たかさき
2024-04-14 22:47:32
8052文字
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謹賀新年

FF7VC/R-18
献上

 思えば、その日のクラウドはいつもと何かが違っていた。

 厳かな聖夜が明けて、新年を迎えようという華やいだ空気の中。
 星の旅が終わるとされる一年の最後の日は、ティファの店にかつての仲間らが集まってパーティーを催すことが例年の習慣となっていた。夜通し騒ぐ宴のために、朝から皆が掃除だの買い出しだのと、忙しなく動き回っている。
 ヴィンセントはティファやユフィから受けた指示を淡々黙々とこなす中で、何やら奇妙な違和感を覚えていた。が、それが何なのかがはっきりしない。買ってきた大量の食材や酒瓶をキッチンへと運んで倉庫から大きいテーブルを運び出して配置を変えて椅子を並べ終わってもその違和感は去らなかった。どうにも胸中がざわついて、首筋のあたりがちりちりとする。喉が渇きを訴えて、これくらいはかまわないだろうとバックヤードに積んである木箱からエールを一瓶取り出し、部屋の隅の椅子に腰を下ろす。準備が一段落したのか、皆も食卓の周りの椅子にめいめい腰かけて、談笑しながら部屋の飾り付けに使うあれこれを箱から取り出していた。
 やや温いエールが喉を通り抜けたとき、ヴィンセントは違和感の原因に、ようやく気が付いた。
 マリンに手ほどきを受けながら、俯き加減に、飾り付けのための青と赤のリボンをより合わせているクラウド。彼と今日一日、会話はおろか、視線すら一度も合わせていないということに。
 それは偶然ではなかったはずだ。朝から何度も肩が触れ合う程度のすれ違いはあって、いつもならその度に目や声を交わすことが自然だったのだから。
 勿論、ヴィンセントが避けているわけではない。とすれば、クラウドが意識的に避けているのだ。他の連中には普段と何も変わらず接しているのに、ヴィンセントにだけは目も合わせず、声もかけない。
 クラウドの気に障るようなことを、何かしただろうか。酒瓶を傾けながら、この数日間の出来事を一通り思い返してみるが、心当たりは何もない。
 違和感はそこにあった。クラウドはひどくナイーブな青年だ。もし何か気に障るようなことをしていたとしたら、そもそも視界に入る距離になど近寄ってこないだろう。
 目の端に映る位置にいながら目も合わせようとしない彼に、何故こんなに心がざわつくのか。
 生温いエールを飲み干して、ヴィンセントは立ち上がった。喉の渇きは続いていたが、夜の宴のために買い込んだ酒を二本も三本も今飲むのはさすがに気が引ける。冷たい風にでも当たろうと、一人外に出た。
 マリンの、そうそうクラウド上手だよ、という声が後ろで聞こえた。

 * 

 夜も深まる頃。
 バレットの乾杯から始まった宴は未だお祭り騒ぎが続いていて、静まる気配は一向にやってこない。
 シドの長い話に静かに相槌を打ちながらも、ヴィンセントはクラウドの気配を探っていた。
 クラウドはヴィンセントの隣に座っていた。しかし、ヴィンセントには背を向ける形で、ティファやバレットの会話に加わっているので、表情は何も見えない。その上バレットの声がいつも以上に大きくて、クラウドだけじゃなくティファの声すら聞こえてこない状態だった。最も、話の内容はマリンがいかに素晴らしい天使であるかという微笑ましい内容だったので(時々泣いているのも聞こえた)、ティファもクラウドも笑いながら黙って聞いているに違いないとは思ったが。
 やはりというか、あれからクラウドはヴィンセントに対して話しかけることも、目を合わせることもしてこなかった。
 パーティー自体は楽しんでいるようだし、声も態度も、いつもと違うようには見えない。おかしいのはあくまで自分に対する態度のみのようだった。
 向こうからやって来たユフィが、シャンパングラス(中身はりんごジュース)片手にクラウドの肩に手を回している。以前のクラウドであればそういうのを嫌がっただろうと思うが、宴の雰囲気も相まってか、彼は拒否することはしなかった。
 ちり、と喉がやけつく。エールを流し込んでシドの話に耳を傾けようとするが、集中できそうにもなかった。
 拒絶するような態度をとっておきながら、それなら何故、今も隣に座っているのだろう。それが気になって仕方がない。クラウドが複雑な内心を読ませようとしないのは、以前も今も変わらないことだ。それはヴィンセントにとって、クラウドから目を離せない理由の一つでもあった。

「それでよぉ、そんときシエラのやつがよぉ、……んん?」
 話の途中でシドの表情ががらりと変わるのを待つまでもなく、ヴィンセントは何事かと振り向いた。
 突然、左腕がぐいと引っ張られたかと思えば、そこにクラウドが顔を俯けたまま、両腕でしがみつくように掴んでいたのである。
 どうした、と声をかける間もなく聞こえてきたのは、いつになく頼りない、か細い声。
……気持ち悪い。吐きそう」
 そう言って俯く背を咄嗟に抱いて立ち上がったが、同時に疑問も浮かぶ。彼はそんなに飲んでいただろうか。こんな場でも羽目を外してはいなかったし(そんな性格の持ち主でもない)、無茶な飲み方だってしていなかったはずだ。確かにテーブルの上には空のグラスがいくつも転がっていたが、どれがクラウドのものなのかは判然としなかった。
「えっ、クラウド、どうしたの?」
「あぁ? おいどうした、大丈夫か?」
 一拍遅れてクラウドの様子に気付いたティファとバレットがざわつき始める。
 近くにいるバレットが手を伸ばそうとしたのを見て、それを払うようにヴィンセントがクラウドの肩を引き寄せたのと、クラウドがヴィンセントの腕にしなだれかかったのは、どちらが先だったか。
「クラウド、歩けるか。向こうで休もう」
「ん……
 俯いたまま顔を見せない彼の耳元に口を寄せると、力のない返事が返ってきたので、ヴィンセントはクラウドを脇に抱えるようにして歩き出した。クラウドは多少覚束ない足取りで、それでもヴィンセントの腕を離すことはしなかった。
 
 * 

 キッチンの奥にあるバックヤードはしんとして暗く、足元に冷やりとする空気が漂っていた。
 皆が集う部屋とは一枚の壁が隔てているだけなのに、お祭り騒ぎの喧騒もどこか遠い別の場所のように聞こえるから不思議だ。
 心地のいいソファや椅子はないものの、さっきまで大量の食材が入っていた木箱や麻袋があったので、クラウドを休ませるのには十分だろうと考えた。俯いたままの顔を覗き込もうとして、顎に手をかける。熱っぽい吐息が彼の口から漏れた。
「クラウド、ここで暫く休めばいい。今、水を取ってくるから――?」
 クラウドがすっと顔を上げる。アイスブルーの瞳はこちらをひたと見据えていた。今日ようやく見ることができた彼の表情はいつもと変わらないようで、今まで見たことのないもののようでもあった。その瞳に僅かな軽蔑を滲ませて、小さく首を傾げて見せる。
「嘘だよ。まさか、信じた? 元タークスのくせに」
 口調もさっきの弱々しいものとは打って変わって、いつもの冷静な感じに戻っている。よく見ると、ふらついていたはずの足も、何の支えを必要とすることもなくしっかりと立っていた。
 ヴィンセントは一つ瞬きをする。訳が分からなかったが、考えるよりも前にひとまずクラウドの体から離れようとした。ちゃんと立っていられるなら、過剰に彼に触れるのは失礼だという意識があったからだ。
 けれども、クラウド自身がそれを許さなかった。引こうとしたヴィンセントの手を掴み、自分の唇に触れさせる。
「クラウド……?」
 瞳はヴィンセントを見据えたまま、クラウドは掴んだ手を下へと滑らせた。首筋へ、胸へ、体のラインをなぞらせて腰へと導いていく。
「俺は嘘つきだって、アンタはよく知ってるだろ? ……ああ、それとも、」
 掴んだ手に自身の腰を抱かせながら、クラウドは両腕をヴィンセントの首へと回す。胸から腰までぴたりと密着した体は既に熱を持っていて、固く膨張した形が布越しでもはっきりと分かるほどだった。
「やっぱり酔ってるってことにしておこうか? アンタがそっちのほうが都合がいいって言うなら、そうするけど……?」
 腰をゆっくりと擦り付けながら、鼻先が触れ合う距離で、クラウドは睨み上げるようにヴィンセントの目を覗き込んだ。いつもと同じだったはずの表情を緩ませて、まるで本当に酔っているみたいに眦を下げて湿った息を吐いてみせる。それでも、どこか傷ついたような目をしているように見えるのは、果たして気のせいだろうか。何故か今になって、強烈な喉の渇きを覚える。
 ヴィンセントは目をすっと細めた。腹の底で何かが唸りをあげているのが分かる。それにこれ以上、頭だけで考えるのはもはや面倒だった。
 衝動に任せて、クラウドの腰を強く引き寄せる。あっ、とクラウドが呻いたが、気にかけることもなく、ガントレットを装着したままの左手でクラウドの片足を担ぎ上げ、より深く密着した腰の更に奥をぐい、と突き上げる。何も考えずにそれを数回繰り返して体ごと揺さぶってやると、クラウドの見上げる瞳がみるみるうちに潤んで、揺らめいた。
「ヴィンセ…………ッ」
「随分と煽ってくれるな。――後ろを向け、時間がない」
 自分から押し付けてきたのだから、クラウドもヴィンセントの体がどう変化したか、すぐに分かったはずだ。クラウドの薄い唇が何か言いたげに動いたが、結局何も言うことはなく、黙ったまま素直に背を向けた。自分でベルトを外し、下着ごとズボンをずり下ろして――尻をヴィンセントのほうに突き出し、そればかりか、自分の指で穴を広げてみせた。視線は恥ずかし気に、斜め下に向けられたまま。
 目の前に火花が散る。首筋が焼け焦げるかと思った。
 彼は本当に酔っていないというのか、これで。
 全ての思考を放棄してただ欲望の赴くまま貪りたいという本能に駆られ、猛った自身を手早く引きずり出すと、目の前の腰を掴んで一気に挿入させる。
「ぁ――……あ、あぁアッ!」
 途端に柔らかく濡れた肉が咥え込むように蠢いて、欲望を抑えることなど完全に頭からはじけ飛んでしまった。
 思うさま、固く膨張しきったモノでがつがつと突き上げる。その度にクラウドはしなやかに背を反らせ、まるで助けを求めるように壁にすがりついて甘い声をあげ続けた。逃がすものか、という思いが湧き上がり、跳ねる体を両手で抑えつけて首の柔らかい部分に噛みつくと、喉を反らして一際甘い声をあげた。
「ヴィ、セ……っ、ヴィンセント、ぁあ、ンッ」
「っ、自分で、準備したのか? それとも誰かにさせたのか」
――! そんなこと、させるわけ、な……ッ!」
 クラウドが腕の中で暴れ出す。抑え込む腕から逃れようとするのでより強く抱きしめると、暴れていた体から急にがくりと力が抜けた。そのまま崩れようとするのを抱き留める形で、後ろから抱え込む。クラウドがゆらりと、こちらを振り向いた。
「ヴィンス、もっと……、」
……クラウド?」
「もっと、奥まで、きて……
 半分閉じたような目で、熱を孕んだ目でじっと見つめてくる。それは懇願のようでも、命令のようでもあった。
 不意に笑いがこみ上げそうになるのを、喉の奥で噛み殺す。彼の命令なら、どんなものであっても、聞いてやってもいい。心底からそう思う。舌でちらりと唇を舐めて湿すと、さっき噛みついたときについたのか、錆の味が不思議と甘く広がった。
 中におさめていた自身をぎりぎりまで引き抜いて、また一気に奥へと突き入れる。
――ッ、は、ぁあ、そこ、ぉ、っ!」
 ぐちゃぐちゃと音を立てて絡みつく肉の奥を突き上げていると、ある場所でクラウドが体を大きくのけぞらせた。足をがくがくと震わせて、立つのもやっとという感じなのに、腰を自ら擦り付けて揺らしてくる。
「ここが、いいのか?」
「んっ、いい、気持ちい、い……もっと、ぉっ……
 二人ともはあはあと荒い息を吐きながら体をぶつけあって、そのまま中に全て吐き出したいと思ったとき、冷や水を浴びせるように、話し声が耳に飛び込んできた。
「あれぇ、クラウドは?」
「あぁ? さっき酔いつぶれてたような……
 はっとして我に返り、クラウドの口を右手で覆うと、クラウドは途端に嫌がり、苦し気に呻いて首を振った。宥めるようにさっき噛みついたところを舐めてやると、唇を震わせながらも、荒い息が徐々に治まっていく。それを確かめてから息を潜めて様子を伺うが、向こうはこちらの状況に気付いたわけではなさそうだった。
 安堵したところで、クラウドの体がぶるぶると細かく震えていることに気付く。壁に押し付けるような格好になっていたのを、上体をゆっくり引き寄せてやると、潤みきって蕩けたような瞳がこちらを向いた。二人とも胸を上下させて、吐く息はまだ乱れていた。
……ずっと、アンタとこうしたかったんだ、ずっと」
 クラウドが吐く息に紛れて、ぽつりと呟く。ほんの小さな声だった。ともすれば向こう側の喧騒に負けてしまいそうなほどに。
「それも、嘘なのか……?」
 問い返すヴィンセントの声も、低く小さかった。肯定されるのが怖かったからだ。もしそうなら、自分がこれ以上生きる意味はないだろうと思うほどに。
 クラウドは首を振ることも頷くこともなく、たった一言を口にした。
「キスして……ヴィンセント」
 名前を呼び終わる前に、唇を重ね合わせた。少々無理な体勢だったから、短く何度も触れ合わせて、その度に濡れた唇が水っぽい音を立てた。
「えぇぇ? もう年越しちゃうよ?」
「ボク探してきましょか?」
 皆の声がまた一段と大きくなる。心配をかけて誠に申し訳ない。そんな気持ちがないでもなかったが、ヴィンセントには目の前のこと以外に優先させるべきものなど、何もなかった。
 唇を合わせたまま、動きづらそうにしているクラウドの足から靴を脱がせ、足にまとわりつくズボンを剥ぎ取ってやると、クラウドは深い息を吐いた。上体を捻り、視線を合わせてくる。首の後ろへと手を回し、間近でじっと見つめ合った後、どちらからともなく再び唇を合わせた。今度は深く、長く。
「ん……ねぇ、まだ、足りない……
 髪の毛を弄るように引っ張られ、腰をねだるように揺らされて、ようやく唇を離すと垂れた唾液が糸を引いた。下を見ると、彼の性器はまだ芯を持って立ち上がっていて、透明な液体でぬるりと濡れていた。
 片足を左手で担ぎ上げ、より深くねじ込むと、胸を反らして甘い息を吐いた。落ちかかる瞼を閉じないまま、どこかぼんやりとして、いつもより幼く見える顔を見ながら、ゆっくりと揺さぶってやる。
「あ――、ヴィ、セ、ぁ」
「しっ、クラウド、静かに……
……ッ、……ッ、」
 さっきは何も考えず自身の欲望に先走ったせいか、今はそれよりもクラウドを気持ちよくしてやりたいという気持ちになっていた。いいと聞いたところを柔く突いてやると、足の指がぴんと突っぱねるように跳ねる。濡れた性器がぴくりと震え、粘液をたらたらと垂れ流していくのが興味深かった。唇が渇くのか、浅い呼吸を繰り返しながら舌で唇をちらりと舐める。そんなところを他の誰にも見せてはならないと思う。つい腰に力が入り、それが分かったのか、眉根を寄せて白い喉を反らす。緩んだ口元からは唾液が一筋垂れていた。
「あーもう! 間に合わないよ!」
「カウントダウン!」
 ちらと視線をやると、クラウドが半ば閉じた目で薄く笑うのが見えた。ヴィンセントを見つめながら、中をきゅうっと締め付けてくる。温かい肉壁が飲み込むように絡みついて、ヴィンセントは堪らず、熱い息を吐いた。クラウドも中でより固く膨らんだのが分かったのか、首に回された手にぐっと力が込められ、体を大きく波打たせた。
「3、2、1……ハッピーニューイヤー!」
 弛緩して揺らいだクラウドの体を抱えてやると、クラウドは両手で頬を挟み込んできた。小さく何かを呟いて、そのまま唇を合わせる。ちゅ、と音を立ててすぐ離れたので、追いかけるように合わせようとして、ふいと避けられた。
「おめでとうって、言わなきゃダメだろ」
「さっき言ってたのはそれだったのか」
「聞いてなかったのか? ほら、ちゃんと言って」
 おめでとう。二人で改めて口にして、もう一度キスをした。

 * 

「あっ、ヴィンセント! それにクラウドも、大丈夫? もしかして吐いちゃった?」
「ああ……そうだな、少し吐いた。今はもう大丈夫だ。悪いがタオルを貸してもらえるか?」
「分かった、待ってて。あー、ヴィンセントの服にかかったんだね、少し汚れてる」
 受け取ったタオルで、服にかかった白い液体を拭い取った。ティファも恐らく、かなり酔っているのだろう。これが何の汚れか、疑いもしなかったようだから。
「私たちこれから星祭りに行くけど、二人はどうする? クラウドは……あら。寝ちゃってますね」
「このまま寝かせてやったほうがいい。私もここで待つことにしよう」
「枕は動けないもんね。じゃ、行ってくるね。お土産買ってくるから!」
「え、クラウド寝てんの? ったくお子様だなあ、パーティーはこれからだってのに!」
「俺らも正直もう眠いぞ。何でお前らそんな元気なんだ意味が分かんねえ」
「そんなこと言うたらあきませんよ、まだこんな時間になっても働いてる人おるんですからねえ!」
「えっ……リーブもしかしてまだ……? うわあかわいそう……
 わいわいと楽しそうに喋りながら、皆は外へと連れだって行った。暫く話し声が聞こえていたが、それもやがて遠ざかって聞こえなくなった。
 クラウドはヴィンセントの肩にもたれかかって、すうすうと寝息を立てている。体のあちこちに跡を残してしまったから、見られないようにちゃんと赤いマントに包んでいる。シャワーも何も浴びていないから、クラウドの体の中にはまだヴィンセントの残骸が残ったままだ。
 静かになった部屋で、ヴィンセントはエールを一口飲み、ふうと溜息を吐いた。ようやく喉の渇きも治まった。
 それにしても、奇妙な一日だった。最後のあれは夢だったと言われても、そうだろうなと思ってしまう。それくらい、奇妙な出来事だった。
 カーテンを開けた窓から、星送りの舟が見える。夜空に向かって浮かべられる舟たちを、次は二人で見たいとクラウドは言い、ヴィンセントはそうしようと言った。クラウドの望むことはこの先いつまでも全て叶えてやろうと、夜空の明滅する星々を見ながらヴィンセントは静かに思ったのである。
 ふと、店のドアが開いた。とことこと控えめな音を立ててやってきたのは、ナナキだった。
 ヴィンセントはその足音に気付いて、振り向いた。
「もう帰って来たのか? 星祭りは」
「一通りは見てきたよ。きれいだったな。皆も楽しそうだったよ」
 まだ幼さの残る声でナナキは言った。足元にぺたりと座り、頭をヴィンセントの膝の上に乗せて(凶悪なブーツのトゲ部分はちゃんとよけて)、尻尾をぱたりと振った。
「次はヴィンセントとクラウドも、一緒に行こうね」
……ああ。そうしよう」
「ヴィンセント、クラウドの匂いがする」
 ふ、とヴィンセントは笑った。皆には隠せても、ナナキの鼻は誤魔化せるものではない。
「皆には、黙っておいてくれないか」
「うん。分かった」
 いつまでだろう。とナナキは思わないでもなかったが、素直に頷いた。そしてちらりとクラウドのほうを見上げる。
 クラウドが薄目を開けて、マントに包まる中で人差し指を唇に当てたから、ナナキはちゃんと、どちらも言わないでおこうと思ったのだった。