鯖織
2024-04-13 23:42:03
3626文字
Public
 

真面目 努力家 ショー人間

合作作品(20220831)
企画 司類セリフ交換合作企画 様(https://twitter.com/tkrichangewrite?s=21&t=le31zvb9aAjRZ67-UeqVtA)
テーマ 夏に関するSS

セリフ つきち 様(https://twitter.com/tukichi_tr?s=21&t=le31zvb9aAjRZ67-UeqVtA)
地の文 鯖織
セリフ→地の文の順で執筆。

 夏は日没が遅く、何をしていても空の色が変わらない。どんなに公演を繰り返しても青く清らかで、まるで時を止めたかのようだと司は常々思っていた。
 しかし、太陽が必ず沈み夜が訪れるように、「その日」は着実に近づいているのだ。司がそれを自覚したのは、夏休みも終盤に差し掛かったある日……二十四日のことだった。
「うわーーーーーーーーーーー!!」
 雷が落ちたかのような轟音が夜の天馬家に響き渡る。もしこの場にネネロボが立っていれば、騒音計の新記録を嬉々として皆に知らせたであろう。
 そんな騒音の発信源である彼、司の目の前には、真っ白な紙束が積まれている。一番上には「夏の宿題一覧」という文字が印刷されており、なんとその半数以上にチェックがついていなかった。

 宿題をやり忘れた。
 そんな時、司は現実逃避せずどうにかしたいと思うタイプであった。まさか間に合わないから諦めるなんて選択肢は選ばない。
 スマホを手に取り、一番上にある連絡先をタップする。

 ……そして類に送られた、とても必死な文面に反し何が起きたのか伝わらないメッセージ。
「夏休みの宿題をすっかり忘れていた、と」
 謎の危機に瀕する友人を助けたい。その一心で翌日改めて司の家へ向かった類だったが、彼の来訪に喜ぶ司の近くには紙の山。これをどうにかしたかったのか、と思わず苦笑いしてしまう。
「頼む、類! オレがわからないところだけでいいから教えてくれ!」
「それは構わないけれど……。ちなみに何が残っているんだい?」
 ゴールがわからなければ先には進めない。目の前の紙束を見るに、少なくともワークは終わっていないことが窺えるが。
「ワークが五教科」
「うん」
 当たったな、と内心複雑な心境になる。
「自由研究」
「うん」
 また時間のかかりそうな宿題を残したものだ。
「感想文。課題図書はまだ読めていない」
「あ〜、うん」
 課題図書。類は普段の司の読書スピードをなんとなく覚えているが、読み切れるかさえ疑問だ。
 ここまで聞いて、類は冷静な表情を保てなくなってきた。
「感想画。これも課題図書はまだ読めていない」
「うーん」
 まさかの2冊目。
「あと英語の書き取りが全日分」
……
「以上だ!」
 これ以上があったら見てみたい。そういうレベルの残り具合だった。
「司くん、今日は何日か知っているかい?」
「八月二十五日だ」
「夏休みは何日まで?」
「三十一日だ」
「つまり、夏休みの残りは?」
「今日入れて七日間……だな……
――夏休み何をしていたんだい?」
 改めて確認してもやはり凄まじい有様だ。ワークに書き取り自由研究、トドメに課題図書2冊。そして残り時間は1週間。
 あまりにも隙のない布陣に、類は純粋な疑問すら持ってしまう。
「ショーと、練習と、ショーと、練習と、宣伝公演と、観劇だな……。というか毎日類と会っていたから知っているだろう」
「そう。たしかにそうなんだけれどね。君の夏休みはよく知っているよ」
 夏休み中、会わなかった日の方が少ないだろう。
「あ! じゃあ類も宿題が」
「ワークしか残ってないよ」
 類にとってはワークなど、やれ筆記体は控えて欲しいだとか途中式を書けだとかちょっと面倒なルールがあるくらいで、他のことをしながら片手間で終わるものである。実質全て終わっているに等しかった。
「何故だ!?」
……計画性ってやつかな」
 それか忘れっぽくないことか。

「司くん、最初に一つ聞いておきたいことがある」
「なんだ?」
「宿題をなんとしても終わらせたい? それとも自力で出来る限りやりたい?」
 類が手を貸せば、筆跡を真似してある程度二人で進めることも可能だ。類の頭脳を考慮すれば二倍といわず十倍速にもなる。自由研究に至っては一日とかからず考察まで書き連ねることができるだろう。
「自力で全て終わらせる!」
 しかし、そんな甘美な誘惑を振り切るのが司であった。それどころか視界にも入っていないかもしれない。そういうところが天馬司なのだ、と類はふと思う。
「君らしいねえ」
「宿題が終わっていない場合は補習だからな……。なんとしても終わらせねば……
 類は普段よりいくらか噛み締めた言葉を漏らしたが、補習を恐れる司の耳には届いていないようだった。
「じゃあ、僕はこれから一週間の計画を立てるから――
「ありがとう! ありがとう、類!」
――君はひたすら英語の書き取りを進めてくれ」
「任せろ!」

 それから数時間して、ずっと静かにペンの音を響かせていた司がようやく声を発した。
「か、書き取りが一週間分終わった……
「おや、思ったよりも速いじゃないか」
 麦茶を飲みながら類がさっと目をやると、急いでいるとは思えない筆圧と文字サイズでしっかり英文が綴られている。
「手首が千切れる……
「ほら、計画表ができたよ。これに沿ってやれば、取り敢えず終わらせることはできるはずだ」
 黒鉛で若干黒くなった手を捻る司へ、手書きの計画表を見せる。司が時間をかけそうな英語のワークや課題図書のある宿題には時間を多く割いてあった。
「る゛い゛〜〜! 恩に着る! 礼はなんでもするからな!」
「言ったね? ……まあ、お礼の話は無事に終わってからにしよう」
「わかった! で、ついでというか……あわせてお願いしたいんだが……
「終わるまで毎日司くんの家へ行くよ。妙なところで躓いてしまっては元も子もないからね」
 補習が決まってしまうと、次のショーの完成度に影響するだろう。類としても必ず避けたい展開なので、困っている司に力添えするのは是が非でもなかった。
「ありがとう!! 本当にありがとう!!」
「フフ。僕も夏休みの最後に友人と宿題の追い込みをする、なんてことは初めてだからね。楽しみだよ」
 幼なじみや昔なじみとはこういうことをする関係性ではなかったし、端的にいうなら類にはずっと友達がいなかった。それが今では一緒にショーをして、自宅に呼んでもらえる友人がいる。
 類がしみじみしていると、「初めて」という言葉に反応したのか、司が肩を両手で掴んできた。
「これからは、いくらでも一緒に宿題をしような!」
「それは少し違うよ司くん」


 そして八月三十一日、空に浅く橙が混じり始めた頃。今まで動き続けていた司の右手がピタリと止んだ。
「終わったー!!」
 代わりに溢れるのは開放への喜び。
 通常一週間で終わらない量の宿題をハイペースで終わらせることは出来たものの、今日この時に至るまでに、この完成した宿題を見る先生たちには知り得ない、並大抵ではない努力があった。類は宿題の進度を半日おきに確認してスケジュール管理に努めていたし、当の本人もしばらく使い物にならないほど右手を酷使した。
「終わったね……もう二度とこんなことはしないでおくれよ……
……肝に銘じよう」
 疲弊困憊といった様子で類が口にするので、司も多大な反省をする。夏は有限であり、永遠ではないのだと。
「さて、明日から学校だし僕は帰――
「お、夕飯の支度ができたみたいだな。類の分もあるぞ」
 不意な言葉に類は虚を突かれた。
「え?」
「手伝ってもらっていることを話したら、母さんも是非お礼をさせて欲しいと言い出してな。それに咲希の宿題も見てくれたらしいじゃないか」
 司が自力で宿題を終わらせると言ったので、類はその補助としてお茶を取ってきたりして効率を上げていた。そうして7日間キッチンと司の部屋を往復していると、図らずとも司の家族とすれ違う。
「そんな大袈裟な……。咲希くんのも偶然通りかかったからヒントを伝えただけで、お礼をされるほどじゃあ」
「あ! そうか帰ったら夕飯があるもんな……
「いや、遅くなると思ったから家の夕飯は断ってあるけれど」
 英語の書き取りの時にも感じたが、司は類の予想を超える節がある。今日最後にやり終えた英語のワークの進度も同様で、スケジュールしていた終了時刻より早く終わったのだ。
 おそらくアメリカに行ったあの時から個人的な英語の勉強を続けていたのだろう。その影響が出ているのだと思われた。

 真面目で努力家で、そしてショー人間。そんな彼と友人になれてよかったと類は心から思うのだ。

「ならなおさらだ! 遠慮せず食べていってくれ! もちろんオレからの礼はまた別だ!」
 司が初日口にした「礼はなんでもする」という言葉は未だ有効らしい。
……そうかい? それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
 夏休み明け、まずは何を試してもらおうか。全てを超える司くんのことだから、きっと想像もつかない結果を見せてくれるに違いない。
 そうひとりごとを呟きながらニヤつきだした類の表情に、司は遠くない未来の自分へ合掌をして祈った。