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いを
2024-04-15 18:35:55
1957文字
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ブツメツフツマ
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蛇と無花果
全市。
NO.02
持統天皇(626-671)
・メロディ先生【tamao2mat】
お借りしています。
月岡全市の本家は
花筏
はないかだ
といった。花筏の家も、また祓魔師の家系であった。いつから続いているのかは知らない。興味はない。全市は花筏の家に興味はないし、花筏の家も全市に興味はないようだった。たがいに興味を持たないことで、月岡家と花筏家は成り立っていた。けれどそれもいつまでも続くことはなかった。本家の収入と分家の収入の確たるちがいに、月岡家は不満をもっていた。祓魔師としての力は、実際月岡家のほうが強いということをほとんどの家族は知っていた。だが、全市には興味はなかった。そう育てたのは家族だ。なににも
――
もちろん金にも
――
興味を持たず、感情を不自然ではないくらいに表に出さず、極自然的に生きることを強要していた。
全市に「食べたいもの」「食べたくないもの」「ほしいもの」「ほしくないもの」は存在しない。
それこそが花筏家と月岡家が全市に贈ったすべてのものだった。
人間をかたちづくるに必要な「恐怖」も、もちろん全市にはなかった。
――
が、それはふたつの家にとってまずいことだった。
人間を
思うとおりに動かす
・・・・・・・・・
ことに「恐怖」という感情だけは必要だからだ。
恐怖をもって人間を操ることを、花筏家も月岡家も知っていた。熟知していた。
だからこそ月岡全市は「なり損ない」なのだった。あらゆる意味での、なり損ないであったのだ。
家の傀儡にさえなれなかった男の話だ。
「どうしてお前は味噌ラーメンが好きなんだ?」
と、旋律が訊ねてきた。
「
……
どうして、か」
唐突に聞かれたので、一度全市は手前にある器を見下ろした。
もやしとネギ、コーンとキャベツがこんもりと盛られている器を見ても答えは見つからなかった。
見つかりはしなかったが、記憶の中に埋め込まれた過去の自分を遠い場所で眺める。むかし旋律と、はじめてラーメン屋に行ったときのこと。選択肢がたくさんある中で、なぜ自分は味噌ラーメンを選んだのだったか。
べつになんでもよかった。
その中でなぜ味噌ラーメンを選んだのかが重要なのだと思う。
「そんなに考えることか?」
旋律は辛抱強く待ちながら、そう笑った。
「適当な嘘はつきたくない」
「全市は変なところで真面目だな」
ずず、と隣でとんこつ醤油ラーメンを啜る音が聞こえる。冷めるぞ、という声が届いてようやく手に持ったままだった割り箸を割った。
「美味いから、とかでいいんだよそういうのは」
コップに浮かぶ氷を眺めながら、男はそう言った。
「
……
美味いから、か
……
」
「なんだ、美味くないのか」
手がふと止まる。
全市は「おいしいもの」が好きだ。けれどそれもごくごく最近知った感覚だった。
叩き込まれていた食べたいもの、食べたくないものをつくらないという思考を放棄したのだ。
それは誰にも言っていない。
眼鏡の奥の目が笑っている。今はそれでいいと思う。
「いや。うまいよ」
おいしいと思う食べものを食べているとき、旋律がとなりにいたことに気づく。
止まったままの手が、指先が、じわじわと冷えていった。
「そうだろう。ここのラーメンはうまいんだ」
「
……
うん」
ほとんど独り言のように頷き、麺を啜る。
全市が思う「食べたいもの」「食べたくないもの」を意識しはじめると、今度は「ほしいもの」「ほしくないもの」を考えるようになった。
月岡の家で禁忌とされていたものが、全市は手に取るようになったのだ。
それは禁断の果実だった。
「
――
うまい」
と、全市は囁いた。
七億不思議が燃えている。
悲鳴をあげるものもいれば、黙ったまま燃えるものもいた。
熱いとはどんな感覚なのだろう。
身を焦がすほどの恋とは、どんなものなのだろう。
恋のうたを口ずさんでも分からない。中身のない
ことば
やまとことのは
でも、祓うための力は発揮するようだった。
ほかの月岡家の人間や花筏家は言霊で祓えるというのに、全市だけは言霊で祓うことはできなかった。家の人間から母の不貞を疑われたほどだ。だから母は全市に今もいい感情を抱いてはいないだろう。母の目を見れば、ひとの感情に疎くともそれくらいは分かる。
家族愛など、全市には興味はなかった。
それを月岡家が望んだことなのだろうから、それでいい。
「おーい全市、マシュマロ食うか。焼いたやつ」
串に刺したマシュマロを持っている旋律の顔はいつも通りだった。
七億不思議を焼いた炎で食べものを焼くなんて思いもよらなかったが、何べんかくり返しても腹を壊さないようなので、全市もそれを容認した。
明るい髪色が、電灯の灯りできらりと輝く。
串に刺したマシュマロはとろりと溶けて、あつくて、あまくて、おいしかった。
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