。
 
 
 ほっとして少しだけ、ほんの少しだけど、オレが今泣きそうになったことを、敬一くんはきっと一生知らずに生きてくんだろう。



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マシュマロ
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