倉木
2024-04-15 21:17:16
2107文字
Public 他🐢
 

ラフレオ短いの

2k7
ひとりワンドロ2夜目


自らの呼吸音すら耳障りなくらいの心地よい静寂は、突如響いた怒鳴り声と何かがぶつかり合う音で破られてしまった。
ひとしきり騒いだそれは一際響いた怒号を最後に一度落ち着きを見せる。
しかし荒く踏み鳴らす足音が復活し、ドナテロはソファ上で座り直した。
背もたれに乗せた右腕にもたれながら、姿を見せた足音の主に手を振る。

「おかえり、そんなうるさくしてるとマイキー起きちゃうよ」

虚をつかれ一瞬固まったラファエロは、やがて深く深く溜息を吐いた。

「なんでこんなとこ居んだよ……

気まずそうに目線を逸らすところはまだ幼さが残り昔から変わらない。
でも最近じゃあまりそういった態度をされることも少なくなっていて、それだけ彼も自分も余裕がなかったのだ。

「何もしない時間も大事だって学んだからね、ちょっと休憩」

諸々元通りになって、ようやく肩の荷が下りたということなのだろう。
両の手を振り何もないことを示すと、ラファエロは着ていたジャケットを適当に放る。
乱暴にソファを乗り越えどっかりと座ると、反動で自分の身体も一瞬浮いた。
最近派手に壊されたせいで強度を上げて直したソファはしっかりと機能したようだ。

「夜のお勉強会は終わり?」

そんな軽い冗談は気に障ったらしく眼光鋭く睨まれる。
座り込んだものの、目線を泳がすラファエロは未だに言葉を探しているようだ。
ドナテロの存在を無視せずわざわざ来たってことは、何かしら聞いて欲しいことがあるんだってこの上なくわかりやすいのに、
たっぷりの時間をかけて唸り声と共にラファエロは重たい口を開く。

……ほんっと言うこと聞かねぇ……悲鳴が聞こえたって勝手にどっか行くわ、そのまま迷子になって帰ってこねぇわ、通信機忘れて連絡もつかねぇ」

「わーすっごいレオだねぇ」

聞いてるだけで情景が思い浮かぶようだ。
最近の街の様子が知りたいと言い出したのはレオナルドの方なので、今回ばかりはラファエロは悪くないように思う(もっとも彼の物言い次第だけど)。
2年の月日を過ごしたのはレオナルドだけではないのに、どうもレオナルドの中で自分達はまだあの頃のままだとでも言うような態度で接してこようとする節がある。
その歳月の間で自分の感情を自覚し、その上で手をこまねいている相手がいることなんて発想すらないはずだ。
今夜の偵察だってわざわざ自らラファエロが名乗り出た真意すら気付いていないだろう。
ミケランジェロすら笑いを堪えるのに必死なくらい、明らかに挙動不審な態度だったのに。
同調を得られたお陰で、ラファエロは先ほどより饒舌になった。

「ようやく見つけたらひとりでどっか行くなって説教垂れやがって、なんであんな偉そうなんだよアイツは」

文句や愚痴を垂れ流しながらも怒りとはまた違う感情で頬を赤くする様を眺めながら、ドナテロは少し後悔していた。
話しを聞くなら何か用意をしていればよかった。
とりあえず手元に見えるものを手繰り寄せると指先にくるくる回す。
薄い布は一部擦り切れていて、どこかに引っ掻けたらすぐにでも千切れてしまいそうだ。
瑞々しい林檎よりは熟れた柘榴に近い、そんな赤。
思っていたよりも指に絡まっていたそれは急激に引っ張られ、解ける前に勢いで身体が傾ぐ。
その隙を逃さず腕を掴まれれば、それはもう子どもだったら泣いてしまいそうな凶悪な顔した弟がいた。

「なぁ、聞く気あるか?」

未だ巻き付く紐をくいくい引っ張ると額にくっきりと青筋が浮かび上がる。

「えー?惚気とか愚痴ってちゃんと聞かれた方がいやじゃない?」

「それにしたって限度があるだろうがよ!」

そんなに大きな音を出さなくたって聞こえているのに、両腕を掴まれているせいで聴覚を守る術もない。
身を縮こませて逃げようとするがそんな折、物音がしてふたりして動きを止めた。
視線を向ければそこに佇む相手に、目の前の顔の血の気が引いたのが目に見えてわかる。

「なんだ、ドニーも起きてたのか」

「あ、ウンレオもお帰り」

「あまり夜更しするなよ、明日も朝から鍛錬するからな。ラファエロも」

「お、おぅ

それだけ言ってすっと姿を消してしまった。
以前より気配の消し方がずっとうまくなったレオナルドはいつも音もなく消えてしまう、そのせいで追い縋る隙もない。

……なあ、あれ嫉妬してたと思うか?」

「概ねラフと同じ感想かなぁ」

ハァ、と幸せが丸ごと逃げていきそうな特大の溜息をはいて肩を落とす姿に、多少同情はする。

「ま、時間はたっぷりあるんだから頑張って」

……協力するじゃねぇのかよ」

「ごめんね、両手塞がってるから」

笑顔で返すと気付いたらしいラファエロがようやく解放してくれた。
痕の残らない手首は強い力であったのにきちんと加減してくれていたのだろう。
その優しさの欠片でも想い人に伝われば多少は報われることもあるだろうに、ままならないもの。
必死な彼には悪いがもう少し戻ってきた日常を享受していたいので、だからといって何かするってこともないけどね。