HAZURE_Mapo
2024-04-13 23:28:20
3617文字
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雪合戦狂想曲

ノエルvs他のパーティーメンバーで雪合戦をする話。頭の中を空っぽにしてご覧ください。

「寒い!寒すぎる!」
 一同の心の声が雪の積もった広場に木霊した。
 ただし、一人を除いて。



 十賢者に関しての資料を探す目的のため、ギヴァウェイを訪れた光の勇者一同。
 しかし彼らが向かった先は、関連資料が保管されている街の奥にある大学ではなく、その手前に建っているノエルの家だった。
 暖色系の色合いでまとめられた一人暮らしには少し広く感じる室内。部屋に引かれた絨毯は厚みがあり、簡単には床に這う冷気を通さない。
 寒冷地に慣れていないパーティー七人は暖炉の前で押し競饅頭のように密着し、その中でも我こそが一番暖かい暖炉の目の前を陣取ろうとひしめき合っていた。
 ノエルはそんな様子を雪の妖精と称されるシマエナガのようで可愛いなと思い、自分用に淹れたコーヒーが入ったマグカップを片手に持ち微笑ましく眺めていた。
 しかし他の七人は、ノエルが何故こんなに寒い地域で涼しい顔をしていられるのかが不思議で仕方がなかった。
 すると暖炉の前にいた誰か一人の漏れ出した心の声が、他の六人に伝染した。

「寒さに平気なのは、あの上着のせいじゃないか……?」

 そうだ、絶対にそうだ!

 疑念が確信に変わった七人。
 なりふり構っていられない。
 一同はノエルの前に赴き懇願した。
「その上着、貸してください!」
 その様子にノエルはきょとんとしたが、手を顎に添え考る素振りをした後で了承した。
「いいですよ。但し、条件があります。
 私に雪合戦で勝てたら、この上着は差し上げましょう」
「雪合戦?ノエルさんと?」
 眉を歪ませながらクロードが問いかけた。
「えぇ、私と。一対七で構いませんから」
 有利すぎる条件に一瞬何か裏があるのではと思った一同。しかしそう思っても暖かいに違いない上着が欲しかった。
「わかりました。勝負しましょう!」
「そうと決まれば外に行きましょうか。家の前でやるのは他の方に迷惑がかかるので、広場でやりましょう。そこまで案内します」
 一同が玄関先に移動しようとした時、背後で喚く人物がいた。
「ワタクシはここから動きませんわよ!」
 声の主は暖炉の前からテコでも動こうとしないセリーヌだった。目の奥からはここから絶対に動かないという意志の強さが感じられる。
 これは駄目だと一同は諦め、セリーヌを置いて天国だった暖炉が似合う室内から地獄の白い世界へと足を運んだ。



 ノエルに案内され、ギヴァウェイ近郊にある広場に着いた一行。
 この周辺では雪合戦が盛んなのか、広場には本格的な対戦コートが既に用意されていた。対戦相手から身を守るための雪で作られた腰の高さぐらいの壁、シェルターと呼ばれるものが陣営を区切るようにして長めに一つ設置されている。さらに一人もしくは二人が屈んで隠れられるような長さのシェルターが両陣営の中央前方に一箇所、後方に並んで二箇所の計三箇所配置されている。
 下準備として使用する雪玉作りを全員でせっせと行う。しかし力を込めても中々雪が固まらない。この日は気温が平年より低かったため、積もった雪は多少の風でもふわっと舞ってしまい、雪玉作りには不利な気候だった。それでもノエルの雪玉作りのスピードは早かった。それはもう、魔法のように。

「さぁ、準備も出来ましたし、始めましょうか」
 ノエルから緊張感のない試合開始の合図が下された。
「よくわからないけど、とりあえずノエルさんに雪玉を当てればいいんだよね?行くよ、ギョロ、ウルルン!」
 先陣を切って前方シェルターから飛び出し、中央シェルターへと走り出すアシュトン。
 走りながら雪玉を思いきり投げるがノエルはそれをひょいと避け、

 ブンッッッッ

「いたぁっ!」
 ノエルが投げた豪速球はアシュトンの顔面に直撃し、思わず顔を手で覆う。
「あっ、すみません。久しぶりでつい気合いが入っちゃって。手加減するの忘れてました」

 ……何だ、今のは。

 アシュトンの後方にいる5人は目を疑った。
 あれは本当に自分達が知っているノエルなのか。
 もしかして、とんでもないヤツに勝負を挑んでいるのでは。
 冷や汗をかく一同だが、ここで引いても恐らくノエルはこの勝負を止めてくれない。それほどまでに彼から喜びと情熱が混ざったオーラが全身から漂っていた。
 しかしこの光景を絶好のチャンスだと考える人物が一人紛れ込んでいた。
「キャー!これはスクープよ!明日の一面は『動物学者、光の勇者一行に暴行し仲間割れ!』で決まりね!!」
 チサトが嬉々として叫びながらカメラを構えたその時、

 パアァァァン

「キャーっ!私のカメラ!!」
「チサトさん、駄目ですよ。そんな捏造記事を書いたら」
 雪玉はアシュトンの時より速度を増し、チサトのカメラに直撃した。
 「うっ、うっ……ボーナスで奮発して買ったカメラ……
 その場で膝を屈めてほろりと涙を流すチサト。
 しかし誰も慰めに入らない。入りたくても敵陣にいる微笑みながら豪速球を繰り出す菩薩がこちらの隙を今か今かと伺っているからだ。
「くっ……この勝負、楽勝かと思ったが手強そうだな」
 後方シェルターに背中を付け、苦い顔をしたボーマンが呟く。
 それに対して隣のシェルターに隠れているクロードが返答する。
「そうですね……ノエルさんにあんな一面があったとは予想外でした」
 アシュトンとチサトが抜け、陣営にはあと四人。
「フン……だったらこちらもそれ相応の球を投げればいいだろう」
 ディアスが前方シェルターから上半身を出し右腕を振りかざし、空気を切る音が鳴る勢いでそれを下す。
 その時、背後からレナとボーマンが身を乗り出し叫んだ。
「ディアスー!それ剣!!」
「む……?」
 ディアスの前にあった筈の前方シェルターは真っ二つに切られ、シェルターとしての役割を完全に失った。
 ディアスが持っていたのは雪玉ではなく、自身の愛剣だった。
 クロードは天を仰ぎ、頭を抱える。
 その瞬間をノエルは見逃さなかった。

 パァン
 パァン
 パァァァン

 ノエルから放たれた三つの雪玉は、シェルターからはみ出た三人をそれぞれまだらに白く彩った。
……すまない。いつもの癖が出た」
 雪化粧が施された長髪をふわりとなびかせながら後ろを振り返り、ディアスは謝罪した。
「たまにこういう事やるよな、アイツ」
「えぇ、それで和む時もあるからいいんですけどね。でも今じゃなくても良かったかなぁって……ふぇ、へ……ヘックチュン!」
 謝罪を受けた二人は服に付いた雪を手でほろいながら、ディアスと過ごしてきた日々をしみじみと振り返る。おまけでレナは寒さに耐えかねくしゃみをした。
 残るはクロードのみ。
 互いにシェルターから雪玉を投げ様子を伺う。クロードの制球はノエルほどではないが、比較的定まっている。スピードもそこそこ出ている。しかしことごとく避けられる。まるでノエルには投げた球が止まって見えているかのように。それにノエルは稀にシェルターを無視する鋭角なスライダーやフォークを投げてくる。そのため足場の悪い雪原を前後左右に大きく動かなければならず、クロードの体力をじりじりと奪う。
「この展開、どう打ち破ればいいんだ……
 クロードのこめかみから汗が流れる。
 動き続けていたせいで、いつの間にか体は熱くなっていた。
 しかしどこからともなく吹く風が流れる汗を冷やす。
 その風は徐々に強くなり、いつしか周りの雪を巻き込み視界が霞むほどの強風になっていた。
「前が見えない……!でもこの状況はノエルさんも一緒のハズだ。もしかしたら今がチャンス……!」
 クロードがそう考え右半身をシェルターから垣間見せた時、
「えっ」

バシィッッッッ

 ──数十秒後、風は身を潜めていった。
 脱落した五人は寒さに耐えるため身を寄せないながら勝負の行方を追っていたが、途中で吹き荒れた強風で目を開けていられなかった。
 収まったと感じた時に覆っていた瞼を開け確認すると、そこにはコート上で立ちすくむ二人がいた。
 二人とも全身に舞った雪を纏っていたが、クロードの右腕にはっきりと複数個の小さな雪の塊が離すまいとへばりついていた。

「勝負あり、ですね」

 クロードに近づき、ぽんと彼の肩を叩いてノエルは声をかけた。
……負けました、ノエルさん」
 クロードはうなだれたように呟いたが、さらに言葉を追加する。
「でもノエルさん、色々反則ですよ。何ですか、あの俊敏な動きと正確なコントロールは」
「さぁ…….私は自分の持っている力を出しただけですよ」

 この言葉を聞いた一同は悟った。
 勝てる訳がない、と。
 この勝負以降、彼らはノエルに対し以前より丁重に接するようになったとか、ならないとか。